6月のあれこれ⓶ セツさんコンサート、検査週間、「いじめ問題報告書を読む集い」など



6月7日

ハーモニーホール座間、「魂の匂いがする セツ シャンソンコンサート」へクルマで出かける。

国道246号を目黒の交差点から西に15分ほど行ったところにハーモニーホール座間がある。電車で行くと、自宅→南町田→中央林間→相模大野→座間という経路。下手をすると1時間かかる。

 

受付のところで、声をかけてくださった元大和市の教員Eさんに声をかける。メールのやり取りはあるが、お会いするのは何年かぶり、お変わりないようだ。

 

シャンソンを中心に10数曲。堂々とした体躯から発する声音は豊か。黒人霊歌にもよく合う。

ピアノは川口信子さん。『John Lennon Songwriting Concert』で2020年ジャズ部門グランプリおよび年間アワードを獲得とプログラムにある。

タッチが軽やかで安心感のある音。

パーカッションが面白かった。坪根剛介さん。ペドロ&カプリシャスの元メンバー。とにかくさまざまな「打楽器」を駆使。川口さんのピアノとの相性も良く、まるで小さなオーケストラ。曲の表情が聞いたこともない打楽器から豊かに引き出される。

いい時間を過ごした。

 

 

6月10日〜14日

検査週間?

10日 メディカルスキャニングで肺のCTの撮影 → とりあえず今すぐの問題はなし。

13日 つきみ野・藤田眼科で視野検査 → 右眼に緑内障の兆候。眼圧を下げる薬剤を

   処方される。

14日 昭和大学藤が丘病院で胃の内視鏡検査 →  「一部切除して生検」はなし。

 

6月16日

菊名・ギャラリー&スペース弥平で

「横浜中2自殺の横浜市いじめ問題専門委員会の報告書を読む」でレポート。

公表版という報告書から読み取れることを70分ほど報告。

25、6人ほどの出席。かつての職場の同僚の方や、神奈川新聞のNさん、初めてお目にかかった相模女子大のM先生など多彩な顔ぶれ。

ここ1週間ほどかかりきりだったので、終わってホッとする。

 

まだまだ不十分なものだが、載せておく。

 

横浜市「いじめ防止対策推進法第28条第1項にかかる重大事態の調査結果について(V中学校)」(横浜市いじめ問題専門委員会)【公表版】を読む

 

        

 

    横浜市中学生自死問題を考える集いへのレポート

                                 2024年6月16日 

                               ギャラリー&スペース弥平

                                                赤田圭亮

【目次】

【1】いじめ防止対策推進法に始まった、国、行政の「いじめ対策」の構造・・1

  (1)法案成立までの経緯

  (2)反対意見

  (3)議論の推移と具体的な問題点

  (4)法が定めるいじめ問題に対する組織

  (5)調査機関等の公平性・中立性・・・この法律の目玉

  (6)いじめ重大事態の認定とその後の動き(第28条)・・・これもこの法律の目玉

  (7)「いじめ防止対策推進法」をどう捉えるか

【2】「横浜市いじめ問題専門委員会」の外形的問題題・・・・・・・・・4

  (1)専門委員会の陣容・・・第三者性は担保されているか?

  (2)調査期間が異様に長すぎるのはなぜか?

  (3)「公表」版とはどういうことか?

  (4)重大事態の極端な少なさと違法性

【3】公表版報告書から見えるもの・・・・・・・・・・・・・・・・・7

  (1)いじめと認定された行為

(2)教員への批判は妥当か?

  (3)見えない家庭の様子

【4】「同種事案の再発防止に向けて」について・・・・・・・・・・・・10

 

【参考にした資料】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

 

 

 

【1】いじめ防止対策推進法に始まった、国、行政の「いじめ対策」の構造

 

(1)法案成立までの経緯

2011年10月 大津市立皇子山中学2年男子生徒がいじめを理由に自死。直後に生徒から

                       教員にいじめの事実の申告があり、学校はアンケートを実施、早々にいじ

                       めと自殺との因果関係を不明とした。

2012年  7月 アンケートの具体的内容が明らかに。学校、および市教委の事実解明への

                        不徹底、主体性の欠如、隠蔽体質との批判高まり、社会問題となる。

2012年  8月 大津市が弁護士等の有識者による第三者調査委員会を設置。文科省

                        2013年度予算「いじめ対策等総合推進事業」47億6,400万円(前年比8

                       億2,200万円増、SC配置拡充を含む)

2012年12月 衆議院総選挙(野田政権投げ出し解散、政党乱立、多くの政党がいじめ問

       題を公約に)

2013年  1月 大津市三者委員会調査報告書提出(教員、学校、教委、SCへの提言、

       危機対応と将来への課題等)

2013年 2月 教育再生実行会議第一次提言「社会総掛かりでいじめに対峙していくた

       めの法律の制定」。

2013年 4月 3党案(民主、社民など)、5月与党案(自民、公明など)、6月両法案撤

       回、自民、民主などの共同提案「いじめ防止対策推進法案」(衆第42号)

       (社民、共産は入らず)提出。

 

(2)反対意見

     ・いじめの定義、被害児童の主観、苦痛に依拠しすぎていること

     ・子どもに対し直接いじめの禁止を義務付けていること

     ・学校教育法を超えて厳罰化(懲戒及び出席停止制度)となっていること

     ・道徳教育の推進、強化が強調されていること

     ・保護者の責務として規範意識の指導を努力義務としたこと

     ・被害者の知る権利が明確にされていないこと

 

(3)議論の推移と具体的な問題点

 ・いじめの定義(第2条)・・・この法律の根幹

   「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」

   被害児童の主観にのみ依拠、判断することの問題性⇄いじめの基準の客観性を誰

   がどう判断するのか。「解釈」として「苦痛」の確認のための客観的な観点は排

   除されないとした。

   ⇨「いじめ防止のための基本的な方針」(2013年10月)最終改定「いじめの重大

     事態の調査に関するガイドライン」まで一貫している。

・いじめの禁止(第4条)

 法律で禁止するものか?いじめはどの子も成長過程で行いうる過ち・・・。訓示的規

 定との見解

・保護者の責務(第9条)

 教育基本法との関連(家庭教育の自主性)をおかすものではないとされた。また、学

 校の責務を軽視するものではないとされた。旧統一教会の影響も?

・道徳教育(第15条)

 道徳教育が強調されすぎではないか?との懸念。安倍政権下での教育再生実行会議

    は、道徳教育の教科化を提言、結果的に2018年小学校、2019年中学校で教科化。い

    じめ対策推進法が後押しとなったことは否めない。これもまた旧統一教会の影響も。

・校内のいじめ対策のための組織(第22条)

 現場的には同様の組織がいくつもあり、今次の横浜の事件においても機能しているとは言い難い。現場の運営の仕方、教員の働き方、学習指導要領との関連から検討されるべき。

・懲戒と出席停止制度(第25条・26条)

 学校教育法の規定との関連は?厳罰化のイメージ強く。基準が曖昧というかないに等しい。運用にはかなり詳細な規則がないと恣意的運用になってしまう。

いじめの相互性から「加害を認めさせる」ことの困難もあり、保護者の納得も難しい。人的な保障も必要。出席停止、ほとんど事例なし。

 

  • 法が定めるいじめ問題に対する組織

(常設機関)

    行政・・・いじめ問題対策連絡協議会(第14条)

    地方公共団体・・・学校、教委、児相法務局、都道府県警察その他の関係者に

                                                 よる連携組織。

     *横浜市では「横浜市いじめ問題対策連絡協議会」(2014年3月20日)条例

                       で定めている。

    市長・・・横浜市いじめ問題調査委員会

        教育委員会・・・いじめ問題対策連絡協議会との円滑な連携の下に、「いじめ防止

                                     等のための対策を実効的に行う必要があるときは教育委員会に付

                                     属機関を置くことができる。」

                 *横浜市では「横浜市いじめ問題専門委員会」

    校内組織(第22条)

    当該学校の複数教員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者他によっ

               て構成される組織。

                  *横浜市では、「いじめ防止対策委員会」当該学校の「管理職、児童支援、生

                      徒指導専任教諭、学級担任等の複数の教職員によって構成され、・・・月一

                      回以上定期的に開催する(横浜市いじめ

      防止基本方針)

    

(5)調査機関等の公平性・中立性・・・この法律の目玉

 法案には「第三者委員会」という言葉が見当たらない。何ゆえ「独立した第三者委員会」と表記しなかったのか(行政の使い勝手の良さを担保?)

 議論の末、付帯決議に「専門的な知識及び経験を有する第三者等の参加を図り、公平性・中立性が確保されるよう努める」(衆参両委員会)とされ、「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」 (2013年10月、最終改訂2017年3月)では第三者性が強調されている。全国各地での調査機関では「第三者委員会」と表記されることが多いが、横浜市の「横浜市いじめ基本方針」(201

    3年12月)には第三者委員会の文言はない。⇨「横浜市いじめ問題専門委員会」

 

(6)いじめ重大事態の認定とその後の動き(第28条)・・・これもこの法律の目玉

   

  いじめ重大事態の判断(横浜市の場合・・・横浜市いじめ防止基本方針による)

  (基準)

    ・いじめにより生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがあるとき

    ・いじめにより相当の期間(30日を目安)学校を欠席することを余儀なくされ

                   ている疑いがある時

    (判断)

     重大事態に該当するか否かの判断は、横浜市では、学校、教育事務所、人権

                   教育・児童生徒課が行い、いずれかが重大事態を探知したら、速やかに対処方針を共有。

    (報告)

     学校は教育委員会に報告、教委は市長に報告。

    (調査)

     学校主体・・・学校いじめ防止対策委員会に専門的知識を有するものを加

                                              え、調査。

     教委主体・・・付属機関が行う 

     行政主体・・・付属機関が行う

 加害者、被害者が明確な場合は別として、諸要件、それまでの経緯が複雑に絡んでいる場合の重大事態認定の難しさ。アンケートの内容、方法など事実関係を明らかにするための動きの一定の基準、判断のレベルによっては恣意的なアンケートに陥りやすい面も。迅速に遂行するための機動性が通常の学校運営の中でをどう確保できるか。旧来の学校・教員の動き方とのずれ、ミスマッチ。

 

(7)「いじめ防止対策推進法」をどう捉えるか

 ① 法制定過程に衆議院選挙も絡んで、いじめ問題が政治的課題となったことから、

           論議が性急で煮詰まっていない。

 ② いじめ問題の解決を法律で定めることで進める積極的な意義が弱く、場当たり的

           な印象を拭えない。  

 ③ 規範意識の醸成や道徳教育の強化、児童・生徒・保護者への教化の面が強く、あ

          る意味政治的である。

 ④ いじめの現実を総体として捉え切れておらず、学校現場、とりわけ教員の積極的

           な取り組みよりも、早急な事態解決を念頭に上からの組織的介入が前提となって

           おり、現場の力は期待されず優先されていない。

 ⑤ 大津事件が契機となっていることから、直接的な暴力=いじめ⇨自殺というイメ

           ージが強く、加害者-被害者という二項対立が軸となっており、子どもたちの現実

           を十全に捉え切れていない。

 ⑥ 推進法はいじめ重大事態の認定から始まる対応が目玉だが、現実にはそこに至

           る前のケースが多い。無視,からかい、悪口、仲間はずれなどがLINEなどSNS

           使 用してのいじめが増加している。いじめ認知件数2021年615351件 2022年 

           681948件 をどう捉えるか。私の現場感覚では、現場では無数の小さないじめ

         は日常的に解決されているし、解決過程で子どもたちや保護者との良好な関係が構

   築されていくケースも少なくない。現場の学校生活全般に対する日常的な取り組

          みを保障する体制がないことが問題。

 ⑦ 総じて、法による対応、体制(いじめの定義と重大事態の認定)のあり方と現

           場の現実(いじめの実態、保護者との関係、教員の働き方等)が噛み合っていない。

 

 

【2】「横浜市いじめ問題専門委員会」の外形的問題

 こうした法成立の経緯のなかで、今回の横浜市の「報告書」(公表版)は、第14条の3の教育委員会の付属機関である「横浜市いじめ問題専門委員会」(以下専門委員会・横浜市いじめ問題対策連絡協議会等条例2014年2月)が作成したもの。専門委員会の外形的な問題を指摘しておく。

 

(1)専門委員会の陣容・・・第三者性は担保されているか?

 推進法の直後に出された「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(文科省・最終改訂2017年3月)では「第三者」という文言が頻出する。これによると、「・・・調査組織については、公平性・中立性が確保された組織が客観的な事実認定を行うことができるよう構成すること。・・・当該いじめの事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図るよう努めるものとする。」(第4 調査組織の設置 調査組織の構成)とある。同項の「調査組織の種類」においては、①学校の設置者が主体 a公立学校の場合として、「法14条第3項の「教育委員会に設置される附属機関(第三者により構成される組織)」とb「個々のいじめ事案について調査を行うための付属機関(第三者により構成される・・・)とある。

  横浜市の「専門委員会」はaにあたるが、はたして第三者性は確保されているかどうか疑わしい。というのも、専門委員会のメンバーには学識経験者として3名の市教委元幹部職員が入っている。いずれも退職時の役職は教育センター所長である。その1人副委員長の星槎大学学長西村哲雄氏は「専門委員会」設置当初から10年間、委員を続けている。もう1人同じ星槎大学特任教授の近藤昭一氏も確認できた範囲では6年間委員を続けている(参照:横浜市いじめ問題専門委員会委員名簿 令和6年4月1日更新)。臨時委員の入内嶋周一氏も元教育センター所長である。

 第三者委員会の委員選任は、上記bのように事案ごとに弁護士、学識経験者、心理職、精神科医NPO法人などに依頼する形が一般的であるが、横浜市の場合は常置の「専門委員会」が、公平性、中立性を確保すべき第三者委員会を兼ねている。法的に問題がないにしても、元「身内」が中心メンバーとして長い間委員を務めることに違和感を感じるのは私だけだろうか。

 

  • 調査期間が異様に長すぎるのはなぜか?

 公表されている流れを時系列で追ってみると、

 2020年 3月 中2生徒自死

      直後 市教委、いじめ重大事態認定せずに学校基本調査開始(当該生徒

                      の手帳にいじめ示唆) 

      6月 基本調査、教育長へ報告、「いじめ」を削除。(父親「いじめが

                                   原因」)

      7月 重大事態認定せずに詳細調査決定、専門委員会へ諮問。

         (父親「いじめを示す当該生徒の遺書」)

     10月 市教委、重大事態へ変更(初めていじめと認知)⇨専門委員会に

         よる重大事態調査について諮問

 2023年  12月 調査報告書確定

 2024年   3月 調査報告書公表版公表

 

 是非はともかく、法的には2019年末の段階で重大事態とすべきだった。3月の自死後も市教委・学校はいじめと認定せず、重大事態ともしていない。重大事態認定・いじめ認知が行われるのは自死後7ヶ月。この間、保護者は手帳、遺書をもって「いじめ自殺ではないか」と訴えている。

 市教委のこの対応の裏に感じるのは、意図的かどうかは別として市教委全体として、

① 安易にいじめ⇨自殺という認定はしない。

② 可能な限り「いじめ重大事態」を回避する。

付属機関である専門委員会も含めて共通の認識だったのではないか。実際に法制定後横浜市では本事案まで一件も重大事態認定は行われていない。40人の自死事案が明らかになっているが。

 その理由として考えられるのは、

① 法制定当時、組織的な体裁は確立されたが、市教委内部に法をリアルに受け止める傾向が確立されなかったのではないか。法令通りに「重大事態」認定をすれば、人的にも事務的にも予算的にも負担が増えかつ煩雑。

② 保護者からの種々の訴えに対しても、クレーム処理的な発想が強かった。

③ 重大事態が頻発すれば、専門委員会だけでは対応できない。

③ 第三者委員会関連の問題性が多く指摘されるようになってきた。

 

 ①の傾向は、現場ではまた別である。実際に起こる児童生徒間のトラブルは、加害ー被害を固定的に捉えられるものばかりでなく相互的に立場が入れ替わるものも多く、事実確認にもかなりの時間と工夫を要する事例も多い。そうした流れと当該児童生徒の訴えと欠席から始まるいじめ認知ー重大事態の法律の流れは噛み合わず、それよりも関係児童生徒の特定と事実確認、再発防止のための指導までの過程に時間を割かれるのが実態。

 市教委の基本調査において事務局が調査目的を「加害生徒の心理的ケア」を中心としてしまい「いじめ」の文言を削除したことは、②の理由だけでなく、法律の位置づけと流れを基本的に理解していなかったことによる・・・。しかし?

 

 保護者から遺書の提出と弁護士の追及により、市教委は7ヶ月を経ていじめ重大事態と認め、専門委員会が動き始めたが、すでに周囲の生徒らは受験期に差し掛かっていた。十全な聞き取り調査が行われたとは思えない。その辺の事情については公表版に記述がないが、報告書には関係生徒らが「いじめ」行為を明 確に認識していたか、あるいは聞き取りで認識したかは不明であるし、高校入学後の聴取も功を奏したとは思えない。

 教職員や事務局内に対する聞き取りにしても1年以上を経過しての聴取は記憶の劣化を避けられなかったはず。

しかしながら問題は、長時間をかけて作成された報告書の結論が「いじめによる自死」であることである。 

法の趣旨に原則的に照らせば、今や「自殺の主因はいじめ」という認定が各地の第三者委員会で一般的になってきており、違う結論を出せば保護者の理解が得られず、新たに再度別の陣容による第三者委員会が作られることもある。

ここから横浜の専門委員会の「結論ありき」を疑うものである。専門委員会が分析や論議にどれほどの時間 をかけたにしろ、各地の一般的ないじめの第三者委員会の調査期間は、全体の8割が1年以内に終了している(2022年調査読売新聞)ことを見ると、3年半の長さは異様である。そうなると、多くの時間が費や されたのは全体の半分近い分量となっている再発防止ではないかと推測する。専門委員会はこの事案を一つのモデルとして、法に基づく自殺事案の対応のマニュアルを作りたかったのではないか。

しかし、この4年近くの間に20人の自死事案があったことを考え合わせると、もし他に重大事態が生起した時、専門委員会は対応できたのだろうか。

 

 

(3)「公表」版とはどういうことか?

 調査開始から3年半を経て2023年12月に確定した報告書が、その分量を縮小したものが3月8日に 公表された(保護者や関係者、議会やプレスには正式版がもたらされているという)。一般に報告書は、事案の時期、個人情報や学校の特定などを避けるために、伏字を付して公表するが、専門委員会は2ヶ月余を要して「公表版」を作成したことになる。なにゆえ市民の目に正式版を晒すことを避けたのだろうか。

 いずれ正式版を保持しているプレスや議会からこれに対する評価がなされると思うが、こうまでして調査の詳細を公にしない専門委員会の体質に疑問が残る。私たち市民は当たり前の「知る権利」を侵されていると思うが、いかがだろうか。

 

(4)重大事態の極端な少なさと違法性

  報告書が公表されて以後、議会を通じて市教委はこの10年間で41人の児童生徒の自死を公表した。専門委員会が調査を行ったこの4年近くの間にも20人が自死している。しかし、いじめ対策推進法による「いじめ重大事態」と認定されたのは本事案以外ないという。20人の子どもたちの自死は全ての案件で調査は学校内の詳細調査で終わっているという。

市教委は議会の求めに応じて、40の事案について再度調査を行うとしているが、どんな案件も「いじめ重大事態にはしない」という「決めうち」があったと想像するしかない。違法行為が堂々と行われていたことになる。先日明らかになったわいせつ校長の公判への職員を派遣しての傍聴妨害同様、基本的にコンプライアンスという意識が上から下まで欠如していることは間違いない。

 いじめ防止対策推進法を頂点として条例で定めた連絡協議会、市教委の付属機関の専門委員会、校内のいじめ防止委員会などの組織は、いじめ重大事態認定という法の根幹を換骨奪胎したたまま10年を経過したことになる。傍聴妨害同様、誰一人「これは違法行為なのではないか」という危惧を表明しなかったのだろうか。

外部機関のように見えて内部に元幹部を抱え込んだ専門委員会のメンバーの誰一人も10年間で40人の自死という異様な光景に対し、その背景になにがあるか考えようともしなかったのだろうか。

 

【3】公表版報告書から見えるもの

  • いじめと認定された行為

 報告書は、いじめの行為認定にあたって先に触れた「いじめ防止等のための基本的な方針(最終改定2017年)」を引用している。「個々の行為が『いじめ』に当たるか否かの判断は、表面的・形式的にすることなく、いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要である」「この際、いじめには、多様な態様があることに鑑み、法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり、『心身の苦痛を感じているもの』との要件が限定して解釈されることのないよう努める本件を取り巻くすべての事象について真相を明らかにすることができるわけではないことが必要である」を全面的に支持し、認定の視点を「・・・いじめに該当するかどうかは、行為の対象者の立場に立って考えるべきであるから、仮に、行為を行った生徒が、遊びやふざけであり悪気はなかったなどと弁明したとしても、いじめの成否には全く影響しないと考えるべきである。」としている。

 「基本的な方針」は、法を根本から下支えする形のものである。いじめかどうかは、いじめられた児童生徒が苦痛と感じたかどうかによるべきだという考え方である。しかし、いじめられた児童生徒の主観のみを最優先させた場合、加害ー被害の構図は固定してしまい、児童生徒同士の関係の変革の広がりは閉ざされてしまう。それは被害生徒にとっても不幸なことではないか。さらにそれらを自殺の原因であると認定してしまうならば、人間の存在や関係のもつ深さや複雑さを捨象し、狭隘な厳罰論となってしまうのではないか、という危惧が常につきまとう。

 いずれにしても、報告書は上記の視点から、明らかになった3つの行為を評価する。

① クラスメートの男子生徒複数名が当該生徒の後ろでコソコソとニックネームを言う。廊下ですれ違う際、大声でニックネームを叫ぶ。当該生徒が止まると、生徒複数名も一緒に止まったり、当該生徒がゴミを捨てにいくと「捨てに行きました」などと行動を実況する。当該生徒が授業中に当てられて発言した際、男子生徒複数名がくすくす笑った。

 

 ニックネームは、インターネット上の「彼氏」からもらったあだ名。学年当初に自己紹介で当該生徒がこの名で呼んでほしいと自己紹介したもの。また名前でからかう行為は、一時期、女子生徒も行っていた。

これらは一般的に「いじめ」と考えられる行為である。報告書は、当該生徒がこのことについて担任教員に 相談、からかいはやめてほしいと要望していることからも心理的及び身体的苦痛を与えるいじめであると認定する。これらの項について担任から厳しい指導が行われている。認定はこうした行為が夏休みを除く6月から10月までの間続いたとしている。

 

② 体育の球技の授業中、不快な言動があったこと、当該生徒が失敗した時に「またかよ」という雰囲気を感じる。

 

この件については、専門委員会の調査は不調であり、具体的な言動の内容をつかめていないことから、「いじめが存在したとの認定は困難」としている。

 

③ 夏季休業中、担任の依頼を受けて当該生徒と生徒aとが分担して作業する件について 生徒aが当該生徒にLINEで連絡したが、数日間既読がつかなかったため、当該生徒がブロックしているものと考え、生徒aは当該生徒をブロックした。当該生徒はブロックをしたわでなく、数日後に気づいて返信したが、生徒aがブロックしたため当該生徒のメッセージは届かなかった。既読がつかなかいことからブロックされていると思い込み的にブロックする行為は当該生徒に対する嫌悪感の発現。

 

 これについて報告書は、当該生徒が生徒aのブロックは嫌な気持ちになると担任に話したこと、当該生徒はすでに他の生徒からいじめを受けていること、クラスの内には格別に仲の良い生徒がおらず、孤立している状況にあり、クラスメイトの言動に敏感になっていたことが推察されるため、生徒aのブロック行為は、当該生徒を傷つけ、孤立感を高めるものと強く意識しないで行ったにしても、「いじめと評価」せざるを得ないとしている。

 しかし、これは中学生にはありがちな「行き違い」。当該生徒の置かれた状況から判断すると、このブロックを「いじめ」とするのは、無理がないだろうか。生徒aは、自分の行為がいじめと認定されたことをどう受け止めるだろうか。

 

 いじめ行為の評価はこれで全てである。2つの「いじめ」について報告書は、以下のように事実的因果関係を判断している。このロジックは受け入れ難い。

 詳しく見てみよう。

「一般的に、事実的因果関係の有無の判断にあたっては、「〜がなければ・・・がなかったといえるだろうか」

と命題を立てて考察することが多い。」とする。あえて当てはめれば、からかいやLINEブロックがなかったら自死することはなかっただろうか、という立て方である。報告書は、「しかしながら、自殺は、その過程に本人の意思が存在するものであり、先に述べたとおり、自殺の背景には、本来的には、複雑な背景事実が関連し合うのが一般的であることから、このような過程的判断を科学的に行うことは容易ではない。」として、この命題を否定する。そして

「そもそも、重大事態調査は関係者の任意の協力に基づくものであり、本専門委員会が把握し得る事実には限界があり、本件生徒の自殺時点において存在していた本件を取り巻くすべての事象について真相を明らかにすることができるわけではない。」として

「したがって、本件生徒を取り巻くすべての事象を考慮の対象として仮定的に想像し判断することは差し控えるのが相当である。」と結論づける。ここまではわかる。問題はそのあとだ。視点が変わる。

 「重大事態調査は、特に自殺事案においては同種事案の再発防止を重要な目的の一つとするものであることからすると・・・」と、「再発防止の観点」を前提とした時、

「いじめやそれによって醸成されたと見られる心理状態が強く影響して本人が自殺を行ったであろうということが経験則上推認される場合には、いじめが自殺の要因であると評価し、いじめと自殺との事実的因果関係を認めるべきであると考える。」と結論づける。

 つまり①のからかい行為と③のLINEブロックといういじめ行為が、自殺との事実的因果関係にあり、自殺の要因であるということだ。

 この結論に私が納得できないと考える根拠は以下の通り。

 専門委員会の調査には限界があり、すべての事象について真相を明らかにできないのは当然のこと。だから「仮定的に想像し判断できない」のはわかる。しかしそこにどうして「再発防止」という視点を入れてみて、「いじめやそれによって醸成された心理状態が影響して」自殺に至ったことが「経験則上推認」されれば、いじめ行為が自殺の要因と認定できるとするのは無理がある。

 繰り返しになるが、こうした結論を本件生徒をからかった生徒やLINEブロックをした生徒はどう受け止めるだろうか。保護者はどうだろうか。教員はその生徒たちに同じことが起きないように(再発防止NOために)「法律上では、君たちの行為はいじめであり、それが原因で本件生徒は自殺に至った」と伝えるのだろうか。

 

  • 教員への批判は妥当か?

 報告書は自殺に至るまでの学校側の対応を厳しく論難している。指導の方法について理解できる点もあるが、どうしてもわからないのは、なぜ学年会や、学年主任や生徒指導専任、養護教諭などもメンバーとなっている「いじめ防止対策委員会」が、いくつもの局面で誰ひとりこの事案を「いじめ」と認識しなかったのかということ。

これについては【2】の(2)で触れている通り、法律が学校の中に内在化していなかったことと、法の在り方と現実の学校の指導過程がミスマッチを起こしていることが要因と考えられる。

 ・加害被害が相互的に入れ替わるケースが多いこと。

 ・児童生徒(保護者も)がそれぞれ自分の立場に拘泥するため、事実確認が困難を極めること。

 ・一方的に非のあるものなのか、一定に双方に非があるものなのか、自分の行為を間違ったものとして認める 

  まで時間がかかること。

 こうした困難をこえて一定の「解決」に至るためには、日常的に児童生徒と教員集団の間に安定的で親和的な関係が不可欠である。法律の機動的な動き方とのミスマッチとはこのことである。

 

(3)見えない家庭の様子

 当該生徒像に関する分析についてだが、インターネットの「彼氏」との関係については「本件生徒のインターネットの利用状況について把握することはでき」ないが、「恋心や心の支えになってくれたことへの感謝の気持ちが主たるもの」だから「彼氏」との関係性や同人の言動が本件生徒の自殺の要因」とは評価できないとする。

またこれも詳細な事実関係は明らかになっていない部活動をやめるまでの経過だが、これも不問。

 周囲の生徒がなぜ当該生徒だけをからかうに至ったのか、からかいの対象は当該生徒だけだったのか、周辺の生徒はそうした行為をどのように見ていたのか、全く明らかにされていない。

 6ヶ月近い不登校期間中、当該生徒は10日間に満たない登校を重ねたが、その際の場所、内容、学校側の対応についても詳述されていない。不登校期間中の交友関係についても記述は皆無だ。「本件を取り巻くすべての事象について真相を明らかにすることができるわけではない」にしても、教室や学年の雰囲気、不登校生徒を受け入れる学校側の体制、保護者やきょうだいとの関わりなどについて記述がないのは、「『心身の苦痛を感じているもの』との要件が限定して解釈されることのないよう努め」た結果なのだろうか。

 約半年の不登校の期間に当該生徒は周囲とどのような関わりがあったのか、その事実も評価もない。自傷行為の有無や、希死念慮が強めたと考えられるクラス編成にまつわる担任とのやりとりや、修了式後の連絡票の紛失問題についても、「自殺の要因ではないと判断」「上記結論に影響を及ぼさない」としてその詳しい経緯、記載内容、所在も含めて詳細に検討されていない。

 

 

【4】「同種事案の再発防止に向けて」について

 19ページに及ぶ再発防止に向けての項は、全体に法で定められた組織的対応をマニュアルにそって過不足なく実践できることを念頭にさまざまな方策を提示している。一読しての感想は、かなり詳細に現場の動き方を規定しているように思われた。今回、踏み込んでレポートするまでには至らなかった。しかし、ある意味、これは法を前提にした「集団の子育て論」の一つのあり方を示している。現場で子どもたちに関わる人たちにとって、自らの「集団の子育て論」との比較検討することでいじめ問題に対する一つの視座が獲得できる可能性もある。

別途詳細に検討が加えられる必要がある。

 

 

【5】今後に向けて

  •  報告書を貫徹している法律遵守というバイアスを一旦外してもう一度読み直すこと(事実を学校だけでなく子どもたちと向き合うさまざまな立場から検討し直すこと)。

 

  •  教育委員会や学校の対応について、「違法性を問う」という視点を一旦外して、児童生徒の関係性や集団のあり方の視点から見直してみること(「現場」にある大人として児童生徒との関わりを虚心に振り返ること)。

 

  •  私たちの中にもある「いじめ⇨自殺」という概念を一旦外して考えてみること(70年代からの多くのいじめ自殺事件は、私たちの中にいじめと自殺を結びつけてしまう意識を形成してきた。事実と向き合うためにはまずその意識を一度解体してみることが必要なのではないか) 

【参考にした資料】

①いじめ防止対策推進法第28条第1項にかかる重大事態の調査結果について(v中学校)【公表版】

②いじめ防止対策推進法(2013年法律第71号)

大津市中2いじめ自殺事件

④いじめ防止対策推進法の成立(文教科学委員会調査室 小林美津江)

⑤子供の自殺が起きた時の背景調査の指針(2014年調査研究協力者会議編の改訂版)

不登校重大事態に関わる調査の指針(2016年3月)

横浜市いじめ問題対策連絡協議会等条例(2014年2月)

横浜市いじめ防止基本方針(2013年12月 2017年改訂)

横浜市いじめ問題専門委員会運営要項(2014年3月 2024年6月改訂)

⑩いじめ重大事態の調査に関するガイドライン(いじめ防止のための基本方針2013年10月最終改訂2017

 年3月)

横浜市いじめ問題専門委員会名簿(2024年4月)

⑫いじめの第三者調査委員会の現場と問題点(2020年神田外国語大学教授嶋崎政男)

⑬教師が知っておきたい子どもの自殺予防(文部科学省2009年)

 

*段組がずれていたりして読みにくいかもしれません。悪しからず。