【見逃し映画と暇つぶし読書の覚え書き①】『寝ても覚めても』ほか。

  【見逃し映画と暇つぶし読書の覚え書き①】
 
イコライザー』(2014年・アメリカ・132分・原題:The Equalizer・監督アントワン・フークア・主演デンゼル・ワシントン★★★

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 アメリカ映画のヒーローものの典型。最後までしっかり楽しませてくれる。ホームセンターで働く主人公マッコールは、元CIAの辣腕諜報員。夜中にカフェで知り合った娼婦の少女テリーをいたぶるロシアンマフィアを徹底して叩き潰す。ただそれだけ。


 マッコールの日常は、清貧でストイック、静かに淡々とした生活。お金もお酒も、女性の影もない。仕事が終わるとまっすぐ独身の部屋に帰るが、不眠症のせいで、深夜のカフェへ出かけ読書をする。このへんがデンゼル・ワシントンの静かな渋さがよく似合う。こういうのが今のアメリカでは受けるのだろうか。


 こうした日常のマッコールと、たった一人で敵と渡り合い、徹底的に潰していくマッコール、それもかなり残虐なやり方なのだが、その対比がよくできている。布石となっているホームセンターの同僚との関わりも面白く解かれていく。


 ただ、デンゼル・ワシントン、少し歳をとりすぎているか。アクションがあまりに無駄なく凄すぎる。昨年公開された「イコライザー2」はどうなのだろうか。(Amazonプライム


 
 『監視者たち』(2014年・韓国・118分・原題:COLD EYES・監督チョ・ウイソク・出演ハン・ヒョジュソル・ギョング)★★★

https://youtu.be/BKtOFQxzjAk


 特殊犯罪課の監視班と武装犯罪グループの攻防。何の説明もなく始まる冒頭。ハン・ヒョジュ演じる新人の捜査員のテストとわかるのは十数分経ってから。この冒頭のシーンが緊張感と迫力がある。

 

 このシーンで監視対象者役を演じる監視班の班長ソル・ギョングは、『1987年 ある闘いの真実』『シルミド』にも出ているが、いい役者だ。この映画の中だけでも演技力の高さがよくわかる。

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物語の中心は、新人ハン・ヒョジュの美貌と並外れた記憶力、分析力、観察力だが、ソル・ギョングの演技が映画としての格をあげている。最後まで楽しめた。(Amazonプライム

 

寝ても覚めても』(2018年・日本・119分・監督濱口竜介・出演東出昌大唐田えりか)★★★★★

https://youtu.be/PkfTvhZ5XuQ


 見逃し映画の中でも最たるもの。8月にららぽーと横浜まででかけたのだが、前日の上映時間で行ってしまったため、時間が変わっていて見られなかった。シネコンというのは毎日のように上映時間が変更されることを再認識した。代わりに見たのが『検察側の罪人』だった。


 久しぶりに邦画で、映画の新鮮さと可能性のようなものを感じた映画だ。

 どういうシステムでそうなるのかわからないがこの作品、『万引き家族』とともに2018年のカンヌ映画祭のコンペ部門に出品されたのだとか。どこかでこの映画を強く評価する動きがあったということだろう。

 そこで日本ではどうだったのかと、ネットで「日本アカデミー賞」の受賞一覧を見てみた。この賞に興味も関心もないけれど、どんなふうに扱われているか見てみたかった。なんと、どの部門にもはノミネートさえされていない。『北の桜守』が作品賞の5つのうちのひとつに入っていて、この映画がどこにも引っかからないというのは、正直理解不能。『万引き家族』が8部門を受賞しているこの賞。よくわからない。

他の映画賞はと調べてみると、

第42回山路ふみ子映画賞 山路ふみ子映画賞濱口竜介
山路ふみ子新人女優賞唐田えりか

第10回TAMA映画賞 最優秀作品賞
最優秀男優賞(東出昌大
最優秀新進女優賞(伊藤沙莉

第40回ヨコハマ映画祭 作品賞
監督賞(濱口竜介
主演男優賞(東出昌大
助演女優賞伊藤沙莉
最優秀新人賞(唐田えりか
撮影賞(佐々木靖之)

第92回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・テン第4位
読者選出日本映画ベスト・テン第4位

おおさかシネマフェスティバル2019 日本映画 音楽賞(tofubeats

第28回日本映画プロフェッショナル大賞 監督賞(濱口竜介
ベストテン第2位

となっている。


 恋愛映画である。東出昌大、好演である。麦という一風変わった男性と亮平という常識的で心やさしい男性のを一人二役で。こんな魅力的な役者だとは思わなかった。『桐島、部活をやめるってよ』(2012年)はとってもいい映画だったが、東出についてはそれほどとは思わなかった。

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 朝子役の唐田えりか。ほとんど表情を出さないが、揺れ動く気持ちが妙に迫ってくる。冒頭の二人のキスシーンが印象的。今までにないシーンだ。


 いい映画は説明しにくい。ラストシーン。消えてしまった麦と別れて数年後、朝子は亮平と会って恋愛関係になるのだが、亮平の転勤のよって結婚するかに見えた二人の前に麦が突然現れる。レストランである。麦が黙って差し出した手を、朝子は握って二人は出奔する。

 これがラストシーンでも映画は成立する。

 しかし、東北に向けて走る麦の車の中で、亮平への決別を口にした朝子は、仙台の被災地近くの海辺で「やっぱり麦とはいけない」。

 一人で大阪に戻って亮平のもとに。しかし亮平は朝子を受け入れない。そして・・・。とにかく何度も裏切られる。亮平ではなく観客が。

 これで決まりだろう、と思っているとひっくり返される。二人で飼っていた猫を亮平は「捨てた」という。猫を探す朝子。亮平を追って玄関まで行くと、ドアが開く。中から亮平が猫を差し出す。ドアは閉められる。拒否?

 しかし、朝子がノブをひねるとドアはあいている。二階に上がる朝子。

 亮平のことば「おれは、一生お前のこと信じられへんで」。これがラストシーン。


 人を愛するとか好きになることの不確実さ、それでも突き進んでいかざるを得ない思い。全く順接しない感情のぶつかり合いがリアルな恋愛関係を紡ぎだす。

 こうしたアンビバレントな関係なんて、たぶん私たちの日常にはありふれているのだろうけれど、ドラマで描かれるのはそうしたものをきれいにそぎ落として、このへんでどうでしょう?これなら満足?といったものになりがち。

 そうした奇麗な「物語」に仮託したくなるのも人間の常。
 

 でも実際には「一生信じられへんで」で生きていく関係もありだろうし、そもそもそんなみなそんなに信じ合って生きているのだろうか。そう考えると、この映画のもつ新鮮さ、新しさの意味が見えてくるような気がする。(TSUTAYSA)