『夜明けまでバス停で』転落していくときのひりひりするような焦燥感がこの映画からは伝わってこない。勝手な言い草だが、残念。

丹沢の雪は消え、富士山の頂上付近の雪も消えかかっている。冷え込みも幾分和らいだ。今朝はカワセミを見なかった。そのかわりシジュウカラを見た。いつもつがいで跳びまわっていて、子どものようでかわいいと思う。

 

映画備忘録

10月21日(金)

夜明けまでバス停で』(2022年製作/91分/G/日本/脚本:梶原亜貴/監督:高橋伴明/出演:板谷由夏 大西礼芳 三浦貴大 ルビー・モレノ 片岡礼子他/公開2022年10月8日)

 

高橋伴明監督が板谷由夏を主演に迎え、バス停で寝泊まりするホームレスにならざるを得なかった女性を主人公に、社会的孤立を描いたドラマ。昼間はアトリエで自作アクセサリーを販売し、夜は焼き鳥屋で住み込みのパートとして働く北林三知子。しかし突然訪れたコロナ禍により、仕事も住む家も失ってしまう。新しい仕事は見つからず、ファミレスや漫画喫茶も閉まっている。行き場をなくした彼女がたどり着いたのは、街灯の下にポツリとたたずむバス停だった。誰にも弱みを見せられないままホームレスとなった三知子は、公園で古参ホームレスのバクダンと出会う。一方、三知子が働いていた焼き鳥屋の店長・寺島千晴は、コロナ禍の厳しい現実と従業員との板挟みになり、恋人であるマネージャー・大河原智のパワハラやセクハラにも悩まされていた。

 

面白くないとは思わなかったが、なんだろう、総花的というか理屈がかちすぎろちうか。コロナ禍の中の非正規労働者の不安定さ、周囲の不寛容さのなかで、まっとうに生きようとする人ほどしんどい思いをして転落の道を歩んでしまう…。

いろいろな今の日本の問題を入れ込んで告発をしているのはわかるし、劇中に菅前首相の演説が電光掲示板に流れるところなど悪くはないのだが、外国人差別の問題は中途半端だし、ホームレス襲撃もいかにも浅い。非正規労働者の問題も上っ面の感がぬぐえない。板谷由夏演じる主人公も、共感できる部分はもちろんあるが、なぜ夜明けまでバス停で過ごさなければならないのか、どうしてそこまで行ってしまうのか、映画のシチュエーションとしてはいいのだろうけれど、リアリティという点では疑問。画像1

腹腹時計、爆弾づくりにかかわっていくところはいかにも作り物じみていて、安易。

日本社会が、コロナ禍によって目の粗いセーフティネットしか持ち得ていないことが暴かれていく過程をもう少し丁寧に表現してほしかった。

物事の理非曲直をしっかり見つめ妥協なく生きていく人だからこそ落ちこぼれていく・・・というのもこれも浅い。

じたばたが見えてこない。

意外なラストシーンも、意外性がいきていないと思った。

唯一、じゃぱゆきさんだったこと、重度の障害を持つ母であることを告白して、なお女優として生きているルビー・モレノの独白は、彼女の起伏の激しい人生と重なっているように見えて悲痛だった。

 

もがいてももがいても、目の粗いセーフティネットからこぼれていかざるをえないところをしっかり描いたのは、ケン・ローチの『家族を想うとき』だ。転落していくときのあのひりひりするような焦燥感は変わらないはずなのに、この映画からは伝わってこない。以上、勝手な言い草だが、残念。