ハールチップかハールシップか?確かその日は決着がつかず、みなすっきりしないもの抱えて家路についたはずだ。半世紀ほど昔の話。

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ネットから拝借しました


先日、亡くなった小中高の同級生、近所に住んでいたS君のことで思い出したことがある。

 

小学校の2,3年生だったろうか。

1960年代の初め、子どもたちは学校の教室や廊下で「アンポ!ハンタイ!」などと言って走り回ったりしていて、坂本九の「上を向いて歩こう」がはやっていたころの話だ。

 

子どもたちはヒマでヒマで、よく学校のグランドや原っぱのようなところに集まって野球をやっていた。

いや、その頃、野球とソフトボールははっきりと区別されていて、私たちがやっていたのはソフトボールで、野球はもっと大人がやる本格的なものだった。

 

ひとチーム9人なんて集まることはなく、集まった人数で適当に分かれてやる、三角ベースといったたぐいのものだった。

 

バットやグローブなどの道具もみなは持っておらず、貸し借りは当たり前。ただ、医者の息子のW君だけはちゃんとしたバットやグローブをもっていて、みな彼には一目置いていて「カントク、カントク」とおだてて、道具を奪い合っていたような気がする。

 

私は左利きだったが、左用のグローブなど親に買ってもらえるはずもなく、兄たちが使っていた古い右用のグローブを右手につけて守備に就いていたものだ。

 

ある時、ファウルチップの話になった。まだまだ野球の情報はラジオが中心の時代。子ども同士の話である。

 

ピッチャーの投げたボールがバッターのバットをかすめて後ろにいた子が出していたグローブに見事に入ってしまった。

 

そしたら一人が嬉しそうに「こういうのファウルチップって言うんだ」と言ったのだ。

 

ところが、これに対して「えー?ファウルシップって言うんだよ」と反論した子がいた。

そこでゲームデッド、チップかシップかで大論争となったのだった。

 

論争と言っても、いわゆるエビデンスとなるのは「ラジオが云ってた」とか「お兄ちゃんが云ってた」とか「うちの父ちゃんがいってたぞ」という程度のもので、優勢か劣勢かは声の大きさか数の多さによっていた。

 

確かその日は決着がつかず、みなすっきりしないもの抱えて家路についたはずだ。

 

後日、どんな形でこの論争に決着がついたのか憶えていない。子ども時代にはこういことが少なからずあった。

 

いや、今もっと重要なことを思い出した。

私は今何気なく”ファウルチップ”と書いたが、あのころ、つまり今から55年ぐらい前の福島の片田舎では、「ファウル」なんて言い方はなかった。ファウルチップは間違いで、ハールチップだったはずだ。

 

ファウルは「ハール」だった。

 

そうそう同様にフェアは”ヒヤ”だった。ヒアではない。フォアボールではなく、”ホア”ボールだった。

 

この地方にはファ・フィ・フェ・フォという発音が存在していなかったということだ。

 

当時は大人が町の小学校のグランドで、よく草野球をしていた。青年たちの野球大会が盛んだった。

 

ゲームの最中、三塁線に飛んだボールのゆくえをめぐって、ハールかヒアかの激しい争いを聞いたことがある。

「何言ってんだ?ヒヤにきまってんべ!」

「ハールだ、まじげえねえぞ!」

 

さて、チップかシップの話だが、私がどちら派だったかはっきりしないが、消極的?「シップ派」だったような気がする。そして、亡くなったS君はチップ派の旗頭だったと思う。

 

もともとS君は賢い子で押しが強く、それに比べて私は躰は大きかったものの気の弱いところのある子だった。

 

今の子どもたちはこんな論争はしない。ファウルチップはファウルチップ以外の何物でもない。

どっちが面白いか?

混沌としていて、白黒決着のつきにくかった時代、のほうかな。

 

 

また、もうひとつ思い出したことがある。

私はS君の家の前のカーブでの交通事故、私はなんと走っているクルマからほおりだされたことがあったのだ。5,6歳くらいのことである。この話はまた今度。