映画備忘録。時間が経って忘れてしまいそう。
『明日の食卓』(2021年製作/124分/G/日本/原作:椰月美智子/脚本:小川智子/監督:瀬々敬久/出演:菅野美穂 尾野真千子 高畑充希/2020年5月28日公開)
を見たのは先週の土曜日。ということは封切りの次の日。客は少なかった。しかし
結論、面白かった。久しぶりに邦画にのめりこんだ。★4つ。
邦画は期待を裏切られる頻度が高い。海外の映画は配給会社があらかじめ売れそうなものを選んているからはずれが少ない。邦画は出来上がれば公開劇場の数に差はあれ、必ず公開される。
それでも邦画はみたくなる。多少裏切られても見たいのだ。
今回、裏切られなかった。
2人の息子を育てる43歳のフリーライター・石橋留美子、アルバイトを掛け持ちする30歳のシングルマザー・石橋加奈、年下の夫と優等生の息子に囲まれて暮らす36歳の専業主婦・石橋あすみ。年齢も住む場所も家庭環境も異なる彼女たちには、“石橋ユウ”という名前の小学5年生の息子がいるという共通点があった。それぞれ忙しくも幸せな毎日を送る彼女たちだったが、些細な出来事をきっかけにその生活が崩れ、苛立ちと怒りの矛先はいつしか子どもへと向けられていく。(映画ドットコムから)
三者三様、地域も階層も全く違う3人の母親がそれぞれ語る言葉は実感がある。見ていて一つひとつがすうっと入ってくる。言葉が浮いていない。原作のもつ強さと脚本の巧みさ、演出の良さがかみ合っていると思った。
配役がいい。菅野美穂、高畑充希、尾野真千子それぞれの演技力の高さが物語のリアリティを高めている。
家庭の中で、気がつけば母親だけが子どもに係るいわゆるワンオペ育児。物語はそこにとどまらない。突き詰められていったところにある母親と男の子の物語。子への思いの強さと関係の濃密さ、危うさ、壊れかけていながらどこかでもたれあう関係。
そこに大人の男はいない。いても、仕事にかまけたり、暴力に及んだり、金を奪ったりする。それぞれその場でいい顔をしているのだが、「根っこでつながっている」わけではない。
男の子への過度な思い入れと旦那に対する失望は表裏一体。
三つの家庭それぞれが大切にしてきたものが、壊れていく過程が丁寧に描かれる。母親の心理描写はもちろんだが、男の子たちの心理描写が巧みだ。それに比べ大人の男は平板だ。
ただ物語として母親と男の子の関係が強くでてしまう分、例えば物語の中に見え隠れする労働の問題とか介護の問題とか差別や教育の問題などさまざまな社会的な問題が後景にひいてしまう。文学的に過ぎる?
母親たちに降りてくる絶望の行先はどこなのか。いくつもの文学的な「救い」は準備されているが、抽象的で実体が見えないと思えた。
3つの家庭が最後に交差する仕掛けは巧みだ。
面白い映画だった。原作はこれから読んでみる。