映画備忘録。10月15日。
『ホロコーストの罪人』(2020年製作/126分/PG12/ノルウェー/原題:Den storste forbrytelsen/監督:エイリーク・スベンソン/出演:ヤーコブ・オフテブロ他/日本公開2021年8月27日)
第2次世界大戦時、ノルウェーの秘密国家警察がホロコーストに加担していた事実をもとに、あるユダヤ人家族が直面する悲劇と運命を描いたドラマ。第2次世界大戦中のノルウェー。ユダヤ人一家のブラウデ家はボクサーの息子チャールズが結婚し、幸せな空気に包まれていた。しかし、ナチスドイツがノルウェーに侵攻したことで状況は一変する。チャールズたちユダヤ人男性はベルグ収容所に連行され、過酷な労働を強制される。一方、残された妻や母たちはチャールズらの帰りを待ちながら、スウェーデンへ逃亡する準備も進めていた。しかし、1942年11月、ノルウェー秘密国家警察によってユダヤ人全員がオスロ埠頭へ移送される。そこには、ユダヤ人を乗せてアウシュビッツへと向かう船が待ち構えていた。(映画ドットコムから)
ノルウエー語の原題を翻訳ソフトにかけると「最大の罪」という訳が出てくる。
欧州全体で奪われた命に比し数は少ないとはいえ、ノルウエー侵攻の中で命を奪われたノルウエー在住のユダヤ人の悲劇をこの映画は「最大の罪」というタイトルをつけた。
「最大の罪」はナチスに向けられた言葉ではなく、ナチスに国の統治機構がまるごと迎合し、秘密警察をもってしてナチスの手先となってしまった自らの国の「大罪」に戦後76年を経ても向き合わなければならないとするエイリーク・スベンソン監督の、そして多くのノルウエー人の姿勢に粛然とする。
移民、難民問題の差別と抑圧構造は、80年前の悲劇と今も地続きだからこそ、こうした映画がつくられるのだろう。
日本では考えられない。欧州では今も年に何本ものナチスに関連した映画がつくられている。戦争や歴史の問題が、過去のものではなく、現在につながっているという意識が、映画や文学に携わる人々、ひいては良心的な民衆に根付いているということなのだろう。
映画のなかでの印象的なセリフ。
敬虔なユダヤ教の信者らにとっては、ユダヤは「ユダヤ教」であり、生きることと信仰はけっして切り離せない問題だ。
物語の家族の中の宗教に対する向き合い方が、この映画の大きなテーマになっている。
秘密警察のいわれのない抑圧に対し、息子たちはなんとかして抵抗、逃亡を考えるが、父親は「母親の云うことを聞け」「黙って従うしかない」と諦念の言葉で応える。
アウシュヴィッツまで移送され、年齢によって分断され、ガス室に送られる両親の姿は痛切だ。
途中で切れた鉄道の引き込み線。貨車から降ろされる人々。積むあげられる靴やカバン。実際にアウシュヴィッツに足を踏み入れたときの感触がよみがえってくる。
ボクサーの息子は戦後も生きのびたが、戦中の家庭生活を取り戻すことはできなかった。
戦争が「終戦」で終わることなどなく、人々の心の中でいつまでも姿かたちをかえて棲み続けることは、日本でも同じことだ。