『あんのこと』・・ありえない想定をいくつも重ねて、世間の邪悪に対する憎悪を掻き立てるのは、人間や世間に対する想像力の欠如。 人々がたくさんの矛盾や理不尽を抱えてどんなふうに生きているかを同じ視線の高さで見てほしい。 希望も絶望も善も悪もないまぜになっていている中から、小さいけれど確かなものを掬い取るような生き方をしている人がいることを表現してほしい。

2024年6月の映画寸評②

<自分なりのめやす>

お勧めしたい   ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

みる価値あり   ⭐️⭐️⭐️⭐️

時間があれば    ⭐️⭐️⭐️

無理しなくても  ⭐️⭐️

後悔するかも   ⭐️

 

㊾『あんのこと』(2024年製作/113分/日本/脚本・監督:入江悠/出演:

河合優実 佐藤二朗 稲垣吾郎 河井青葉ほか 劇場公開日:2024年6月7日)

               6月19日 海老名イオンシネマ ⭐️⭐️⭐️

SR サイタマノラッパー」「AI崩壊」の入江悠が監督・脚本を手がけ、ある少女の人生をつづった2020年6月の新聞記事に着想を得て撮りあげた人間ドラマ。

売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしている。子どもの頃から酔った母親に殴られて育った彼女は、小学4年生から不登校となり、12歳の時に母親の紹介で初めて体を売った。人情味あふれる刑事・多々羅との出会いをきっかけに更生の道を歩み出した杏は、多々羅や彼の友人であるジャーナリスト・桐野の助けを借りながら、新たな仕事や住まいを探し始める。しかし突然のコロナ禍によって3人はすれ違い、それぞれが孤独と不安に直面していく。

「少女は卒業しない」の河合優実が杏役で主演を務め、杏を救おうとする型破りな刑事・多々羅を佐藤二朗、正義感と友情に揺れるジャーナリスト・桐野を稲垣吾郎が演じた。

批判を重ねることになるので、短く。

実話をもとにした脚本というが、ほつれが多く、人物像にも一貫性が感じられない。

佐藤二朗の意外性は取ってつけたようで、少し鼻につく。雑誌記者?稲垣吾郎もどこに自分の土台があるのか不明。記事を書くのならそれなりのスタンスがあるはず。駆け出しの記者のような感性の稲垣と佐藤の絡みは演技や演出でそれなりに見えるが、中身が空洞だと思った。画像6

河合優実は熱演だが、あれほどの家庭環境にあってあんな表情が出せる子どもはいない。あまりに真っ直ぐすぎる。「ミッシング」の石原さとみの「うろ」そのもののような表情は、実際に何度かみたことがあるが。

 

今の日本で確かにセーフティネットに引っかからないケースもあるかもしれない。しかし一般的には、少年事件は全件家裁送致され、少年法に従って処遇される。

覚醒剤使用という重い犯罪に手を染めた女の子を刑事が個人の判断で、さまざま対応することはありえない。まして10代に見えるあんが、シェルターで一人暮らしすることはありえない。マンションのようなほとんどセキュリティのないようなところで。

 

なんと言っても母親役の河井青葉。いつもの薄幸そうな空気を纏いながらの鬼母を熱演。しかし、どうしてそう都合よく娘の前に現れる?

あんが図らずも預かってしまった(この設定もドラマとしては面白いが、作り物すぎ。あそこはシェルターでしょ?)幼児を、騙すようにじぶんの家に連れ帰った母親が、あんのいないときに、泣くのがうるさいと「ジソー」に連絡、引き取ってもらったというのもありえない。児童相談所はそれほど便利なところではない。画像11

 

いくつもの「希望」を潰し続けて不幸に不幸を重ねて、最後は自死にもっていくやり方は、あざとすぎる。

『市子』もそうだったが、ありえない想定をいくつも重ねて、世間の邪悪に対する憎悪を掻き立てるのは、人間や世間に対する想像力の欠如。

人々がたくさんの矛盾や理不尽を抱えてどんなふうに生きているかを同じ視線の高さで見てほしい。

希望も絶望も善も悪もないまぜになっていている中から、小さいけれど確かなものを掬い取るような生き方をしている人がいることを表現してほしい。

演出や役者云々よりも、基本的に脚本がモノになっていないと思った。