『花嫁人形は眠らない』(1986年)と『歩いても歩いても』(2008年)の加藤治子


先日、BS12で『花嫁人形は眠らない』を見た。1986年4月12日~5月31日に放映されたものの再放送。出演は田中裕子、笠智衆、池辺良、小泉今日子加藤治子柄本明など。

 

2回分ずつの放送だったが、8回分全部見てしまった。

田中裕子と小泉今日子の姉妹。笠智衆の娘である池辺良の妻は亡くなっていて、小料理屋の女将の加藤治子は池辺良と内縁関係にある。

 

小津安二郎でもなく向田邦子でもない、久世光彦流というのだろうか。

時代は86年より10年以上前の設定だろうか。

86年は男女雇用機会均等法が制定された年。この年を境に時代は大きく変わっていく。

このドラマはその時代の変わり際での家族の気持ちのずれと愛情が描かれていて面白かった。

 

田中裕子の独特の清楚さに小泉今日子のはち切れそうな若さ。笠智衆はいつもと同じ演技だが存在感がある。池辺良という俳優がこのころまだ若くてこうしてテレビに出ていたとは思わなかった。年頃?の娘二人をもつ50代のやもめの男の戸惑いと色気のようなものがよく出ていた。

脚本が、今のドラマほどテンポが速くなく、セリフにも行間の味わいが感じられて、いいなと思った。

 

もっとも感じ入ったのは、加藤治子の演技。向田邦子の作品の、狂気を孕んだ演技の凄さが印象的だが、このドラマでは小料理屋の女将の何とも言えない味わい。内縁の男の娘に対するアンビバレントな感情のひだが、独特のセリフまわしと表情にじわっと表れて唸ってしまった。

 

で、数日後。Amazonプライムで『歩いても歩いても』を暇に飽かせてみてしまった。ここにも加藤治子がほんの少しだけ出ていた。原田芳雄が演じる老医師横山恭平の隣人西沢ふさ役で、初めの方で1シーンだけ出ている。歳をとって医院を廃業した恭平が散歩に出ようとして、家の前を掃除しているふさと声を交わすシーン。体調が悪く、もう長いことはないし、長くも生きたくないと言いながら、

 「最後は先生に看取っていただきたいわ」

という。恭平は「そうだね、わかった」と返す。

 

それだけである。ふたりの間にかつて何かがあったのかなかったのか、知る由もない。

 

終わりの方で、ふさの家から恭平に電話がかかる。ふさが倒れたという。

電話口で恭平は逡巡するでもなく

「救急車を呼びなさい」。

救急車が来ると、恭平は救急隊員にふさの様態を聞こうとするのだが、相手にされない。

救急車が行ってしまって、ふさの家族は恭平に深々と頭を下げる。

 

恭平は、家に入りながら、ひとこと「さて、寝るか」。

 

しみじみとしているなと思った。

  

ドラマの中の細い一本の線に過ぎないシーンだが、加藤治子の老いてなおきらきら光る眼の力が印象的。

 

『歩いても歩いても』は是枝監督の作品のなかで一番好きな作品。

やっぱり、いい。