『凪待ち』(2019年製作/124分/PG/日本/監督白石和彌/香取慎吾・西田尚美/6月28日公開)香取慎吾、ファンにはたまらないのだろうけれど、ギャンブル依存で坂を転がり落ちていく人間を演じるには、眼光が強くて優しいし、何より意志的すぎる。体つきも大柄でよく鍛えられているのが外から見ても分かる。不安定な狂気のようなものとは対極的だ。

 

『凪待ち』(2019年製作/124分/PG/日本/監督白石和彌香取慎吾西田尚美/6月28日公開)

 

 

公開から4か月。ネットでの評判は数字的には3.5~4.0と高いが、レビューを見てみると、毀誉褒貶がかなりはっきりしている。

孤狼の血」の白石和彌監督が、香取慎吾を主演に迎えて描くヒューマンサスペンス。「クライマーズ・ハイ」の加藤正人が脚本を手がけ、人生につまずき落ちぶれた男の喪失と再生を描く。無為な毎日を送っていた木野本郁男は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓と彼女の娘・美波とともに亜弓の故郷である石巻に移り住むことに。亜弓の父・勝美は末期がんに冒されながらも漁師を続けており、近所に住む小野寺が世話を焼いていた。人懐っこい小野寺に誘われて飲みに出かけた郁男は、泥酔している中学教師・村上と出会う。彼は亜弓の元夫で、美波の父親だった。ある日、美波は亜弓と衝突して家を飛び出す。亜弓は夜になっても帰って来ない美波を心配してパニックに陥り、激しく罵られた郁男は彼女を車から降ろしてひとりで捜すよう突き放す。その夜遅く、亜弓は遺体となって発見され……。「くちびるに歌を」の恒松祐里が美波、「ナビィの恋」の西田尚美が亜弓、「万引き家族」のリリー・フランキーが小野寺を演じる。

                        (映画.COMから)

 

木野本邦男を演じるのがスマップの香取慎吾、ファンにはたまらないのだろうけれど、ギャンブル依存で坂を転がり落ちていく人間を演じるには、眼光が強くて優しいし、何より意志的すぎる。体つきも大柄でよく鍛えられているのが外から見ても分かる。不安定な狂気のようなものとは対極的だ。

 

西田尚美が演じる亜弓にはリアリティがある。魅力的ではあるけれど狭量で不安定、且つ不運な中年女性をよく演じている。娘役の植松祐里は健康的ではつらつとしている。被災地差別で引きこもりとなったという設定には全くなじまない。

 

小野塚を演じるリリーフランキーはどうだろうか。

不気味さという点では右に出る者はいないが、ストーリーの流れからすれば、最後のオチはバレバレ。

亜弓の父親勝美役の吉澤健は、存在感あり。頑固なだけでない老人の鬱屈がよく出ていたが、ストーリーとしてはそんな老人いる?とも思える。

 

亜弓の前夫である中学校教員の村上竜次を演じる音尾琢真は達者。こういう人がいると画面が締まるような気がする。

 

でも、こうして並べてみると意外性のあるキャストはいないし、ストーリーそのものが既視感が強くて、新鮮味が感じられない。

木野本には、赳坂を転がるように落ちていく男の止めようのない落魄にリアリティがないし、どこか知的で律儀であったりもして中途半端。周辺の枝葉のストーリーも、震災と漁師の話、前夫のDVと外国人女性との再婚、そして出産、勝美とやくざの親分とのかかわりなどみな取ってつけたように感じられる。亜弓に惚れながら、思いを伝えられない小野塚が亜弓を殺してしまうのも、リリー・フランキーだからよく分かるけれど、こんな人、普通にはいない。

 

木野本を救うための勝美が船を売った金を全て木野本に渡す。木野本は全額を競輪にかけて…。

 

最後の船のシーンもうまく落ちたとは言えないのではないか。

 

あちこちにおいた布石はすべて回収したが、でそれで何?という感じ。

 

白石監督、ときどきよく分からんものをつくるが、これはまだわかる方。でも面白くない。『凶悪』『虎狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』はよかった。11月8日公開の『人よ』はどうなんだろうか。多作なのはいいことだと思うけど。