1・25中教審答申は、現行法とかけ離れた実態を容認し、法を無視して膨大な時間外勤務を押しつけることにした、いわば横紙破りの認めがたいものである。 

 

 「教員の働き方」についてである。

 

 

 

 

 1月26日、新聞各紙が中教審答申を報じた。朝日、読売、日経、東京の4紙を読んだが、読売だけが見出しに「部活動指導は勤務」と打った。他紙は、そのあたりをあいまいに捉え、総合的施策として、残業時間の限定や変形労働時間制などが盛り込まれたと報じている。

 教員給与特別措置法(1972年)においては、教員には「時間外勤務は命じない」ことが前提とされており、そのため時間外手当は一切支給せず、計測不可能な自発的な勤務に対し、時間の内外を包括的に評価し給与の4%を上乗せして支給するとしたのである。

 また、例外措置として限定4項目(給特法は、①学校行事②職員会議③生徒の実習④非常災害)のみ、超過勤務を命じることができるとして、これに対しては健康と福祉にかんがみ、「適切な配慮」をとることを明示している。

 しかし法制定後の、とりわけ90年代以降の30年間の実態は、部活動を含めて「限定4項目」以外の時間外勤務が増え続け、膨大なサービス残業を教員に強いてきたのである。

 

 だから今回中教審が部活動その他を「勤務時間」と位置付けたことは、そのまま普通に考えれば法が実態に合わなくなってきたから、法改正の方向に向かうための解釈変更とならなければならないはずなのだが、実際は現行法とかけ離れた実態に対し、法を無視して膨大な時間外勤務を容認、押しつけることにした、いわば横紙破りに等しいものなのである。

 それは、給特法そのものがすでに現実性をもたない画餅となったことを表しているのだが、それにしても法改正について先送りとし、実態容認の恣意的な解釈を答申に盛る姿勢は、認めがたい。

 

 読売は見出しは打っても、こうした内実については全く触れていない。他紙も同様だが、給特法問題を除いて教員の働き方問題は論じられないというのは、当たり前の理屈であって、これに触れないマスコミの感度の低さは度し難いと思う。

 

この点を押さえたうえで、今回の答申の問題性について指摘しておきたい。

 

 

 

 1月25日、中教審が教員の働き方改革の方策を発表した。6割近くの教員が時間外勤務月80時間以上の過労死ラインに達している現状(中学校)を受け、これを是正するための総合的な取り組みをまとめたものだ。
 

 しかし、変形労働時間制の導入や部活動時間の抑制、タイムカードの導入、専門スタッフや事務職員の活用など抜本な方策とは言えないものばかりだ。
 

 変形労働時間の導入は繁忙格差の多い業種には幾分かの効能があるが、残業が常態化している学校にはなじまない。部活動時間の単なる抑制は、生徒や保護者、地域との調整が容易ではなく、根強い勝利至上主義による水面下の規制逃れが予想される。専門スタッフの導入に至っては、連携を維持するためのシステムが新たにつくられる必要があるし、事務職員の協力は新たな労働問題を生じかねない。
 

 何よりこれらの方策には、お金をかけて抜本的な解決をめざそうとする意欲が感じられない。
 

 その最たるものが自発的な勤務とされてきた部活動指導時間も含めて「勤務時間」とみなし、「残業時間上限を原則月45時間年360時間」を明示したことだ。
 

 

 厚労省が医師の残業時間を年2000時間までとする案をまとめたことが報じられているが、いかに生命にかかわる仕事とはいえ2000時間が論外であることは議論を待たない。これに比べれば教員の年間360時間はいかにも少ないように思われるが、教員の場合、業務内容の抜本的な見直しをせずに月100時間年間1000時間を容易に超える時間外勤務の実態を変えることは不可能に近い。部活動だけが時間外勤務の原因と思われがちだが、本務そのものが90年代以降膨張を続けていることを忘れてはならない。英語学習、道徳の教科化等学習指導要領の改訂ごとにその内容が増え続えている。
 

 さらに時間外勤務の上限規制が、教員の場合、時間外手当支給の抑制につながらないことも安易な規制を産み出している。その大きな要因が1972年に定められた給与体系(教職員給与特別措置法=給特法)にある。

 

 教員の場合、給与月額の4%(教職調整額)があらかじめ支払われるが、時間外手当は一切支払われない。阪神、東日本などの大震災の災害救助、避難所開設の運営に長時間携わった教員には、他の一般公務員には支給された時間外手当が1円も支払われていない。
 

 教員の業務には自発的創造的な部分が多いため、時間外勤務の時間の計測がなじまないとして定められた給特法は、学校現場から労働時間の観念を奪い、管理職は労働時間把握に意を砕くことなく、教員も教育行政や保護者の求めに応じて際限のない勤務を受容してきた。長期休業以外では休憩時間すら取得できないのが現状であり、自主研修制度は今では名ばかりとなり、官製研修ばかりが突出している。つまるところ違法なみなし残業の常態化であり、民間のブラック企業並みの裁量労働制の悪用というのが教員の働き方の実態なのである。
 

 今回の答申で、給特法の抜本的見直しが「見送り」とされたが、教員の働き改革の一丁目一番地は給特法の撤廃と労基法の原則適用であることは自明だ。時間外手当が支払われない時間外勤務の上限を決めることの矛盾を委員は認識すべきだし、一方、教員はこれほど見下された「改革」をあてがわれることに黙しているべきではない。逆境に甘んじ声をあげなければ、父母や地域、何より児童生徒からも共感は得られまい。教員こそ最も重要な教育環境であることにもっとプライドを持つべきだ。
 

 ちなみに給与の4%は時間外勤務8時間分程度にしか相当しない。