『偶然と想像』演劇的、小説的な言葉とやり取りの面白さは抜群。意表を突く脚本。楽しめた。

映画備忘録。12月22日。kiki。

『偶然と想像』(2021年製作/121分/PG12/日本/脚本・監督:濱口竜介/出演:古川琴音 中島歩 玄理(ひょんり) 渋川清彦 占部房子 河井青葉 /2021年12月17日公開)

 

 

 

人気の濱口竜介監督だが、神奈川県内での封切りは横浜のシネマ・ジャック&ベティとあつぎのえいかがんkiki の2館のみ。全国を見てもシネコンではやっていない。言い換えると、各地の名画座・単館系がこの映画を高く評価しているということだ。

前作『ドライブ・マイカー』を観たのは、TOHOシネマズららぽーと横浜。わざわざ出かけて行ったのだが、その後、地元のグランベリーパークの109シネマズでも公開された。今ようやく単館系での上映になっている。

かたやカンヌ映画祭脚本賞はじめ4賞を受賞したというのが利いているいるのだろうが、映画としてはそれほど大きな違いはない。どちらも濱口竜介という作り手の独特の方法と思いがしっかり詰まった作品。

3はなしのオムニバス方式。

 

一話めは、モデル、マネージャー、モデルの元彼カレめぐる男女3人の恋愛模様。言葉のやり取りが新鮮。タクシーの中、元カレの事務所、喫茶店と3つの場所がそれぞれ独特の演劇的な空間となって、その中を表情を込めない乾いたセリフのやり取りが続く。「ドライブ・マイカー」と通底している。古川琴音の存在感がすごい。画像1

 

 

二話は、学生と学生主婦が大学教授に仕掛けるわなを描く。大学教授役の渋川清彦に不満が残った。棒読み状のセリフ回しが今一つ効いてこない。3話のうち最もエロティックで物語性の強い作品。玄理は『スパイの妻』(2020)『最初の晩餐』(2019)にも出ていたというが、あまり印象はない。この映画で主婦学生の気持ちの揺らぎがうまく表出されていたと思う。画像3

三話めは、仙台を舞台に旧友との不条理な再会を描いている。同級会を終えて東京に帰る占部は、駅のエスカレータで偶然河井を見かける。互いに「懐かしい」を連発し、河井の家で旧交を温めようとするが、会話が進むうち、話が噛み合わなくなる。互いが考えている相手ではないことが判明するが、二人はその相手に成りすまし、ルールプレイングのような会話を始める。画像7

 

それぞれテーマらしきものはあるが、浮き出てくるのは、都会的な渇きと空疎さだろうか。肉感的に捕まえきれない、握っても握ってもするッと抜け落ちてしまうような生きているという実感のなさだろうか。

 

『ドライブ・、マイカー』では、ラストシーン近くで北海道でのシーンで主人公が嗚咽するシーンがあったが、この3話にはそうした「展開」はない。

演劇的、小説的な言葉とやり取りの面白さは抜群。意表を突く脚本。楽しめた。