2024年7月の映画寸評⑥
<自分なりのめやす>
お勧めしたい ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
みる価値あり ⭐️⭐️⭐️⭐️
時間があれば ⭐️⭐️⭐️
無理しなくても ⭐️⭐️
後悔するかも ⭐️
(56)『フィリップ』(2022年/124分/R15+/ポーランド/原題:Filip/原作:レオポルド・ティルマンド/監督ミハウ・クフエチンスキ/出演:エリック・クルムJr カロリーネ・ハルティヒ他/日本公開2024年6月21日)
7月22日 kiki ⭐️⭐️⭐️+
ポーランド人作家レオポルド・ティルマンドが自らの実体験を基に1961年に発表し、その内容の過激さから発禁処分となった小説「Filip」を映画化。ナチス支配下のポーランドとドイツを舞台に、自身がユダヤ人であることを隠して生きる青年の愛と復讐の行方を描く。
1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人のフィリップはナチスによる銃撃に遭い、恋人サラや家族を目の前で殺されてしまう。2年後、フィリップは自身をフランス人と偽ってドイツ・フランクフルトの高級ホテルのレストランでウェイターとして働きながら、ナチス将校の夫を戦場に送り出した孤独な妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていた。嘘で塗り固めた生活を送るなか、フィリップは知的な美しいドイツ人リザと出会い恋に落ちるが……。
監督は1990年代よりテレビプロデューサー・演出家として活動し、アンジェイ・ワイダ監督作のプロデューサーとしても知られるミハウ・クフィェチンスキ。
ポーランド国籍とユダヤ人であることを隠し、高級レストランでウエイターとして働くフィリップ。
何と言ってもエリック・クルムJrという若い俳優の演技に尽きる。自分の中の怒りや悲しみ、矛盾、多くの葛藤を抑え込み、、セックスを武器に別人格を生きるフィリップをエリック・クルムJrは冷徹に演じ切る。フィリップに攻略される人妻も含めて時代考証が巧みで、一緒にフランクフルトの街を歩いているような・・・見る方をスクリーンに没入させる映画だ。
完璧に周囲を騙し、復讐心(孤独な妻たちに近づき、貶めることを復讐と言っていいのか疑問だが)に凝り固まりながら、ドイツ人リザとの出会いが、彼にカミングアウトをさせてしまう。ここがわからない。フィリップは九割九分、非ナチ、非ポーランド人を演じながら最後の最後にカミングアウトしてしまう。「愛と復讐の狭間で」という惹句はわからないでもないが、リザとの出会いの中にも、その画面から必然性が伝わってこない。ただただエリック・クルムJrのさまざまな表情、とりわけ丁々発止とドイツ人やナチを手球に取っていくシーンと、誰もいないダンスホールで筋トレを続けるシーンの孤独さが強く印象に残った