ライとの散歩・ジャズのビッグバンド・南アルプスの上の青空

 

 空を見上げることが増えた。
 季節が進んで青さを増した雲一つない空は目に染みて気持ちがいいのだが、晴天に雲が浮いているのも高さが実感できて思わず空の奥まで目を凝らしてしまう。何も見えないのだけれど。


 このところ、チワワのライと一緒に散歩に出かけることが増えた。
 11月に入って、長い間食べさせてきたドッグフードをやめて鶏肉を与えることにした。犬にとって肉食が自然なことだと聞いたからだ。手羽先やむね肉、もも肉などをいろいろまぜあわせて試行錯誤を重ねて、ようやく安定した便が出るようになった。

 食いつきはドッグフードに比べて天地の差。餌をやるときの「お手、お変わり、ハイタッチ」の3つの動作を、こちらが要求していないうちから手早くやってしまうほど。

 動きにもキレが出てきて膝に乗るのも勢いが違う。ただ体重増が少し気になるので、散歩はそれほど必要ないと言われる犬種ではあるけれど、ふたりで散歩に連れ出すことにしたのだ。

 

 「散歩に行くよ!」と声をかけると、その都度ライは何度もひざ元に飛びついてきて喜びを発散する。そして早くリードをつけろとせがむ。寒くなってきたからセーターも着せなければならない。今はもう慣れたが、初めの頃は足を上手くいれるのに難儀した。

 

 マンションの廊下は歩かせてはいけないきまりだから、どちらかがエントランスまで抱いていく。一人は犬用ハンモック?を袈裟懸けにかけてトイレットペーパーや水、便を入れる袋などを入れたバッグを持つ。3㌔に満たない犬一匹でも、散歩に出かけるにはそれなりの準備が必要になる。

 

 エントランスを出たところから、晴れていると富士山が見える。頂上がわずかに頭をのぞかせている程度なのだが、最近は雪の色の濃さが目立つようになってきている。

 目の前に横浜ステンレスという従業員10数人の鉄工所がある。毎朝、経営者と思しき高齢の女性が、どこからか自転車でやってきて大きなシャッターを開ける。6時45分頃。認知症を患っていた義母が生きているころから、いつも声をかけてくださる方だ。かなり年配にみえるのだが、細身で動きがシャープ。4時に起きて孫の弁当を作り、6時半には家を出てくるのだと話すのを聞いたことがある。気さくな方で、最近はライにもよく声をかけてくれる。

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 抱いているライを下ろし狭い坂を3人?で下り始める。とすぐにブレーキ。おっとと後ろに引っ張られる。ライは4本の足をぐっと踏ん張って前に進もうとしない。毎日のこと。ほおっておくと一人でエントランスの方に戻ろうとする。散歩、嬉しんじゃないの?犬の気持ちはよくわからない。リードを強く引っ張るとあきらめて前を歩く。これを何度か繰り返す。


 いったん歩き始めると、スピードはかなり速い。大人の速足程度。一気に坂を駆け降りて旧国道246号に出る。国道246号に並行して走っている旧道。ここまでくるともう一度抱っこかハンモック。クルマの音が嫌なのか排気ガスのにおいが嫌なのか全身で震えだすからだ。


 246号の高架下をくぐるとすぐ境川河畔。ここからはもうクルマの音もほとんど聞こえなくなる。ようやく散歩。鳥や花や魚の世界である。背の高い皇帝ダリアがあちこちに咲き始めている。


 ライを連れて散歩するようになってから、いろいろな方に挨拶をされるようになった。犬連れの散歩は、つくづく世間との距離を狭めてくれるものだと思う。

 ひとりで散歩しているときは誰も声などかけてくれなかった。私も仏頂面して歩いているのだろう、不審者とまではいかなくても声などかけにくい印象があったのだろう。

 二人で歩いてもそれはあまり変わらなかった。つれあいは私より愛想もよく、すれ違う人はみな私を見ずにつれあいを見て軽く会釈をしたりする。

 これがライと歩くようになっててきめんに変化した。年齢や性別に関係なくみなニコッと微笑んで、おはようございますと声をかけてくれる。どの方も親しい同胞であることを確認するかのような親密な表情だ。

 犬を飼っているというただそれだけでこんなに親しく話が出来るなんて。

 この間は一眼レフをもって散歩されている方がライを撮ってくれ、次にお会いした時には印画紙に焼いて手渡してくださったものだ。 

 

 40分ほどの行程のうち、25分ほど歩いたところに私たちがひそかに“境川のドッグラン”と名付けている小さな原っぱがある。幅10㍍長さ50㍍にも満たない所有者も不明な土地なのだが、ライにはちょうど良い「思いっきり走り」の場所になる。

 いけないとは思うのだが、リードを外して二人の間を何度か行き来させる。全速力。ペットでなく、やはり動物,けものである。走る姿を見てほれぼれとしている自分に驚く。こんなに犬が好きだったっけ?


 ここからはハンモックに入れて家まで。ライを追いかけてずっと下ばかりだった視線がようやく上向く。空を見上げる。「空が高くなったね」。毎度同じセリフをつぶやく。


 1か月ほど前、最後の赴任校で着任直後に中3を担任した時の生徒からラインが入った。ビッグバンドのライブをやりますのでよろしかったら、というお誘いだ。2年ほど前にも新宿の“ピットイン”でやるというので出かけたことがある。そのあと、2回ほど誘われたがいずれも都合がつかず、断った。
 卒業してから12年が経つ。音大のピアノ科に進み、ジャズコースに転科。卒業後はジャズピアニストとして活動しているという。ライブは彼女が率いる若者ばかりの総勢20人ほどのビッグバンド、指揮をしながらピアノを弾く姿は、まるで秋吉敏子じゃないか!昼時に私のもっていったスープを「センセ、飲まして!」と勝手に飲んでしまうような大胆な?生徒だったが。


 11月18日、中延にあるボナペティというライブハウスが会場。直前に連絡をして前売り券を手配してもらった。

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ジャズは嫌いではないし、よく聴くのだが、ビッグバンドはほとんど聴かない。
日曜日の午後、少し雨もよいだったが、出かけた。休日なので南町田から急行で溝ノ口、大井町行きの急行に乗り換え旗の台、普通に乗り換えて3つ目?の中延。仕事で一度来た覚えがある。駅から歩いて4分ほど、アーケードのかかる長い商店街の中ほどの地下にボナペティを見つけた。


 単なる印象でしかないが、2年前のまだ粗削りな演奏に比べて今回はずいぶんこなれた印象を受けた。オリジナリティという点でもよくやっているなという印象。ボーカルが入る曲が何曲かあったが、これはあまりいただけなかったが。


 ついつい卒業生のピアノに目が行ってしまうのだが、中学時代の大胆さは微塵もなく(笑)、ソロ部分も緻密にかつ軽やかにこなし全体をしっかりまとめているように見えた。このグループ、彼女のオリジナル曲も含めてスタンダードより新しい音作りを志向しているようだ。


 ラインには、今年何かのコンペにオリジナル曲で参加、見事優勝したのだとか。シンガポール旅行をプレゼントされたらしい。

 12月に浅草公会堂で開催される浅草JAZZコンテストの本選出場(予選は音源審査だそうだ)も決まっているとのこと。調べてみたらこのコンテスト、今年で38年目となるよく知られたコンテストらしい。ボーカル、バンドそれぞれ8組が出場、グランプリ受賞グループは来年夏のUENO JAZZ INN‘19という大きなコンテストに参加できるのだとか。


 こんなに若い人たちがジャズをやっていることにも驚くが、チームを作って音楽をつくっていることに少し感動を覚えた。

 若い人のジャズと言えば、石塚真一の「BLUE GIANT  SUPREME」を隔週楽しみにしている。2013年にビッグコミック誌で第一期の「BLUE GIANT」の連載が始まったときからのファンだ。仙台出身のサキソフォン奏者の宮本大が、プロのミュージシャンを目指して、日本からドイツにわたり徐々に大きなステージに昇っていく、その過程の人間模様を音楽とともに描いた作品だ。大は連載開始時には高校三年生だったから現在23歳になる。引き込まれるのは物語のつくりのうまさ以上に、まるで演奏の音が聴こえてくるような気にさせられてしまう臨場感いっぱいの絵だ。

石塚の作品は、山岳救助を扱った「岳 みんなの山」も面白かった。

 


 久しぶりに昼間からビールとハイボール、知り合いもいなかったから、だれとも話をせずにジャズを楽しんだ午後だった。

 

 11月22日、ふたりで信州高遠の五合庵へ。いつものようにお風呂と料理を楽しむ。

 標高1000㍍を超える高地にあるため、この季節朝夕の気温は零下となる。何度も来ているのにこの季節は初めて。ご夫妻のお話は尽きることなくいつも新しいお話が上書きされている。

 今回は6年間夫婦でお金をためて366日間の世界一周旅行をしている人たちの話が面白かった。ごくごく親しくしている方たちだそうで、お二人を実の親のように慕っているとのこと。お二人も目を細めて我が子の話をするように話をされる。ラインで連絡を取っているとかで「既読」がお二人が元気で過ごしている証拠になっているとか。

 366日、つまり一年を一日でも多ければ住民税などの国民の義務は免除されるのだとか。これも初めて聞いた話。

 

 帰り際『夏に来たことがありません』と云うと、御主人『では、今度は真夏にエアコンなしで寝てみますか』とのこと。夏の料理は何になるのか。今から楽しみである。

 

 帰途、連休の初日ということもあって下りは込んでいる。そのうえ圏央道海老名JCT付近で事故のため、東名下りと圏央道が大渋滞。県央厚木で降りて246に乗ったらこれまた下りは大渋滞。上りは全く込まず、高遠を出るときの帰宅予定時間に休憩を入れた時間で戻ることができた。

 何度も空を見上げた小旅行だった。

 

 境川PA からの南アルプス。右から北岳、間の岳、農鳥岳(たぶん)

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