バカッター問題に隠れて、今あるパート・アルバイトの労働問題や企業倫理の問題を忘れてはならないと思う。

 2月も半ば。久しぶりに海軍道路方面を歩いた。広大な畑が広がる散歩道には紅梅や白梅が静かに咲いている。

 30年近く住んだ港北区菊名から歩いて30分のところにある大倉山梅林も満開の時期だろう。

 

 東横線大倉山駅を降りて、線路に沿った急坂を7~8分ほど上ると、ヘレニズム様式の堂々たる建築物大倉山記念館(旧大倉精神文化研究所)が見えてくる。前庭はいくつものベンチがゆったりと配されている。菊名に住んでいたころ、ここが気に入って散歩の途中によく一休みしたものだ。横浜の公園としては、珍しくたたずまいが静謐である。

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  記念館からなだらかな坂を下ったところに梅園が広がっている。

  かなりの広さ(調べてみたら3000坪を超えるのだとか)に名前も聞いたことのないさまざまな種類の梅が植わっている。ちょうど今頃に梅まつりが開かれているはずだ。     琴の演奏が行われ、屋台が並び、さながら冬のお祭り。子どもたちと弁当を持って行ったことがあった。一度か二度ぐらいのことだけれど。

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 今、梅をわざわざ見に行こうとは思わない。ぶらぶらしているときに、ああここに梅の木があったんだ、ぐらいがいい。


 3年ほど前、秋に水戸の偕楽園を訪れたことがある。ここには梅の木がすき間なくぎっしり植わっている。春の時期には多く訪れる観梅の客同士、すれ違うのも大変だろうなと思いながら、閑散とした梅林を歩いたことを憶えている。花が咲いていなくても、梅林は静かな方がいい。

 

 今日の散歩で見かけた梅も、奥まったところに訪れる人もなく20本ほどの紅梅と白梅が人知れず咲いていて、よかった。

 

 


 くら寿司セブンイレブンなどでアルバイトのスタッフが不適切な動画をSNSに流した問題で、スタッフに対して賠償責任を求める動きが報道されている。
「民事、刑事で法的措置の準備に入った」との報道。親も含めて「高額な賠償金」が求められそうだという。


 動画を撮影し流した人たちをバカッター(バカとツイッターを合わせた?)、やったことをバイトテロというらしいが、そんな名前をつけなくても、昔からお調子者はどこにでもいる。やったこともそうだが、それを動画に撮って流すというのがわからない。目立ちたがりというかあさはかというか。

 

 会社がカリカリくるのはよくわかる。風評ではなく、明らかに衛生的には大問題であり、株価下落など実際の営業にとどまらない被害?につながっていることも事実だろう。


 でも、どうなのだろうか。単純に考えて、こんなことが簡単にできてしまうような会社のシステムの方が問題なんじゃない?とも思えるのだが。

 

 ついこの間までアルバイトの深夜のワンオペの問題から、恵方巻やクリスマスケーキの強制買い取り、大学の試験すら休ませるシフトの強制、一部の学校の部活動のような暴力的な上下関係など、ファストフード関連のアルバイトの問題が続出していた。

 労働組合に入って裁判までやった学生たちもいた。 

 私の授業でも、その時期に不当なアルバイト体験を訊いたことがあるが、賃金に比べて過剰な負担、あるいは賃金以上の労働、賃金の対象外の労働を強制されている学生が多いという印象をもったことを憶えている。

 

 アルバイトに店を任せなければ休みの取れない末端管理職たる店長の労働問題はどうか。店長自体が見せかけで不安定な雇用関係にあることも問題。
 いかに安く効率よく営業するかばかりに目がいって、一人ひとりのアルバイトスタッフや末端管理職の店長以下を抑圧、人権を無視してきたことに問題はないのか。

 何より節操なくアルバイトの力を目いっぱい絞り切って利益を出そうとする企業倫理の低さはどうなのか?


 不適切動画が流れたとたん、アルバイトにも相応の責任を取ってもらうとばかりに高額賠償金を持ち出して居丈高に脅しをかける、そういうやりかたはおかしい。


 アルバイトの契約と正規社員の契約は違う。時給で働くアルバイトと社会保険や福利厚生、雇用契約までも含めて一定に身分保障されている社員では、会社に対する忠誠度、貢献度、業務の熟練度など違って当たり前。

 なのに、わずかな時給の差をつけて複雑で膨大な業務を押しつけ、ゆとりのないぎりぎりのシフトで現場を動かそうとしてきた会社の問題が大きいのではないか。

 

 ただ、問題は簡単ではない。これは過失ではない。ノリだろうとなんだろうと、意図的にやったことだ。結果を考えないただの浅慮でも、会社の営業を妨害したことには間違いない。詳しいことはわからないが、巷間言われているのは威力業務妨害ということだ。

 しかし彼らに威力で営業を妨害しようとした意図はない。彼らは面白がっただけなのだから。はたして威力業務妨害罪が成立するのだろうか。営業妨害ならば結果論として成立するように思えるが、門外漢には判断がつかない。


 威力業務妨害罪は量刑としては懲役3年以下か50万円以下の罰金だという。

 さて実際はどうなるだろうか。バカッター諸君は未成年の可能性も高いから少年法が適用されるし、親の監督責任と云ってもどこまで問えるものか。

 

 くら寿司はこの件で株価が130円下がって大変な損害を被ったという。その分も損害賠償を求めるなどと言っているが、いくらなんでも無理があるだろう。

 突然外部から入り込んだ見知らぬ人たちがバカッターをやったわけではなく、内部のスタッフの仕業である。アルバイトに対する監督責任が会社にはあるのだし、採用責任というものある。面接までして受け入れたアルバイトである。

 

 バカッター諸君の味方をするつもりはないが、会社が我が身を振り返ってやるべき対策がたくさんあるのではないか。再発防止の効果を狙って高額請求云々している暇があったら、お金と時間をかけてアルバイトスタッフの労働条件改善を図るべきだ。何でもかんでもアルバイトや現場任せにしてきたことを見直し、客商売の原点に立ち返るべき。そうしてスタッフを丁寧に育てる努力をすべきだ。
 

 バカッター問題に隠れて、今あるパート・アルバイトの労働問題や企業倫理の問題を忘れはならない。

 

 かといって、バカッター諸君が免責されることはない。お調子者などと切ってしまって済む問題ではないほどに、多くが理解不能で異様な行為でもある。彼らは「面白い」「受ける」と思ってやっているのだろうが、私にはちっとも「面白くない」し「受けない」。

 

 ネット上から画像が削除されてもやったことは消えない。成年だろうが未成年だろうが、彼らが彼らなりに負わなければならない責任があるはずだ。願わくば、表に出てきて、自分の言葉で自分の責任についてしっかり語ってほしいものだ。