教員の休憩時間に関する横浜市人事委員会の判定に対するコメント 休憩時間問題(3)

 

今回は、Nさんの措置要求に対して出された横浜市人事委員会の判定について。

 

まず「措置要求」とは何かだが、地方公務員法は第46条で、地方公務員は給与や勤務時間など職員の勤務条件に関して人事委員会(または公平委員会)へ改善を求めることができるとしている。有体に言えば、職員団体(労組)の団体交渉ではなく、個人が勤務条件の改善を求めることができるシステム。

 

*なお人事委員会と公平委員会はその権限と自治体の規模による違いがある。人事委員会は都道府県や政令都市に設置され、給与の勧告や採用試験など人事全般について、公平委員会は不利益処分の審査など職員の権利保護が中心とされている。

 

 

現在の教員の勤務体制を規定している給特法制定時に、当時の人事院総裁佐藤達夫は、給特法が教職員の時間外勤務を野放し状態になるという野党からの批判に対し、「給特法は時間外勤務を4項目のみに限定したこと、さらに地公法に措置要求という制度があること」をあげ「二つのブレーキ」をつけた法律であるとした。しかし、前者はほとんどなんの効き目もなく野放し状態に、かろうじて残ったのが措置要求。ただし、使用頻度は少なく、要求が認められることは極めて少ない。

 

Nさんの要求項目は二つ。

 

1 課業中の休憩時間が取得しにくい状態を改善する措置をとってほしい。

2 休憩時間内にやむを得ず行った時間外勤務の実績を記録できるように教職員庶務

  事務システムを改修する措置をとってほしい。

 

の2点。

 

 

判定書の構成は 

    主文

    理由

    第1 要求の趣旨 

    第2 要求の理由 1要求の趣旨1について 要求 の趣旨2について 

    第3 当局の意見 

    第4 判断

 

 

主文は以下の通り

 

要求者の要求のうち、要求の趣旨「1 課業中の休憩時間が取得しにくい状態を改善する措置」について、適切な割り振り変更や休憩時間の分割を行うなど、休憩を取得しにくい状況を改善するための措置を講ずる必要があると認める。その他の要求については、これを取り上げることができない。

 

ここではその理由が述べられている「第4 判断」について逐次コメントしていく。 

 

1 当委員会(人事委員会のこと=筆者註)が認定した事実等 について 

 

(1)から(3)について 

(1)で判定は、労基法34条の休憩時間の取得時間と(6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩時間を労働時間の間に与えなければならない)とその趣旨(労働時間の途中に与える 意義・・・蓄積した心身の疲労回復と作業効率の向上、作業能率の増進、災害防止)について指摘しているものの、休憩時間の3原則「・一斉付与(皆一緒に)・途中付与(勤務時間の間に)・自由利用(何をしても自由) 」については一切触れていない。 

 

(2)では勤務時間条例を引き、割り振りについて規定した横浜市立学校職員の勤務時間に関する規程(平成11年3月)をもとに第3条「教育委員会は、学校の円滑な運営上特に必要と認められた場合には、別に休憩時間を置くことができる」を援用し、さらにその中の「学校の円滑な運営上特に必要と認められた場合」について「各学校における教育課程編成上の事情、幼児、児童生徒指導対応などにより、あらかじめ、校長が必要と判断した場合」(横浜私立学校職員の勤務時間に関する規定の施行について(令和5年8月以下「施行通知」)を引いている。 

 また「別に置くことができる」についても「施行通知」を引いて、休憩時間付与は「10時から16時までの時間帯を超えてもよい(最初、および最後はダメ)」また特段の事情により付与困難と判断した場合は「休憩時間を臨時に変更することができる」としている。 

 

 さらに当局の対応について(3)では「教職員の勤務時間の管理及び時間外勤務の縮減について(令和7年4月)」の中の「休憩時間の確保」の項の「所定の時間に休憩の取得が困難な場合は、空きコマの活用や分割取得、休憩室の確保等の工夫をするなどして、適正な確保に努めてください」を示している。 

 

【コメント】 

 判定は、労基法が定める休憩時間の規定について大原則を押さえることなく、規程と通知の中の例外規定を殊更に大きく取り上げている。まずは法の大原則を押さえずに例外規定を優先して認定しているのは問題。 

 さらに休憩時間が「労働からの解放であること」や「給与の支払われない時間であること」さらには「校長は教職員に対し、休憩時間の割り振りを明確に行い、何らかの事情によって休憩時間が取得できないことを把握、代替措置を明確に指示すべき職務上の義務があること」について、一切触れていないことも問題。法を軽視、規程、通知を基にした事実認定は、極めて偏頗かつ不十分と言わなければならない。 

 

(4)から(10)までは、Nさんの職場の具体的な休憩時間についての事実認定である。 

 

(4)では、Nさんの休憩時間が15時45分〜16時30分であること。 

(5)では、当初割り振られた休憩時間に設定、指示した業務として職員会議、委員会、学年会等を挙げ、これらは「授業時間中に設定することが困難なため」全員に共通する授業時間外に設定することが多いとしている。 

 

【コメント】 

 これは、あらかじめ年間計画において示されている(校長が開催を命じている)会議等によって、年度当初に校長自らが割り振った教職員の所定の休憩時間が取得できないことを表している。さらに、電話や来客、生徒指導や保護者対応、地域対応は「突発的」であり、「その場にいる職員しか対応できない」ことを認定しているが、休憩時間の自由利用、労働からの解放という点からして、こうした対応は休憩時間ではなく勤務時間における手待ち時間と考えるべきであるし、休憩時間ならば、その対応は管理職が行うか教員の休憩時間の割り振り変更によるべきである。 

 結果として、年度当初に校長が定めた勤務時間の割り振りがきわめて流動的なものであり、最初からその原則が守られないことをこの判定は認めているということだ。そうでないならば、校長は会議が設定されている時間を除いて休憩時間を割り振るべきである。授業時間のカットも含めて校長の裁量で行うべき。 

 

(6)は、Nさんの校務分掌について言及、放送室での指導、担任不在の時は教室での昼食指導、昼休みには委員会指導、早退生徒の対応、教材準備等を行うこと。また〇〇部については活動時間15時50分から16時50分を明示し、年間の指導日数を記している。 

 

【コメント】 

 部活動指導の時間においては、年度当初に割り振られた休憩時間の取得は週2回とはいえ恒常的に困難であることが明らかになっているが、それについて言及していない。 

 

(7)では具体的に指摘しているNさんが空き時間に行った業務、遅刻、早退生徒の対応、家庭連絡、地域の巡回、成績処理、教室片付け、委員会レジュメ印刷の業務について「校長からの指示によりその時間に行ったものと、校長からの指示ではないがその時間に行ったものの両方がある」としてその質の違いに言及している。 

 

【コメント】 

 授業の空き時間は当然勤務時間であり、職務専念義務がある。校長の職務命令が包括的に出されている時間であると考えられる。そうでないとするならば判定は、「校長からの指示ではないがその時間に行った」業務を特定し、それらの業務が他のどのような時間に行うべきかを明らかにすべきである。 

 

(8)で、校長は令和5年5月30日の職員会議資料において「休憩時間が取得できないときは、時間を変更して取得してください。なお取得できないときは、できるだけその旨を「時間外超勤実績」を入力・申請する際に「コメント」欄に記載してください」と記載し、その内容を「教職員に周知」「運用」がなされていると認定している。 

 

【コメント】 

 教職員の休憩時間の取得については、校長の職務上の義務であり、時間を変更して取得させるときはその具体的な時間を指定すべきである。また「コメント」欄に記載したとして、それがその後どのような扱いとなるかを明示しなければ画餅にしかならない。人事委員会は、休憩時間の取得についての校長の職務上の義務を明らかに軽視しているし、その結果休憩時間が取得できない状況を追認しているに過ぎない。 

 

(9)では、Nさんが令和6年の一年で休憩が取得できなかったとコメント欄に記載した日が113日であること、また実際に休憩時間が取得できなかった日は125日であるとNさんが記録していることを認定している。 

 

【コメント】 

 この数字に対して判定は後段で一定の評価をしている。 

 

(10)においても、一つの例として令和6年5月7日にNさんが1時間目から6時間目まで授業、学活を担当し、休憩時間が割り振られた時間帯においても特別委員会がおこなわれていたことを認定している。 

 

【コメント】 

(9)(10)の状況は、校長が教員の休憩時間取得のための職務上の義務を全く果たしておらず、A中、少なくともNさんに限っても明らかな労基法違反が罷り通っていることを示している。労基法の軽視以上にこれは不適法、違法状態と見るべきだが、判定はにそうした認識はない。 

 

 次に「2 要求の趣旨1について」の吟味として判定はまず「(1)要求者の休憩時間の設定について」指摘する。ここでは休憩時間の設定が、勤務時間8時20分〜16時50分のうち15時45分〜16時30分までに割り振られていることについて「(労基法を踏まえれば)概ね勤務時間の真ん中に置くことが望ましいが」、「生徒の活動が中心である学校」では、清掃活動の終了後の時間に割り振るのは「適切でないとはいえない」としている。また〇〇部の活動は「毎日あるわけではない」から、この休憩時間の割り振りは「適切でないとはいえない」としている。 

 

【コメント】 

 ほとんどの課業日においては、授業、学活、清掃、部活動、委員会などと設定された休憩時間取得が全く不可能である中学校の日常業務について、人事委員会が理解しているとは思えない。 さらにNさんは〇〇委員会と〇〇部を担当、毎昼は〇〇室で指導、〇〇部の活動は毎日はないため、休憩時間を15時45分から16時30分と割り振ることが「適切でないとはいえない」として、現実に「Nさんが「125日」休憩が取れなかった事実を「問題なし」としている。 

 

 また(2)の要求者の休憩時間の取得状況について、では、休憩時間に行った業務についてその「質」について言及している。Nさんが休憩時間に行っていた業務のうち、職員会議、特別委員会、学年会は「校長の指示による業務」であり、授業時間中に設定困難なため「全員に共通する授業時間外の時間である休憩時間に実施することは、適切でないとまではいえない」として、休憩時間に会議が入ることは止むを得ないと認定している。 

 

【コメント】 

しかし、年間を通して定時に割り振られた休憩時間を課業期間の毎月において休憩時間を取得させず実施する業務が「校長の指示」によるものであることはかなり不適切なことなのではないのだろうか。 

  

 続いて、Nさんが休憩時間に行っていた授業準備、テスト採点、成績処理について、「これらを遂行する時間帯までの(校長による)指示があったとは認められない」としている。 

 

【コメント】 

 これらの業務は校長による黙示的な職務命令がなされているものであり、これを休憩時間に遂行しなければその分超過勤務となってしまうことからすれば、校長による黙示的命令の割り振りが不適切と考えるべきであり、校長はこれら業務にかかる時間と休憩時間の双方を明確に割り振る職務上の義務があると考えるべきであるから、こうした評価はあたっていない。 

 判定は、当局は「時間をずらしての取得」「分割取得」して取るべきとしているので「当初割り振られた時間に取得しなければならないわけではない」というが、「ずらし」も「分割」もできず、日々恒常的に超過勤務となってしまう現実に対してこの判定は触れようとしていない。 

 

 一方、判定は「遅刻生徒の対応」「家庭連絡」については「相手方がある業務のため、その時間に対応する必要のあった業務」と認定している。 

 

【コメント】 

 本来休憩時間が「労働からの解放」であり、賃金が支払われていないことを前提とするならば、これらの休憩時間における対応は基本的に管理職が行うべき業務である。 

 

判定は、令和6年5月7日火曜日を例に挙げ、この日Nさんは「空き時間がほぼなく、休憩を取得することが難しい状況だったことがうかがえ、要求者が勤務する日によっては、課業中の『休憩時間を取得しにくい状態』であったことを認めている。 

 

【コメント】 

と言いながら「生徒の昼休みや授業の間の時間に休憩することができないわけではないと考えられるが、『課業中の休憩時間を取得しにくい状態』にあることが認められる」と付け足している。人事委員会は基本的に現場の実態を知らない。「授業の間に休憩することができる」としているが、現実には授業の休み時にトイレの時間を確保できるかできないかというのが現実。昼休みの実態にしても同様である。そもそもそんなふうに取得する時間が休憩時間といえるのかどうか、法律に照らし合わせてから言及するべき。 

 

判定は、ここでようやく校長が「システム上、時間外・超勤実績を承認する際コメント欄で令和6年度には113日間、1日を通して休憩を取得していないという要求者の申告を把握していた事実」を認定する。さらに「当初割り振られた休憩時間に業務を指示した場合には、要求者が授業の空き時間等に休憩時間を取得できるよう、校長は適切に割り振り変更を行う必要がある」として、 

「校長は、要求者が休憩をしていない状況を、少なくとも1年の間、システムで把握しているにも関わらず、休憩時間の割り振り変更ができる旨を包括的に周知するのみで、要求者に対し具体的な措置を講じていない。」 

「このことからすると、休憩時間を取得しにくい状態については、この解消に向けた措置を講ずる必要がある。  (傍線筆者)

 

【コメント】 

 「具体的な措置を講じていない」「解消に向けた措置を講ずる必要がある」としているが、労基法34条に照らせば、少なくとも令和6年度の1年間、校長の立場からすれば職務上の義務を果たしていない不適法、違法状態であったということである。本来賃金の支払われていない休憩時間に業務に就かせていたことは損害賠償の対象であり、きわめて重い法律違反である。 

 

 ところが、判定は、校長は「休憩時間が取得できない場合には」(当局が示す)「時間をずらす」「分割する」などの割り振り変更が可能であることを職員に周知しているのだから、教員は「あらかじめ出張や部活動指導により、当初割り振られた休憩時間に業務に従事することが予見できる場合は、事前に校長に申し出る等により、自らが休憩時間を取得できるように工夫することが可能」として、休憩時間を正しく付与できなかった校長の責任を曖昧にしている。 

 

【コメント】 

教員「自らが休憩時間を取得できるよう工夫する」とあるが、校長は「割り振り変更が可能」であることを示すだけで、実際の変更は教員が「工夫」するというのはお門違い。校長は職務上の義務として教員に休憩時間を取得させなければならないのだから、その方法、結果まで提示、把握しておく義務があるのではないか。 

 

判定はまとめに入る。 

「以上のことを総合すれば、校長が要求者に当初割り振られた休憩時間に業務を指示したことにより、要求者が当初割り振られた時間に休憩時間を取得できない場合もあり、要求者の勤務する日によっては空き時間がほぼない日もある上、空き時間に業務を指示することがありうることを踏まえると、休憩を取得しにくい状況にあったことが認められる。」 

 

【コメント】 

課業日200日超のうち125日間で休憩が取得できない状況に対し、「場合もあり」「しにくい状況」という評価は不適切。 

 

 「また、校長は1日を通して休憩していないという要求者の申告を把握していたにもかかわらず、具体的な改善措置を講じていない。/したがって、校長は適切な割り振り変更や休憩時間の分割を行うなど、休憩を取得しにくい状況を改善するための措置を講ずる必要がある。」 

【コメント】 

校長の職務上の義務に言及しない分、改善するための措置は「適切な割り振り」と「分割付与」に限定されて行ってしまいがち。 

 

次に要求の趣旨2「休憩時間内にやむをえず行った時間外勤務の実績を記録できるように教職員庶務事務システムを改修する措置をとってほしい」という要求だが、これに対し人事委員会は「教職員の休憩時間の取得状況をどのように確認し、記録するかは、当局が自らの責任と権限において判断すべき管理運営事項に該当することから、措置要求の対象とはならない」として却下の判定。

【コメント】 

休憩時間取得の確認、記録は管理運営事項であったとしても同時にそのまま教員の勤務条件に直結する問題であり、当局は教員が確実に休憩時間取得するための方策について、教員からの要請があれば、これを交渉事項として扱い、交渉によって確実な休憩時間取得という勤務条件の改善につなげるべきである。 

 

 

【判定全体を通してのコメント】 

 判定の各所の事実認定について「適切でないとはいえない」という二重否定の表現が散見される。大変に曖昧で情緒的。「適切だ」と言い切れないところに、当局寄りにならざるを得ない人事委員会の立場が見てとれる。その上でこの表現のいちばんの問題は、適切か適切でないかの基準が明確に示されていないことだ。事実認定が適切か否かは、基本的に該当する法律に照らして判断されるべきである。休憩時間を定めた労基法34条は、その付与について使用者の責任を重く見ている(違反した場合、使用者は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処される可能性がある(労働基準法第119条1号))し、その違反要件は明確で「労働時間が6時間を超える場合の45分、8時間を超える場合の1時間の休憩付与(途中付与、自由利用、一斉付与の原則)に違反した場合」である。 

 125日間、休憩が取得できなっかったNさんのケースは明らかに34条違反であり、校長は職務上の義務を果たしていないから、違反、不適法な状態にあったということだ。そうした点を認定せずに、校長はずらしや分割について周知はしていたが、具体的な「改善のための措置を講じてこなかった」ので、今後「講ずる必要がある」として校長の責任を免責しているのがこの判定だ。

 香川地裁(3月25日)が、休憩時間付与に関して、校長の職務上の義務違反を認め、損害賠償を命じたのとは大きな違いがある(高裁で逆転判決)。この問題を論ずるときにけっして忘れてはならないのは、勤務時間の割り振りと同様に休憩時間取得・付与は「校長の職務上の義務」であるということだ。

 判定は校長に対して「改善の措置を講ぜよ」と言っている。市内500人超の校長が改善の措置を講じなければならない、ということだ。とはいえこの措置要求が、休憩時間が取れていない状況を告発し、休憩時間が少なくとも「取得しにくい状況」まで認めさせ、これを改善するための「措置を講ずる必要」を認めさせたのは、小さな勝利と言っていいのではないか。問題は「措置」の中身である。人委員会の「勧告」をどこまで具現化させていく、労働組合としてはここからが重要な交渉になっていくのではないか。 

 

散歩の途中、滝田さんにいただいた1枚。(ハヤブサ目ハヤブサ科ハヤブサ属 チョウゲンボウ)