『夏時間』韓国映画のえぐみがなく、慌てずに子どもが動き出すのを待っているような手法。いい映画だった。

f:id:keisuke42001:20210525171305j:plain

この花 クサノオウでしょうか?

 

5月11日の2本目。

『夏時間』(2019年/105分/韓国/原題:Moving On/監督・脚本:ユン・ダンビ/出演:チェ・ジョンウン パク・スンジュン/日本公開2021年2月)

本作が初長編となる韓国のユン・ダンビ監督が10代少女の視点から家族や友人との関係を描き、第24回釜山国際映画祭で4部門を受賞した作品。10代の少女オクジュと弟ドンジュは、父親が事業に失敗したため、大きな庭のある祖父の家に引っ越して来る。しかし、そこに母親の姿はなかった。弟はすぐに新しい環境に馴染むが、オクジュはどこか居心地の悪さを感じる。さらに離婚寸前の叔母までやって来て、ひとつ屋根の下で3世代が暮らすことに。それはオクジュにとって、自分と家族との在り方を初めて意識するひと夏の始まりだった。(映画ドットコムから)

 『わたしたち』(2017年)『はちどり』(2018年)、あるいはさかのぼって『おばあちゃんの家』(2002年)など子どもを正面に据えた韓国映画のみずみずしい水脈(勝手に私が決めたものだが)に入る映画。

物語としてはどうということはないのだが、とにかく細かいところがよくつくられている。

親子三人、叔母、そして祖父、別れて暮らしている母親、夏休みの間のどこにでも起きるような出来事の中で、子どもだから見えるもの、子どもだからどうにもならないこと、作り手は慌てずに子どもが動き出すのを待っているような手法。韓国映画のえぐみがない。姉のオクジュが物語の中心であるが、弟ドンジュを演じるパク・スンジュンの演技がグッとくる。子どもらしいキレがある。子どもってこうなんだなあと自然に思い出される。それと、映画だとどうしても予定調和の関係になりがちなきょうだいのありようがとってもいい。姉弟のぶつかりながら、気持ちはつかず離れず、接近しすぎない独特の距離感。その空気がよく伝わってくる。

ソウルの生活もよく見えるが、父親、叔母、祖父を演じるリアリティ。一人ひとりの表情が語る「ことば」がすばらしい。脚本も手掛けたユン・ダンビの若さと感性のやわらかさ。次のようなインタビューも。

 

――姉役のチェ・ジョンウンと弟役のパク・スンジュンへの演出について

役者に指示を出す時、彼らの心の傷に不用意に触れたくないと考えています。演じる時、役者は過去の記憶を辿らざるを得ないはずですが、監督である私が彼らを追い詰めるのではなく、役者が心を痛めないよう配慮したいと思うからです。撮影に入る前に彼らとたくさん話し合い、役者との距離を縮めてざっくばらんに語り合える間柄になれるよう頻繁に会うようにしました。例えば、電話でおじいさんの訃報を知った時や葬儀場で、オクジュ役のジョンウンさんが泣くシーンでは、彼女に過去の経験を思い起こさせて感情を引き出すのではなく、私自身が過去に経験したことを話すようにしたのです。

訃報を聞くシーンを撮る時はシナリオにも本編にも出てはきませんが、ジョンウンさんが感情移入できるよう叔母さんがオクジュに電話をするセリフを作り、叔母さん役のヒョニョンさんがワンテイクごとにセリフを言ってくれました。スンジュン君に指示を出す時も同様に、「ご飯を美味しそうに食べてほしい」「お姉ちゃんにカバンを取られないようにしてね」など、どう行動してほしいかを話した。そのほうが彼らの演技の助けになると考えたからです。役者の自然な演技を引き出すことに注力し、さらに求めるものがある場合は具体的な行動を話す。私も役者たちと共に成長していくように思っていましたが、ふたりがうまく演じてくれたからこそ実現できたことです。

f:id:keisuke42001:20210525174242j:plainユン・ダンビ