2025年3月25日 高松地裁判決、教員の時間外労働と休憩時間の確保について初めて明確に認め、賠償を命じた。(上)

共同通信が5月28日、次のような記事を配信。教員の違法残業に対して賠償を命じる判決が3月に高松地裁で出ていたという。

 

 元高松市立中教諭に違法な残業をさせたとして香川県に賠償を命じた高松地裁

 労働基準法に反する時間外労働(残業)をさせられたとして、元高松市立中教諭の男性(67)が香川県に損害賠償を求めた訴訟の判決で、高松地裁が3月、計5万円の支払いを命じていたことが28日、分かった。校長は勤務時間が大幅に増えると認識しながら別日への割り振りを怠ったほか、生徒の合宿に同行した教諭に休憩時間を与えなかったと認定。労基法に基づく義務を果たさなかった結果、肉体的・精神的苦痛を与えたとした。
 教員の働き方に詳しい大阪大の高橋哲准教授は「公立校教員の残業について労基法違反での賠償責任を認めた判決は初めて」としている。
 訴訟で県側は、教員は命じられた業務と自主的な業務が混然一体となっており、校長が労働時間を的確に把握するのは不可能だと主張した。3月25日の判決で田中一隆裁判長は、校長の指揮命令に従って業務に従事する合宿の引率などは時間の管理が容易で、賠償責任を限定的に捉える必要はないとして退けた。

 

判決全文を読んでみた。

なるべくわかりやすくその中身をまとめてみたい。

 

判決表書きに被告として香川県香川県人事委員会、香川県教育委員会など14人の代理人(弁護士)の名前の記載がある。一方、原告側は原告本人の名前があるだけ(非公表)。代理人氏名の記載はない。

これでこの裁判が本人訴訟だということがわかる。本人訴訟で原告が勝利することはまれ。裁判は司法試験を通った「プロ同士」がやるもの。素人の参入は喜ばれない。

徒手空拳、あっぱれ。

 

加えてこの判決の面白いところは、教員の労働をどのように認識するかという点で、過去の判例と大きく違ってきているところだ。

教員の時間外労働は給特法によって命じる範囲を限定し、緊急やむを得ない場合のみ命じることができるとし、それ以外の時間外勤務については自主的自発的なものとされ、労基法上の時間外勤務として認めてこなかった。もちろん労基法37条の割増賃金は適用されず、教職調整額給与の4%のみが支払われてきた。

現実に膨大な時間外勤務があるのに、ないものとされてきたのはこういう仕組みによる。

今回の判決では、宿泊行事の中の時間外勤務について、限定的ではあるが、労基法上の時間外勤務として認定している。

その前提として

原告の勤務時間は、午前8時05分から16時35分

その上で原告が宿泊行事での時間外労働にあたると主張する時間帯を以下のように分類している。

(甲) 令和元年10月27日の7時から23時まで

           28日の6時15分から23時まで

           29日の6時15分から16時35分まで

(乙)       27日の23時から23時50分まで

           28日の23時から翌0時15分まで

(丙)       27日の23時50分から翌6時15分まで

           29日の0時15分から6時15分まで

 

まず、9つの原告が請求した

1項の「措置要求判定取り消し」(争点⓵)については、

「原告は、令和6年3月31日に再任用期間を満了し、その後人気は更新されておらず、口頭弁論終結時に、高町市職員の地位を失っている」から

「訴えの利益を欠くものというほかない。」として却下。

 

 

請求2項「香川県は判定において認定された違法事実について、適正な行政行為を行え」

請求3項「香川県は集団宿泊学習における業務の違法な行政行為をなくし、適正な行政行為を行え」

請求5項「香川県は集団宿泊学習において違法な業務を行わせないようにせよ」

請求9項「香川県は集団宿泊学習の違法な業務につき、慰謝としてふさわしい行政行為を行え」

以上の適法性について、裁判所が原告に求めた(求釈明)で「一定の処分又は採決」について明らかにされなかったので、訴えは不適法と判断し、却下。

 

次に争点⓶、集団宿泊学習(以下判決文に従って「合宿」とする)について

   (ア)給特条例6条の定める正規の勤務時間の割り振り、

   (イ)時間外勤務命令

   (ウ)休憩時間の明示的な付与

   (エ)労働時間の把握について、国賠法条の違法性が認められるか

  

  争点⓷ その損害額

が検討されていく。 

 

そのための

(1)認定事実を以下に列挙。まず

 【合宿に至るまでの経過・準備等】の認定事実をまとめると、

 校長は合宿実施前に生徒の安全確保、教育活動の充実を図るため、合宿に関する会議を実施するよう命じた。⇨ 実施されたのは4回時間外勤務時間は、60分、95分、120分、185分であった。これに対し校長は正規の勤務時間を割り振理、付与した休憩時間は各日45分であった。

 校長は、合宿に関する「勤務時間の割り振り」と題する書面を職員に提示した。それによると正規の勤務時間は、

 1日目 7時から23時まで

 2日目 6時15分から23時まで

 3日目 6時15分から16時35分まで

超過勤務時間は合計19時間50分である旨記載。また1日あたり休憩時間を1時間付与するものとし、合計時間外時間からこれを控除し16時間50分が正規の勤務時間に割り振るべき時間とした。

また、校長は1日目、2日目の23時から24時まで時間帯については、交代で入浴しながら就寝指導するものとした。就寝指導とは、不測の事態が生じた時の指導であり、24時までの継続的な指導を意味するものではないとして、正規の勤務時間は割り振らなかった。

さらに24時から翌6時までの時間帯(時間帯丙)は勤務時間にあたらないと判断、正規の勤務時間は割り振らなかった。

 

【本件合宿当日】の認定事実をまとめると、

 校長は1日あたり1時間の休憩時間を付与するものされていたが、休憩時間の配置は明示されていなかった。

 職員は「職員の動き」通り業務に従事した。

 1日目の職員打ち合わせは23時50分終了、2日目は0時15分に終了したが、校長はこれを正確に記録していなかった。

 校長は職員に対し、合宿期間中本件センターに宿泊するよう指示した。

 校長は時間帯丙に緊急事態が発生した場合、職員は生徒の安全確保等の措置を講じる必要があると考えていた。

 時間帯丙での緊急事態のマニュアルは作成されていなかった。

 時間帯丙で原告が業務に従事した事実はない。

 1日目2日目ともに時間帯丙において、生徒数名が発熱、対応は主として養護教諭が行なった。

 

【合宿後の事情】の認定事実をまとめると、

 合宿中の超過勤務時間について職員は、その後の勤務日や時間帯を指定し、割り振りを実施する旨申請し、校長はこれを承認、原告も同様に申請、承認、割り振っていた。

 

(2)判断の枠組み

 校長は、本件合宿やそれに備えての1年団会議が実施する場合、各種法令、条例等を遵守する職務上の義務があった。かかる義務に違反し、損害が発生した場合は、被告は、国賠法条の責任を負う。

 仮に本件校長の職務行為において国賠法上の違法性が認められた場合、本来その責任は高松市にあるが、被告は県費負担職員であるから県もその責任を負う。

 この点について、被告は教育職員の職務の特殊性から被告が国賠法上の損害賠償責任を負うのは、給特法が時間外勤務を命ずることができる場合を限定して、教員の労働時間が無定量になることを防止しようとした趣旨を没却するような事情が認められる場合に限られると主張する。確かに教職員の業務は児童・生徒への教育的見地から、自律的な判断による自主的自発的な業務への取り組みが期待され、校長の指揮命令に基づくものとが日常的に渾然一体として行われているため、峻別は困難、校長は指揮命令に基づく業務に当該教職員が従事している時間を特定して厳密に管理することは不可能。

このような労働時間の管理上の問題があり、教職員の勤務実態が労基法等に違反していることをもって、常に国賠法上の違法性が認められると考えることはできない。

 

しかし、教職員の業務には校長がカリキュラム等を検討した上で、各時間帯における教職員の業務内容や生徒指導の態様につき、詳細な指揮命令を発出した上で実施されることが少なくない。

このような業務では、教職員が自律的な判断をする場面は少なく、教職員は校長の指揮命令に従って業務に従事するといえる。校長もその時間を特定、管理することは容易である。

この場合、被告が主張する上記の理(傍線部)は妥当せず、服務管理者等の国賠法上の責任を限定的に捉えることはできない。

本件合宿において校長は「教員の動き」記載の業務に従事すべき旨指揮命令していたと考えられるから、教職員の業務に従事する時間を特定、管理することは容易であった。1年団会議においても会議の時間の把握、管理は可能であった。

従って被告の主張は採用できない。

 

                   

以下次回にまわすが、こうした判断、認定は今までにない画期的なもの。埼玉高裁判決を何歩も進めたものといえる。

鹿児島・特攻記念館の校外学習、昼食時間