佐藤幹夫氏出版記念講演+トークセッション 『津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後』

もう2月が終わる。2月は逃げる、だったか。

今月、二つ、講演会に行った。

1つは、2月11日、佐藤幹夫さんの新著「『津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後』(現代書館)の出版記念講演+トークセッション」

前日の10日、横浜は朝から粉雪が舞い、日中、降り続けた。気温が高かったせいか、次に日まで雪は残らず、電車も時刻通りの運行だった。

会場は、津久井やまゆり園のある相模原市。JR橋本駅前のソレイユさがみ。駅前には雪が残っていた。ここは八王子に近いから雪が多かったのかもしれない。

 

70名の事前予約制で、会場はびっしり。

パワーポイントを使って1時間超の講演。

12月に本をいただいて読んだのだが、この本はすごい。障害者の起こした事件や裁判をいくつも追ってきた佐藤さんの視点は重く深いのだが、それ以上に、彼のとにかく広い知見をもとに事件をいくつもの視点から分析する力は、まさに力わざ。

自分史を組み込み、さらに安倍元首相銃撃事件とこの事件を重ねてみる。

是非一読をお勧めしたい。

これほどの仕事をしながら、雑誌「飢餓陣営」を刊行し続けるバイタリティは、とても同じ歳とは思えない。いやいや歳など関係ない。何と言うか人間のつくりが違うのだ。

トークセッションには、神戸金文さん(RKB毎日放送解説員)と雑誌「季刊福祉労働」の編集長堀利和さんが登壇、3人でセッションを行った。

神戸さんは『障害をもつ息子へ』(2016年)でこの事件について書いていて(未読)、堀さんは日本で初めての視覚障がい者の国会議員だった方。

お二人とも、今まで書かれたこの事件に関する何冊もの著書の下で、この本は決定版との評価。

佐藤さんのお話の中で印象に残っているのは、裁判批判。とりわけ弁護団が全くコメントをしないため、植松被告がなにを考えているのかが伝わってこないこと。彼の成育歴や交友、家庭内とりわけ両親との関係などを一切問わず、責任能力だけを問題にした弁護に大きな違和感を感じたという。

佐藤さんの主張である情状弁護という考え方すれば、対極にあるような弁護だったようだ。

著書の中にもあるが、何として植松の本質に迫りたいと、法廷で彼と視線をかわしたシーン、佐藤さんは思い切り彼を侮蔑するような視線を投げかけた。それに一瞬植松は反応したという。

またこれも著書にあるが、障害を持って生まれた弟さんのことについて書かれた部分を読むと、こうまでして佐藤さんがやまゆり園事件に深く切り込んだことが哀惜を伴って伝わってくる。

関心のある方は「おばこ天使」という言葉を調べてみてほしい。私はこの言葉すら知らなかった。佐藤さんの弟さんが当事者であったことに驚いた。

「おばこ天使」は新聞で称揚され、一大ブームとなった。倍賞美津子黒澤明とロスプリモスによる「おばこ天使のうた」というレコードまで出ている。

1967年のことだ。私も佐藤さんも中学2年。当時、重度障がい者がどのような処遇にあったか。「美談」とされたおばこ天使の陰にはさまざまな問題が隠れていた。

 

佐藤さんは昨年、車いすの教員三戸学さんについて書いた『彼はなぜ担任になれないのですか』(言視舎)という本を出版されているが、雑誌発表段階でオンラインでインタビューを受け、私の労働組合の活動家としておこなった障害をもつ教員への支援とかかわりについて取り上げていただいた。

その縁から、最近、現職の教員の方から相談を受けた。

見えないところで深い悩みを抱えている人がいる。やまゆり園も実はまだあまり見えていない。新たに施設をつくり、手厚い支援が行われていても、時として噴出する障がい者に対する憎悪、集会に集まった方々の「やまゆり園事件は終わっていない」の言葉に深くうなづいたことだった。

 

今調べてみたら、この日の講演録がyoutubeにアップされていた。大変な労力で録画されたと思う。皆さんに見ていただくことが目的だと思うので、ここでも紹介したい。