読み飛ばし読書備忘録⑯
『評伝 小室直樹』(上・下)村上篤直 ミネルヴァ書房 2400円+税)
昨年9月に出た本だが、価格が高いのと、総ページ数が合わせて1500頁近いため「ケン」を決め込んでいた。一年経って、そろそろ中古となって価格も下がっているかなと検索すると、「上」は4000円を超えている。かなり売れたはずだが、中古市場で価格が上がっているのは増刷はしなかったということか。
市立図書館で検索すると2冊とも出てきた。図書館の本ならば何とか読み切れそうだ。
そう思って1か月、今日が返却予定日。ようやく上下ともに読了。
読みながら唸り続けた。
1932年(昭和7年)生まれ。私とのたった一つの共通点は、同じ高校を卒業しているということだけ。
何十冊も出ている本の一冊も読んだことはない。
なんとなく耳に残っているのは、とびぬけた変わり者、博覧強記の天才、総理大臣になる、ノーベル賞を取ると公言して憚らない大言壮語の人、といったことだけ。
最後まで読んだが、途中の講義や論文に関わるところは読み飛ばした。
それを読み飛ばしても、この人の人生を俯瞰するのは面白かった。こんな人物、見たことがない。すさまじい生き方。
何より驚くのは、亡くなって8年しか経っていないのに、こんな大部の評伝が出てしまうこと。
わたしでも名前を知っている大澤真幸さん、宮台真司さん、橋爪大三郎さんといった社会学の碩学が皆、この小室直樹に心酔し、今でも敬慕していること。
京都大の数学に入ってから研究、渉猟した学問の分野で(書き出しても私など想像もつかないが、経済学を筆頭に、法社会学、比較宗教学、線型代数学、統計学、抽象代数学、解析学)無償で若い研究者に講義を続けた。
アカデミックな世界では成功したとは言えず、エキセントリックな発言でマスコミでは奇人変人扱いされた。
レーガン大統領との公式朝食会に招待され、貰って来たお酒を行きつけのスナックにボトルで入れてしまう。
お金がどれだけ入ろうとも、アパートの幾つもの部屋を借り切って、ネコとともに本と酒に埋もれながらこれ以上ないほどの不潔感を漂わせるおかしなおじさん。
それでも、周囲の人に愛されるのは、上昇志向がなく、正直でやさしいから。
評伝2冊読んでも、うまく全体像は伝えられないな。
目次だけでも載せておこう。
橋爪大三郎編著『小室直樹の世界』から5年。もう一つの日本戦後史がここにある!
「小室直樹博士著作目録/略年譜」の筆者・村上篤直が、関係者の証言を元に、学問と酒と猫をこよなく愛した過激な天才の生涯に迫る。
会津士魂に生きた日本伏龍・小室直樹。上巻は征夷大将軍に憧れた柳津国民学校時代を皮切りに、サムエルソン成敗の誓い、社会科学の方法論的統合を目指した情熱と憂国。
伝説の「小室ゼミ」の誕生から拡大までを描く。
上 目次
はしがき
第一章 柳津国民学校 ―― 征夷大将軍になりたい
第二章 会津中学校 ―― 敗戦、ケンカ三昧の日々
第三章 会津高校 ―― 俺はノーベル賞をとる
第四章 京都大学 ―― 燃える“ファシスト"小室と“反戦・平和"弁論部
第五章 軍事科学研究会と平泉学派 ―― 烈々たる憂国の真情
第六章 大阪大学大学院経済学研究科 ―― 日本伏龍 小室直樹
第七章 米国留学、栄光と挫折 ―― サムエルソンを成敗する!
第八章 東京大学大学院法学政治学研究科――社会科学の方法論的統合をめざして
第九章 田無寮 ―― 学問と酒と猫と
第一〇章 社会指標の研究 ―― 福祉水準をどう測定するか
第一一章 小室ゼミの誕生と発展 ―― 君は頭がいいなぁ、素晴らしい!
第一二章 一般評論へ ―― 日本一の頭脳、四四歳、独身、六畳一間暮らし
第一三章 小室ゼミの拡大 ―― 橋爪大三郎の奮闘
第一四章 瀕死の小室 ―― すべては良い論文を書くために
第一五章 出生の謎 ―― 父はマルクス、母はフロイト
注
あとがき 小室直樹試論 ―― なぜ小室直樹はソ連崩壊を預言できたか
小室直樹著作目録
人名・事項・猫名索引
橋爪大三郎編著『小室直樹の世界』から5年。もう一つの日本戦後史がここにある! 「小室直樹博士著作目録/略年譜」の著者・村上篤直が、関係者の証言を元に、学問と酒と猫をこよなく愛した過激な天才の生涯に迫る。
「検事を殺せ! 」。ロッキード裁判に憤る小室直樹。なぜ彼だけが『ソビエト帝国の崩壊』を予言できたのか。
ベストセラー時代と編集者たちの闘い。祖先、結婚、訣別、死。下巻が明らかにする、知られざる人生の全貌。
下 目次
はしがき
第一六章 おそるべし,カッパ・ビジネス――俺はマスコミに殺される
第一七章 ‟旧約"の時代と‟新約"の時代――奔走する担当編集者たち
第一八章 田中角栄――検事を殺せッ!
第一九章 対話――危惧、矜持、疑問、痴態、怒号、憧れ、感動
第二〇章 小室ゼミの終焉――最高のティーチャー
第二一章 スナック・ドン――野良でも、血統書つきでも、猫は猫
第二二章 日本近代化と天皇――方法論学者(メソドロジスト)の本領発揮
第二三章 誰も書けなかった韓国――‟新約"編集者たちの活躍
第二四章 昭和天皇――神であり、英雄である
第二五章 結婚――おれの嫁、覚えててくれ
第二六章 死、訣別、そして再会――寄る年波に抗えず
第二七章 『原論』の時代――いい本は、最低限10回は読みなさい
第二八章 晩年――人生は短い
第二九章 会津彷徨――ある会津藩士の記録
第三〇章 没後――学恩に報いる道
注
あとがきにかえて――私にとっての小室直樹とは
小室直樹略年譜
人名・事項・猫名索引