『L.A.コールドケース』・・・。脚本の骨格の安定感、そして感情のディテールが丁寧に描かれている。久しぶりに重厚な犯罪映画  『ボイリング・ポイント/沸騰』ワンテイク90分 自分がレストランの中にいて一緒に動き回っているような強い臨場感

久しぶりに映画備忘録。

『L.A.コールドケース』(2018年製作/112分/G/アメリカ・イギリス合作
原題:City of Lies/監督:ブラッド・ファーマン/出演:ジョニー・デップ フォレスト・ウィテカー 他/日本公開:2022年8月5日)

 


1997年3月、人気絶頂期にいたラッパーのノートリアス・B.I.G.が何者かによって射殺されるという事件が起こった。当時その捜査を担当した元ロサンゼルス市警察の刑事ラッセル・プールは、事件発生から18年が過ぎた現在も執念深く真相を追い続けていた。そんなある日、事件を独自に調査していた記者ジャックがプールのもとを訪れる。2人は手を組み、複雑に絡み合った事件の真相に迫るが……。

実在の元刑事ラッセル・プールをデップ、事件を追う記者ジャックをウィテカーが演じる。作家ランドール・サリバンが2002年に発表したノンフィクション小説をもとに、「リンカーン弁護士」のブラッド・ファーマン監督がメガホンをとった。

                      ー 映画ドットコムから

タイトル、原題そのままだと思ったら、原題は「City of Lies」そのまま訳すならこちらの方が邦題っぽい。邦題は「迷宮入り事件」を英語にして入れ込んだ。

 

画面全体の重苦しさが映画のトーンを決めている。この雰囲気は貴重。わかりやすく、というより、わからなさを解釈しないでなるべくそのままに映画に。実際にあったケースのリアリティがよくでている。画像1

 

実在の刑事役を演じたジョニー・デップ。ほとんど感情を表さないが、実直で直情的な性格をよく表現し、だからこその孤立と孤独がにじみ出る。記者役のフォレスト・ウィテカーとの絡みもいい。脚本の骨格の安定感、そして感情のディテールが丁寧に描かれている素晴らしい作品。久しぶりに重厚な犯罪映画を見た。

 

『ボイリング・ポイント/沸騰』(2021年製作/95分/PG12/イギリス/原題:Boiling Point/監督:フィリップ・バランティーニ/出演・スティーブン・グレアム ジェイソン・フレミング ビネット・ロビンソン他/日本公開:2022年7月15日)

 

ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフのスリリングなある一夜を、全編90分ワンショットで捉えた人間ドラマ。一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日。ロンドンにある人気高級レストランのオーナーシェフのアンディは、妻子との別居や衛生管理検査で評価を下げられるなど、さまざまなトラブルに見舞われて疲れ切っていた。そんな中、アンディは気を取り直して店をオープンさせるが、あまりの予約の多さにスタッフたちは一触即発状態となっていた。そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れて突然来店し、脅迫まがいの取引を持ちかけてくるが……。主人公アンディ役を「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」「アイリッシュマン」のスティーブン・グレアムが演じる。監督は新鋭フィリップ・バランティーニ。

                     ー映画ドットコムから

面白かった。ワンテイク90分の映画。一度カメラが回り始めたらそのまま90分撮り続ける。『カメラを止めるな』はそういう撮り方がスピード感と緊張感を高めていた。この映画では、カメラの動きが自然で、まるで自分がレストランの中にいて一緒に動き回っているような強い臨場感を感じた。どこか一つでもカメラが滞ったり、キャストが間違えれば全て撮り直しになる。レストランという狭い範囲でカメラが動くが、計算しつくされているのだろう。ドキュメンタリ的な荒い動きはまったくない。

経営だけでなく家族との関係でも問題を抱えたアンディが出勤するところから映画は始まる。入店するとすぐに衛生監視官が「これから始めるよ」。

衛生管理上の問題をいろいろ指摘され評価が下がることを伝えられたあたりから、今夜のお店の動きの不穏さが伝わってくる。それぞれ出自も能力もアンディに対する感情もみな違うコックたち。経営者の娘のフロア係のリーダーとの軋轢。フロアにはおしゃべりばかりしている若い女性のスタッフ、客とうまくやり取りのできない黒人の女性スタッフ、ゲイでおしゃべりが上手でほかに働いている店に客を誘う男性スタッフ、客もいろいろだ。SNSに載せるからとさまざま要求するグループや、若いカップルはアレルギーの症状から救急車を呼ぶことに。ライバルシェフはグルメ評論家を連れてきて、貸している金を返せだの経営に参加させろだのと要求、ごね続ける。バックヤードでは‥‥。何よりコックたちの間でアンディを中心に不協和音がひたすらなり続ける。

最後はもちろん大団円などにはならない。アンディは薬も酒もやめて再起を期そうとするが…。唸らせる幕切れ。

こんな映画はひさしぶり。映画を十分に楽しんだ。画像1