12月6日
昨日とはうってかわって冷たい雨が降りしきる。緩やかなグラデーションとはいかない初冬の一日。
教員の働き方改革の話。
今年に入って文科省のリークと思える変形労働時間制についての報道が増えた。5月には「観測気球」だったものが、この夏どこかで政・官・労の合意があり「いけるぞ」という確信を深めたのか、8月終わりには毎日新聞が「確定的」との報道。それ以後は、なだれを打って来年度か再来年度には導入という勢いだ。
論評のほとんどは懐疑的批判的なものが多いのだが、手っ取り早い「改革」として導入を求める声もある。口上だけ聞いているとずいぶんすっきりした打開策のようにも見える。
それもそうだ。なにしろこの打ち出の小づちは、1日の勤務時間を2時間も増やすことができる。同時に現在の1日の時間外勤務を2時間カットできることになるからだ。2時間も多く働かせられて2時間も時間外をカットできる。夢のような話だ。
過労死ラインの時間外勤務80時間を月20日で便宜的に割れば、一日4時間の時間外勤務になるが、勤務時間を2時間増やせば時間外は2時間減る。つまり時間外は40時間となり、金も人も出さなくても時間外勤務を半減させることができるというわけだ。
ばかなことを言うな、増やした分は閑散期にちゃんと返すのだから年間を通せば数字的には同じになるんだ、というのが理屈、いや屁理屈、机上の空論。返せるという実証的なエビデンスを示してほしいものだ。
教員残業は原則「月45時間以内」 罰則はなし
日経電子版2018/12/6 11:02
小中学校などの教員の長時間労働是正策を議論する中教審の特別部会が6日開かれ、公立校の教員の残業時間を原則として「月45時間以内」、繁忙期でも「月100時間未満」とする指針案を了承した。働き方改革関連法の上限に沿う内容だ。文部科学省は必要な制度改正に向け検討を始めるが、罰則は設けない方針で実効性の確保が課題となりそうだ。
特別部会では、長時間勤務の縮減策などを盛り込んだ答申素案も示され、労働時間を年単位で調整する変形労働時間制の導入を提言した。
文科省は繁忙状況に応じて学期中の勤務時間を引き上げる一方、夏休み中の学校閉庁日を増やし長期休暇を取りやすくするなどの活用例を想定。導入する自治体が条例化できるよう教職員給与特別措置法(給特法)の来年度中の改正を目指す。
文科省の2016年度教員勤務実態調査によると、残業時間が月45時間以上の公立小学校教諭の割合は81.8%、公立中学校教諭は89.0%に上っている。
指針案は、民間企業の時間外労働の上限を定めた働き方改革関連法を参考に、教員の目安を原則月45時間、年360時間に設定した。特別な事情があっても月100時間未満、2~6カ月の月平均で80時間、年720時間までとし、タイムカードなどで勤務時間を客観的に捉えるべきだとした。
ただ、同法にある罰則の導入については、答申素案で「慎重であるべきだ」と指摘した。公務員の扱いに合わせるためで文科省もその方向で対応する。
また、答申素案では改革の具体策で縮減できる1人当たりの年間勤務時間数の目安も提示した。校務支援システムの活用で成績処理などの負担を軽減し年約120時間、部活動に外部指導員を充て年約160時間をそれぞれ減らせるとした。給特法が教員に給与月額の4%相当を支給する代わりに時間外手当の支給を認めておらず、残業の大半が自主的な労働とみなされていることについては「勤務時間管理が不要との認識を広げている」との見方を記したが、抜本的な見直しには踏み込まなかった。
今日12月6日は、それに加えて「教員の時間外勤務を月45時間、年間360時間に抑制する」との報道があった。何とも上手に平仄(ひょうそく)を合わせるというかこずるいというか。
この数字、変形労働時間制を導入すれば、十分達成可能な数字となってしまうところがミソ。
カネもヒトも増やさずに数値目標をさだめればなんとかなるといういつものやりかた。もちろん罰則はなし。障碍者の雇用水増し問題と同じ。「言うだけ」番長。
国の働き方”改革”同様、ここでも繁忙期は時間外勤務100時間を容認するのだ。100時間までは働かせもよい、というお墨付き。給特法で支給されるのは給与の4%は、せいぜいが6時間分にすぎない。教員だけは忙しかったら94時間まではタダで働かせて良いと言っているのだ。怒らなくてどうする?
さて繁忙期の月の勤務時間は10時間にというが、繁忙期でない月は何月か?百歩譲っても8月だけ。この8月も昔から「休んだのはお盆だけ」という教員が多い。
変形労働時間制と言っても、現状と重ねればこっちの凸をこっちの凹にという具合にはならない。タダで凸だけが増えるということ。
現場での変化は「今までは勤務時間は8時間でしたが、これからそれが2時間延びて建前10時間とします。これで時間外勤務が2時間減ります。これが働き方改革です。ずいぶんとラクになるでしょうね』というだけのこと。
変形労働時間制が、週や月の総労働時間を定める労基法の精神を逸脱しているものだという意識が全くないのがいちばんの問題。変形労働時間制導入の歴史を繙くまでもなく、本来水と油の関係を無理やり一つの法律の中に押し込んできた。つまり矛盾をそのまま入れ込み、広げ続けてきたのが労基法の中の変形労働時間制の歴史だ。
もともと変形労働時間制は導入時にはひと月に限定されていた。それがいつの間にか、「3か月」「3か月から1年」というふうに延長されてきた。延長されればされるほど労基法の精神からの懸隔は広がるばかりだ。
労基法の精神とは何か。憲法で保障される健康で文化的な生活のためには『寝だめ食いだめ』はからだに悪いよ、ということだ。だから年間総労働時間ではなく、週労働時間を定めてきたのだ。
全体の6割が過労死ラインを超えている(公立中学)なかで、変形労働時間制を導入すればどうなるか。寝ないで仕事をしながら『寝だめ』は出来ないよという事だ。つまり何度も言うが、実態としては8月以外は勤務時間は10時間という意識になってしまうという事。
今でも勤務時間を超えて会議や進路指導、学校行事、生活指導などが行われているが、19時まではフリーでさまざまな業務がが入れられるという事になる。さらには、部活動も勤務時間を超えて行われてきたものが、平日のほとんどで勤務時間内という事になってしまう。5時まで会議、7時までは部活?(10時間になると労基法の規定では休憩時間は60分になる。今までもほとんど取れてはいない。実質10時間の連続勤務。朝練を入れると?19時以後の時間外を入れると?)
さらには保育園の送り迎え、介護ヘルパーの問題なども出てくる。これらすべて実質的な負担増にもつながる。しかしこうした人たちが大変だから導入はやめろ、というのは闘う理屈としては偏頗だ。健康で文化的な生活を送る権利を法律にしたのが、変形制を除いた労基法。個人の事情に関係なく、「わたしの時間を勝手に奪うな」なのだ。
文科省はいつもの狡知に長けたやりかたで「大枠は決めたので、あとは地教委でいかようにも」と丸投げをするだろう。地教委は地教委で「中枠」は決めたからあとは現場でと丸投げ。現場の「小枠」はどうなるか。
『あしたから勤務時間2時間延長だよ。これで慌てずじっくり仕事ができるね』
いちばんの桎梏(しっこく)が給特法であることはまちがいない。給特法の40数年が、教員から「勤務時間意識」を奪い、行政や管理職から「時間外勤務意識」を奪ってきた。
その給特法の延長上に、給特法の上に乗っかってこの変形労働時間制があることを忘れてはならない。