教員給与、教職調整額13%の意味するところを考えてみた。

先日、文科省交渉のことを書いた。

席上、私が「10%が一人歩きしている」と発言したら、若い係長が「10%以上」と言い直した。この13%がアタマにあったのだろう。

 

「へえ、4%から13%か!」単純計算すれば、給与30万円の人の教職調整額が12000円から39000円になるという算段。これはボーナスや退職金の算定にも入る。

ベア9%、今どき人事院勧告でも出ない数字だ。

 

今度は「13%」が一人歩きする。

 

マスコミも数字が出るとそれにひきづられる。報道には具体性が大きいということだ。

 

この間、教員の働き方改革での最大の焦眉は「定額働かせ放題」をどうするか、だったはずだ。

 

これでは「定額働かせ放題」温存、それに13%の満額「回答」など財務省に望むべくもない。

 

2020年の給特法「改正」では

 

(1)一年単位の変形労働時間制の導入(休日のまとめどり)

(2)業務量の適切な管理等に関する指針の策定(時間外在校等時間の上限規制)

が目玉だった。

 

(1)の変形労働時間制は、労基法上のものとは全く似て非なるもので、気分だけのザル法。それも、(2)の上限規制が守られることが条件だから、自縄自縛。施行から2年、日本全国ほとんどの学校で画餅として飾られているだけ。

 

問題は(2)の時間外在校等時間だ。この言葉を捻り出したのが文科省の小役人の小ずるいところ。

超過勤務時間のように見えるが、実は全く違う。

教員の勤務には自発的創造的な部分が含まれるから、労基法上の労働時間とは一線を画すのだという。

給特法の理屈は、自発的創造的な業務は基本的に計測不可能であるから、時間外勤務手当支給の代わりに予め本棒の4%を支給するというものだ。

 

しかし、働き方改革論議の中で、実際に行われている時間外勤務は自発的創造的なものはかなり少なく、部活動や生徒指導、進路指導など十分に計測可能なものがほとんであることが明らかになってきた。

それでも時間外勤務手当て支給に向かうわけにはいかない文科省中教審が捻り出したのが捻り出したのが「時間外在校等時間」だ。

いわば、換金不可能な不渡手形のようなもの。

 

いちばん大きな違いは、労基法が36条、37条で時間外勤務に対して厳しい規制を施していて、当然時間外手当支給を原則としているのに対し、時間外在校等時間は罰則条項のないヤワな上限規制だけで、手当は一切つかないことだ。

 

働き方改革ではそれぞれの分野において上限規制が始まっているが、それらは全て労基法適用の話。月45時間、年間360時間という上限規制は同じでも、教員の場合は全く違うということだ。

 

今回の教職調整額13%UPは、こうした2020年の給特法改正が下地となっている。

 

労基法が適用されないのだから、教員には時間外勤務は存在しないし、時間外勤務手当てなど一銭たりとも出ないのだ。

もし上限45時間(現在平均は60時間超というところだろう)の時間外手当を保証するのなら、大雑把に計算しても倍以上28%になるはずだ。

 

一人歩きするなら28%にしてくれ!だろう。

 

 

30年来、私(たち)は、文科省(当時は文部省だったが)はじめさまざまな場で「労基法適用」を主張してきたが、ここに至って、ほとんどその要求は潰えたということだ。

 

71年の給特法の議論の時に大きな問題となったのが「毒饅頭論」だった。超勤手当ての代わりに4%貰えば、いつに日か仕込まれた毒が身体中にまわって「死に体」に、というのがその主張。

私の感覚で言えば90年代にはすでに毒が回り始めていた。

 

今回の13%は、まさにその毒をさらに強めるものだ。

 

このほか、今回の予算要求には

(1)学級担任手当ての新設

(2)主任手当の増額(3000円)

(3)管理職手当の増額(5000円から10000円)

(4)教諭と主幹教諭の間の新しい職(東京などですでに導入されている主任教諭な

   ど)に対する手当て(6000円)

が出ている。

学級担任手当ての新設は戦後初。学級担任のなり手がいなくて困っている学校はかなり多いが、そういう学校ではこの手当で助かるだろうか。

そうは思わない。3000円ポッキリで苦労するなら、手当てなどいらないから学級担任を外してくれ、という教員もいるだろう。そのくらい学級担任業務はしんどくなってきている。

 

さらに今まで学年のチームで作ってきた協力体制はどうなるだろうか。手当てが出ているのだから自分のクラスのことは自分でやればいい、ということにならないだろうか。私立学校ではすでにそんな風潮があたりまえにあるようだ。

(4)はどうだろうか。

かつて学校の職階構造は「鍋ぶた」と言われていた。

校長のみが管理職であとはみなヒラ教員。法改正によって教頭も管理職になるが、基本は鍋ぶた。それが今では

(非正規)非常勤講師、臨時的任用職員、

(正規)教諭、主任教諭、主幹教諭、教頭(副校長)、校長、統括校長

 

オトナの階段を登るように、教員は若い頃から一つひとつ階段を登っていく事になる。その都度手当てがついて・・・。そうすればいつか立派なオトナになれるのだろうか。

 

教員のやることは変わっていない。基本は授業をやること。

いろいろあるけど、教室(グランドで)で授業をやるのが教員。

それに必要な組織はどんなものか。よけいななものはいらない。

上から「チーム学校」という言葉がここ10年ほど言われ始めたが、それはチームが壊れてきたことを表現していると私は考えている。

 

よってたかって上から学校を壊してきた。受け入れてきた方も悪い。

それを一番下で支えてきたのが、給特法だ。

 

変えればいいのは、たったひとつ。給特法撤廃、原則労基法適用!

 

そうすれば学校は劇的に変わる。

 

 

さて、一人歩きしそうな「13%」は、予算要求で実現するわけではない。給特法の改正が必要となる。

通常国会での論議が必要だが、今の政治状況からして先が見えない。

 

それにいつものことだが、財務省というサイフを握っているところは簡単に首を縦にはふらない。

 

中教審の中には労基法適用の声もあったようだが、結果的に教職調整額10%超でまとまった。

官僚の方は財務省の方を見ながら、どうせ値切られるのだからと13%という根拠のない数字を出した。落とし所が10%なら万々歳というところか。

 

8月概算要求はスタート地点。これから年度末までの半年、さまざまな綱引きが繰り広げられる。

財務大臣の諮問機関、財務制度審議会はすでに5月に教員の給与についての考え方を示している。昨年11月にも文科省予算に対する「建議」も出している。いずれも現状認識としては受け入れ難いものだ。