2024年8月の映画寸評③
<自分なりのめやす>
お勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
みる価値あり ⭐️⭐️⭐️⭐️
時間があれば ⭐️⭐️⭐️
無理しなくても ⭐️⭐️
後悔するかも ⭐️
(60)『マミー』(2024年製作/119分/日本/監督:二村昌弘/公開日:2024年8月3日) ジャック&ベテイ 8月12日 みる価値あり ⭐️⭐️⭐️⭐️
1998年に日本中を騒然とさせた和歌山毒物カレー事件を多角的に検証したドキュメンタリー。
1998年7月、夏祭りで提供されたカレーに猛毒のヒ素が混入し、67人がヒ素中毒を発症、小学生を含む4人が死亡する事件が起こった。犯人と目されたのは近所に住む林眞須美で、凄惨な事件にマスコミ取材は過熱を極めた。彼女は容疑を否認しており、2009年に最高裁で死刑が確定した後も獄中から無実を訴え続けている。
最高裁判決に異議を唱える本作では、当時の目撃証言や科学鑑定への反証を試み、保険金詐欺事件との関係を読み解いていく。さらに、眞須美の夫・健治が自ら働いた保険金詐欺の実態を語り、確定死刑囚の息子として生きてきた浩次(仮名)が、母の無実を信じるようになった胸の内を明かす。
監督は、「不登校がやってきた」シリーズなどテレビのドキュメンタリー番組を中心に手がけてきた二村真弘。
劇場に着いたらフロアがごった返している。『マミー』の入場を待つ人たち。「マミは満席でーす」という声。補助椅子も出ている。場内整理の支配人も心なし高揚しているように見える。
全体にバランスが悪いし、もっと入れてほしい情報はたくさんある。それでも、それを超えて迫ってくるものがある。それは息子の浩次がまとう独特の知的な静かな語りによる。
本編の中にも何度か出てくる真須美被告の夫の保険金詐欺の犯罪歴の告白など、当時マスコミによってつくられた林家の「イメージ」。最たるものは真須美被告の庭からの取材陣に対する水撒きシーン。マスコミは事実を報道するのではなく、報道することで「事実」をつくっていくことがよくわかる。
目撃証言も確たるものとはならないし、ヒ素そのものも証拠とはならない。状況証拠だけで最高裁で死刑が確定するに至った経過はきちんとおさえられている。
林家の家庭的な側面と真逆の後ろ暗い面、カメラは同時に成立する二つの面に迫った。
真須美被告を殊更に持ち上げることなく、獄中からの手紙によって等身大に描き出している。
再審請求は認められていないが、和歌山駅頭で冤罪、再審請求を求める高齢の支援の方々の姿は胸に迫るものがある。
集落?とマスコミによってつくり上げられた和歌山毒物カレー事件。当時、林家に視線が集中するきっかけとなった保険金詐欺をすっぱ抜いた朝日の記者に対するインタビューが印象的。今こそ事件の検証をあなたがすべきではないのか?との質問に対し、「自分は渦中の人間だったからそれはできない」という逃げ口上。もしも冤罪であったらとわずかでも考えるなら、賞までもらった自分の取材に対し、真摯に振り返ることをなぜしないのか。
当時の裁判官も刑事も皆口をつぐむ。
確たる証拠のないまま死刑が執行されるとすれば、法治国家とは言えない。
誰もやらなかった「検証」をこの映画がやった、大きな意義があると思った。
映画制作の過程で、取材当事者のクルマにGPSをつけて家宅侵入の罪に問われた二村監督は、取調べのシーンの録音を本編に入れた。いいと思った。