横響、オールベートーヴェン・プログラム 若々しさがぶつかり合う「皇帝」。指揮、オケ、渾身会心の第七番。

    2月13日、横浜交響楽団の第692回定期を神奈川青少年センター・紅葉坂ホールで聴いた。

    オールベートーヴェン・プログラム。指揮はすべて鈴木衛。外連味のない思い切った指揮が小気味よい。

   最初の曲が『劇付随音楽「アテネの廃墟」序曲』。1812年2月9日の初演。今から207年前のこと。ナポレオンのロシア遠征の頃のことだ。初めてオケで聴く。

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ベートーヴェンの写真は現存していない、だから②へ。

 

   youtubeでは、カラヤンベルリンフィルのオケ版も出てくるが、多くはピアノ版のもの。中でも第5番の「トルコ行進曲」だけを取り上げたものが多い。モーツアルトのものが有名だが、これも「あ、これか」というよく知られた曲。もともとがピアノ曲だと思っていた。


 トルコの支配によって荒れ果てたアテネの惨状を女神ミネルヴァが目の当たりにするシーンから始まる序曲。暗く不吉な低音から入り、オーボエのソロに導かれて華やかな雰囲気で終末に向かっていく。このオーボエ、アマチュア楽団とは思えない自在さ。部分的にはオーボエ協奏曲のような様相。団員なのかエキストラなのか、不明。


 第二曲。ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」。1810年初演。ピアノは石坂奏、1995年生まれの新進のピアニスト。マエストロの演奏とは違って、若々しさがぶつかり合うような初々しい演奏。オケもそんなピアノに負けずに鈴木に引っ張られて最後まで緊張が途切れなかった。いつ聴いても、小気味のいいコンチェルトだが、なんと言っても石坂の輪郭のはっきりした力強いピアノに惹きこまれた。

 ナポレオンをイメージさせる「皇帝」という曲名は、ベートーヴェンが付けたものではない。

f:id:keisuke42001:20190221150106j:plainベートーヴェンが見たら怒る?

ベートーヴェンとほぼ同世代の作曲家兼ピアニストであり楽譜出版などの事業も手がけていたヨハン・バプティスト・クラーマーが、雄渾壮大とか威風堂々といった当楽曲で抱いた印象から付与したものといわれ、ベートーヴェンの死後、主として英語圏で定着した」(wikipedeia)と言われる。

 

 ナポレオンがウイーンに攻め込み、おかげでパトロンたちが逃げ出してしまい、不自由な生活を強いられたベートーヴェンからすれば、最後のピアノコンチェルトとなるこの曲に、あえて「皇帝」とは名付けないだろう。だからと言ってだれもこの曲から「皇帝」というタイトルを外さない。もういい加減にとっちゃってもいいのに、と思うのだが。

f:id:keisuke42001:20190221150147j:plain「皇帝」の壮麗な出だし


 

 

 

 休憩をはさんで第三曲、交響曲第7番イ長調。初演は1813年12月。ベートーヴェン自身の指揮で行われたという。
 ベートーヴェン交響曲の中でも完成度が高く、変化に富み、掴んだら離さない強力な求心力をもった曲(と私は思っている)。CDやレコードで聴く回数からすると9つの交響曲の中で一番多いのがこの曲。8番と双璧。9番は別格。

 はたしてこの難解な曲を横響はどう演奏するのか。

f:id:keisuke42001:20190221150732j:plainこんな顔も。③へ。

 プレトークの中で鈴木は、繰り返し記号を全て演奏するので「40分を超えると思う」と話していたが、結果的に素晴らしい力演となった。

 鈴木のこの曲に対する執着ぶりがよく伝わってきたし、オケは鈴木に必死に食いついて離れず、大変な力を発揮した。

 それぞれの楽章が、特徴的なリズムを刻むが、3楽章までのストイックな感じが4楽章では、思い切りはじけた。こちらのカラダが自然に動いてしまった。まるでロックのようだった。

 

 鈴木は、これでもかというほどアクセルを踏み込み、オケも臆することなくそれに応えた。指揮とオケがこんなふうに幸せに結びつく瞬間は、プロの指揮者とアマチュアの楽団ゆえの醍醐味と云っていいのではないか。

f:id:keisuke42001:20190221150802j:plain③こんな顔も。④へ。


 鈴木がタクトを下げた途端、あちこちから「ブラボー」の声があがった。渾身、そして会心の演奏。

 必ずしも響きがいいとは言えないホール(ここは演劇には最適だが、オケ用の反響板が後方と側面にはあるが天井にない)にあって、そんなことはものともせず、最後まで演りきったベートーヴェンプログラム、聴衆は大満足で帰途に就いた。

 

 アンコールはなし。不満はない。打ち上げはさぞ盛り上がったのではないか?

f:id:keisuke42001:20190221150825j:plainこんな顔も。