映画備忘録。
9月29日、kiki
の1本目。
『太陽の子』(2021年製作/111分/G/日本・米合作/監督:黒崎博/出演:柳楽優弥 三浦春馬 有村架純/公開:2021年8月6日)
柳楽優弥、有村架純、三浦春馬の共演で、日本の原爆開発を背景に時代に翻弄された若者たちの姿を描き、2020年8月にNHKで放送されたドラマ「太陽の子」を、ドラマ版とは異なる視点で描いていく劇場版。戦況が最終局面を迎えた1945年の夏。科学者・石村修と研究員たちは、国の未来のために原子核爆弾の研究開発を進めていた。建物疎開で家を失った朝倉世津は、幼なじみの修の家に住むことになり、戦地から修の弟・裕之が一時帰宅し、3人は久しぶりに再会する。戦地で深い心の傷を負った裕之、物理学研究の裏側にある恐ろしさに葛藤を抱えていた修、そんな2人を力強く包み込む世津は、戦争が終わった後の世界を考え始めていた。そして、運命の8月6日が訪れてしまう。修役を柳楽、世津役を有村、裕之役を三浦がそれぞれ演じるほか、田中裕子、國村隼、イッセー尾形、山本晋也らが脇を固める。監督は連続テレビ小説「ひよっこ」、大河ドラマ「青天を衝け」の黒崎博。(映画ドットコムから)
テレビドラマ版とは異なる視点で、というので見に行ったのだが、ぼうっと見ているせいか既視感が先に立ち、同じドラマを二回見せられているような気分だった。出演者も山本普也に至るまですべて一緒だったし。
異なる視点はよくわからなかった。
原爆の開発に関わった京都帝国大学の学生の物語。
演出はゆったりしていて役者はみな彫りの深い演技。イッセー尾形、国村隼、田中裕子・・・とりわけ田中裕子の演技はこの映画でもすごい。
原爆が落とされた広島を貨物列車で訪れ、扉が開くシーンもすごい。CGだろうが迫力がある。
時代考証もいい。開発実験の部分をのぞいて。
伝わってくるものが少ないのはなぜだか。
それぞれが抱える疑問、戦争や研究、原爆、未来…、それらがみな位相がバラバラで
現代の視点から当時の時代をとらえているものと、明らかに当時の時代をしっかりと映しているものと。
その最たるものが、「核兵器開発」に対するイメージの貧困。
現地ヒロシマを見て初めて戦慄する学生たち・・・・。これは事実なのか?
陸軍も学者も原爆の威力については熟知していたからこそ、お金も人材もかけたのではないか。
アメリカがマンハッタン計画に20億ドルの予算をかけて行われたのに対し、理化学研究所仁科芳雄を中心とする開発チームは20人程度の研究者たちによる開発だった。
このドラマの京都帝大もせいぜい10人ほどの学生たちだ。
その機材もあまりに貧弱だし、日米の開発競争とはいっても、そのレベルは大きく違っていたのではないか。
だからなのか、開発のバックボーンとなる原爆に対する思想的な問い詰めがあやふやでなにも伝わってこない。
どの登場人物が何をどう悩んでいるのかさえ曖昧模糊としている。
京都にも3発目の原爆が落とされるという予想から、石村修は比叡山に登って「観察」をするという。そのために母親に向かって「疎開してくれ」と頼む。
田中裕子扮する母親がこれに対し、
「化学者というのはそんなに偉いものか」と言い、
化学者の親として逃げるわけにはいかない、というシーンが唯一、印象に残っている。
三浦演じる修の弟裕之の悩み、有村架純が演じるいとこの世津、3人が3人とも演技はうまいのだが、今一つ情念のようなものが伝わってこないのは、性的なものを一切イメージさせないからか。
なんだか大きな空洞をかかえているような映画だった。