2024年4月の映画寸評⑤
<自分なりのめやす>
お勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
みる価値あり ⭐️⭐️⭐️⭐️
時間があれば ⭐️⭐️⭐️
無理しなくても ⭐️⭐️
後悔するかも ⭐️
まだ書いていない映画があった。
㊵『オッペンハイマー』2023年製作/180分/R15+/アメリカ/原題:Oppenheimer/監督:クリストファー・ノーラン/出演:キリアン・マーフィー エミリー・ブラント ロバート・ダウニーJr マット・デイモンほか/劇場公開日:2024年3月29日) 4月25日 グランベリーシネマ ⭐️⭐️⭐️⭐️
第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。
オッペンハイマー役はノーラン作品常連の俳優キリアン・マーフィ。妻キティをエミリー・ブラント、原子力委員会議長のルイス・ストロースをロバート・ダウニー・Jr.が演じたほか、マット・デイモン、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット、ラミ・マレック、ケネス・ブラナーら豪華キャストが共演。撮影は「インターステラー」以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ、音楽は「TENET テネット」のルドウィグ・ゴランソン。
第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で受賞を果たした。
キリアン・マーフィーが出た映画は7、8本見ているが、存在感と表現力の深さは本作が一番だと思った。
物理の基本的な知識や歴史的な流れを詳しく知らない身には、複雑な人間関係も含めてわかりづらいところが多々あったが、それなのにこの映画、ぐっと内側に入り込んでくるものがある。
実験では分からなかった想定の何倍もの威力を前に、抱えきれない巨大ものを抱え込んでしまった人間の苦悩の深さを、クリストファー・ノーランはデフォルメせずに等身大で描こうとしたのだろう。成功していると思った。
実験の成功に喜ぶ人々の様は、日本に生まれたものにとっては理不尽そのものであるが、例えばそれは南京陥落の提灯行列を見た日本在住の中国人も同様であって、そんな理不尽、矛盾は世界に溢れている。600万人のホロコーストの歴史があったとしても、イスラエルのガザの無差別攻撃は現実だ。
原爆の被害が描かれていないという批判があるが、オッペンハイマーにとってはメタファーとしての閃光はあっても、一瞬にして10万人もの人々が命を落とし、数年を経ても長年にわたる原爆症の被害を知ることはなかっただろう。来日した時にも広島には足を向けなかったというが、それはそうだというしかない。現実を目にしたら、精神のバランスを保つことは難しい。当事者であることの重さ。
映画の中で、トルーマンは「世界の誰が君を非難するのか。非難されるのは私だ」と言って、オッペンハイマーを突き放すが、自らの手で原爆を生み出したものの苦悩はトルーマンには想像もつかないはずだ。トルーマンが堂々とそうした言葉を吐くのは、一方に戦争を終わらせたのは自分だという矜持があるからだ。
80年近く経っても、今だにそうした言説と現実の乖離は埋められていない。
クリストファー・ノーランが現実の原爆の被害を知らないわけはないと思うが、オッペンハイマーが「知っていた」として描くのは、作り手としては踏み込みすぎだ。
ノーランが描いたのは原爆ではなく、オッペンハイマーだからだ。
と書きながら、あまりスッキリはしない。
今でも原爆の被害の実相は世界に伝わっているとは言い難い。
いまだにワシントン州リッチランド高校の校章やグッズ、校舎の壁などにキノコ雲が使用されている現実。
所詮映画が何か現実を越える契機をもつことなどあり得ないとは思うのだが。
この映画、アメリカではどんなふうに見られたのか、知りたいものだ。