調べようと思いながら、いつの間にかそのままにしてしまっていることはいくつもある。
映画を見ながら、なんだっけこれ?と思いながら、帰宅してブログでストーリーをなぞり、文章にしているときはころっと忘れている。その後、何日も経ってからふと澱んだ記憶の底から湧いてくる疑問。そんな大層なものじゃないのだけれど、気になることがある。
『お隣さんはヒトラー』を見た時のことだ。
ホロコーストで家族を失い、戦後南米コロンビアに生き延びた主人公ポルスキー。70歳を超えた老人だ。
舞台は1960年。戦後15年。ナチスへの恐怖と怒りはまだポルスキーの中にある。
町外れの廃屋のようなポルスキーの住まいの隣に同世代の老人が引っ越してくる。薔薇の植え込みや境界線のことでトラブル。会うたびにポルスキーには隣人がヒトラーに思えてくる。
左がポルスキー。
深夜、ラジオから聞こえてくるドイツリート、シューベルトの「カラス Die Krähe」
歌曲集「冬の旅」の第15曲。若い頃から何度も聴いているからすぐにわかった。
ポルスキーの不安な気持ちがこの曲の独特の揺れうごきとシンクロするいいシーン。
気になったのは、歌い手。歌手の声を聞き分けられるのは、D・フィッシャー=ディスカウとペーター・シュライヤーとヘルマン・プライとそれ以外。皆泉下の人たちだ。
私にはペーター・シュライヤーの声に聞こえたのだが、はて、1960年、ペーター・シュライヤーはコロンビアのラジオに出演していたのかどうか。もちろん録音だろうけれど。
調べてみた。シュライヤーは1935年生まれ。天才的な若者だったシュライヤーのデヴューはオペラで1959年のことだそうだ。
1960年は25歳。若い頃からドイツリートに取り組んだとあるから、可能性がないとは言えない。
ネットで調べても、ほんの一瞬のシーンのこと、曲目すら出ていない。
どうでもいいことだけれど、気に掛かる。
もう一つ、『コンセント 同意』の中で出てきたシャンソン。
小児性愛者の小説家の翻弄される13歳の娘。取り乱す母親。
二人がダイニングでぶつかり合い、煮詰まった時に聞こえてきた。
バルバラだと思った。若い頃から数えきれないくらい聴いてきた。母娘の途方に暮れた気持ちを少し明るくするようなシャンソン。
曲目はわからない。声音は確かにバルバラだった。
明るさとは無縁の沈み込むような独特の声音。
映画の舞台は1986年。
バルバラは1930年生まれ。56歳。1997年に亡くなっている。可能性あり。
調べてみたが、曲目も歌手名も出てこない。
他人にはどうでもいい疑問。だが・・・。
加齢による思い込みとこだわりもあるのだろう。自分の知識や経験の範囲の中でしか判断できなくなっている可能性も強い。世の中、どちらかと言えば曖昧模糊としたことの方が多いのだから、仕方がないのだが。
同じような疑問をもった人もいるのではないか。自分が確かめてやる!という人がいたらうれしいのだが。
カラスはこんな曲。歌い手は日本の人。