2024年8月の映画寸評⑦
<自分なりのめやす>
お勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
みる価値あり ⭐️⭐️⭐️⭐️
時間があれば ⭐️⭐️⭐️
無理しなくても ⭐️⭐️
後悔するかも ⭐️
(64)『ぼくの家族と祖国の戦争』2023年製作/101分/G/デンマーク/原題:
Befrielsen(デンマーク語で「解放」/監督:アンダース・ウオルター/出
演:ビルウ・アスベック カトリーヌ・グライス=ローゼンタール モルテ
ン・ヒー・アンデルセン/劇場公開日:2024年8月16日)
kiki 8月28日⭐️⭐️⭐️⭐️
第2次世界大戦末期にドイツから20万人以上もの難民がデンマークに押し寄せた事実をもとに、極限状態に置かれながらも信念を貫こうとする家族の物語を感動的に描いたヒューマンドラマ。
1945年、ドイツによる占領末期のデンマーク。市民大学の学長ヤコブは、敗色濃厚となったドイツから逃れてきた大勢のドイツ人難民を学校に受け入れるようドイツ軍司令官に命じられ、妻リスとともに究極の選択を迫られる。一家がドイツ人を助ければ周囲から裏切り者と見なされて全てを失う可能性があるが、救いの手を差し伸べなければ多くの難民が飢えや感染症で命を落とすのだ。そんな中、ヤコブの12歳の息子セアンは難民の少女と交流を持つが、少女は感染病にかかってしまう。
「アクアマン 失われた王国」のピルウ・アスベックが父ヤコブ、本作が長編映画デビューとなるラッセ・ピーター・ラーセンが息子セアンを演じた。監督・脚本は「バーバラと心の巨人」のアンダース・ウォルター。
1945年夏、ソ連の対日参戦時に、関東軍が在満州日本人を置き去りにしたように、ナチスもドイツの民間人を占領していたデンマークに連れて行き置き去りにする。軍隊は民間人を盾や標的にはするが、守らない。
20万人ものドイツ難民がデンマークに押し寄せた事実を知らなかった。ナチスドイツは占領した周辺国へドイツ人の移住を進めたが、敗戦を機にこの人たちが難民化する。行き場のないドイツ人が各地で右往左往する時代。日本も1945年夏の段階で満州には150万人の民間人と75万人の関東軍がいたという。日本でももっと満州難民について語られなければならないと思う。
映画は淡々とした筆致で1945年4月から敗戦までをトレースする。全体が小学生のセアンの視点から描かれていて、細かい説明はない。占領国家たるナチスドイツの人々に対し反感を隠そうとしない多くの市民、その中で市民大学の学長ヤコブは、仕方なく体育館を提供するが、狭い体育館の中で500人を超える難民の間ではジフテリアが蔓延する。子どもや老人から亡くなっていく。
はじめはヤコブの妻が食料を支援しようとする。ヤコブはそれをやめさせようとする。しかし、感染症の蔓延の前に、これ以上の蔓延を防止するという理由からヤコブ自身が薬の提供をし、体育館だけでなく校舎を提供し、病人を隔離しようとする。
周囲の学生や市民は、ヤコブ夫婦をナチスの協力者として指弾しはじめる。子どもたちの間にも広がったヤコブ夫妻への敵視は、セアンへの激しいいじめへと繋がっていく。セアンは、両親には激しく反発、自らレジスタンスへの銃の密送を手伝う。しかし、難民の中の女の子がジフテリアに感染していることを見逃せず、父親とともにこの子をたすけようと奔走する。
親子それぞれが重い葛藤を抱えて行動する。この葛藤があまりに痛切だ。一家は同胞からは激しい糾弾を受け、街を出ていくことになる。
救いがないのはヤコブ一家だけではない。500人のドイツ難民もまた居場所すらない中生きていかなければならない。彼らがこのあとどんな末路を辿ったのか。
難民の中のドイツ人医師が、胸につけたナチスマークのバッジを外さずに、レジスタンスの青年に撃たれて死ぬ。敵国人でありながら、ヤコブとこの医師の間に生まれたささやかなきずなのようなもの、結末は悲しいものだが、これが救いといえば言えるかもしれない