読み飛ばし読書備忘録①

梅雨寒。昨日から気温が上がらない。小雨と曇天の繰り返し。

朝の気温18℃。早起きのらいに餌をやりながらカーテンを引くが、掃きだし窓を開ける気分にならない。敷石がうっすらと濡れている。


5月に夏日や真夏日があったが、そのまま夏になるわけではない。寒い。もう一度布団に戻る。

 

いつもより早めの散歩、二人でらいを連れて。

風があるので、薄いジャンパーを羽織ってでかける。


このところカワセミを見かけない。見かける鳥の種類も減っている。

ムクドリヒヨドリ、時折ツバメ。ハト、カラス、スズメは変わらない。

 

河畔の新造成地に家が建ち始めた。

かなりの広さの林を切り払って基盤整備に2年ほどかかった。今年に入って、散歩道から5mほど高い造成地に道路が出来、電柱が立ち始めた。カーブミラーなどの付帯設備が設置され、ぽつぽつと戸建てのかたちが見え始めた。毎日、1,2軒ずつ増える。

 

木造の骨組みが見え、建前の吹き流しが風にあおられて…といった光景はない。突然、足場がつくられその中に壁を伴った躯体が見え始める。骨組みをつくって・・・というより、壁も含めてプラモデルを組み立てるように。


事前にカットされた部材を一気に組み立てているようだ。だから突然「箱」が現れるように感じられるのだろう。


2年前から始まった最寄り駅南町田駅の再開発。グランベリーモール(グランベリーパークと変更されるらしい。駅名も変わるそうだ)のリニューアルに合わせての分譲のようだ。


この宅地造成、特に反対運動はなかった。

ただ、散歩人である私たちが失くしたものが一つある。ウグイスの啼き声である。

 

毎年3月なかばころ、この林から生まれたと思える稚拙なウグイスの啼き声が聞こえ始め、6月の今頃まで聞こえていた。姿は一度も見たことがなかった。

 


造成が始まったころ、ウグイスは対岸の小さな林に移った。そのころ初めて姿をみた。ウグイス色には見えなかった。メジロの方がウグイス色だった。


以来、去年も今年もウグイスの声を聞くことはなかった。他の鳥は変わらずに姿を見せるが、ウグイスはどこかに行ってしまった。


喪失感などというのは大げさだし、ウグイスのことを考えるのは散歩の途次の数分にすぎない。なのになんとなしの寂寥感のようなものがあるのはたしかだ。

 

さて、またまた備忘録。4月以降の読書録、記録だけでも。

読み飛ばし読書備忘録①

『氷平線』(桜木紫乃・文春文庫・初出2002年)★★★★

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『祖父が死んだあとはしばらく香典袋だった。一人で客を取る生活を始めてからやや経って、どうやら最初の客は祖父が話をつけたということを知った。それからはいつも、明るく体を売ることに決めたのだといった。
「だって辛気くさい女なんて誰も抱きたくないし、自分を可哀相がったってしかたないでしょ」
友江の話が少しも本当っぽく聞こえないのが、嘘をついていないせいだとは、十八の誠一郎にはまだわからなかった。』(表題作・224頁)

 
◇短編集。どれも味わいの深い、完成度の高い作品。

 

『とげぬき新巣鴨地蔵縁起』(伊藤妃呂美・2007年・講談社)★★★★
「・・・いざ現実となりますと、ときにぎょっとするのです。明け方目覚めて、老いはてた男が隣に寝ているのを発見したときなど、その白髪と皴があまりに凄くて、人というより、浦島の煙と暮らしているような気さえいたします。かくいう私も五十歳、しみだ、白髪だ、脂肪だと、あらゆる「し」のつくものがにくくてたまらぬ。「しろみ」自身も。しかし老いの底にしがみつくこの男に比べれば、まだまだ余裕がございます。死をことさらに凝視したり、否定したりはせずにいられる。私はむしろ、煙のそばにただ座る一所不在の妻のように。」(276頁)

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◇打ちのめされて、読みつかれた。疲れた?憑かれた?伊藤妃呂美はただ者ではない。

 

『玉砕の島ペリリュー島 生還兵34人の証言』(平塚柾緒 2018年 PHP研究所)★★★

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◇唯一、アメリカの上陸戦を組織的に阻んだペリリュー島の日本軍。餓死の恐怖を超えて生き残った34人の証言で構成。米軍の糧秣を盗んで何年も生き延びるしぶとさ。

 

ベートーヴェンを聴くと世界史がわかる』(片山杜秀・2018年・文春新書)★★★

西洋音楽史の入門書。語り口が軽くわかりやすい。西洋音楽は中東を抜きには語れないことや、19世紀を生きた等身大のベートーヴェンの姿が見えてくる。ただ日本に引き付けすぎる論の展開にやや無理がある。

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『愛が何だ』(角田光代・2006年・角川文庫・初出2003年)★★★★★

◇同名映画(2019年・岸井ゆき主演)は見ていないが、小説で十分に楽しんだ。映画をみてがっかりしなければいいのだが。そのぐらいいい出来だ、この小説。

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『赤松小三郎ともう一つの「明治維新」-江戸政権の「改装」の可能性』(関良基講演録・2019年・歴史教科書に対する《もうひとつの指導書》研究会編)★★★★★

薩長による維新体制批判。赤松小三郎を中心とするもうひとつの「明治維新」構想。幕府側・奥羽越列藩同盟の中に共和制への萌芽をみる。ワクワクする講演録。

 

『声』(アーナルデュル・インドリダソン・柳沢由美子訳・2018年・創元推理文庫・初出2015年)★★★★

 

 

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◇捜査官エーレンデュルシリーズ第三作。友人からいただいたものなので、第1作2作ともに未読。ホテルに住み着いていた老齢のドアマンが殺される。彼は幼少の頃天才的なボーイソプラノだった。その栄光からの転落と家族との軋轢。同時に刑事エーレンデュルが抱える幼少の頃のトラウマ、そして現在の彼の家族のもつれが重なって物語に深みを与えている。アイスランドのミステリー、かなり面白い。

『らん』 85号★★★★
 

 

  しあわせということばから帰途避難


  風向きに手を貸しているヒアリ
                     五十嵐進

◇いつも思わぬ視点にびっくりする。