『カモン カモン』子どものもつ不思議と、それに向き合う大人の頼りなさ、たどたどしさをマイク・ミルズの脚本は見事に描き切っている。ホアキンとウッディー・ノーマンは演出やセリフだということを感じさせない自然さで演じている。

映画備忘録。5月2日、グランベリー109シネマズ

『カモンカモン』(2021年製作/108分/G/アメリカ/原題:C'mon C'mon/脚本-監督:マイク・ミルズ/出演:ホアキン・フェニックス ウッディー・ノーマン ギャビー・ホフマン/日本公開2022年4月22日)

 

 

20センチュリー・ウーマン」「人生はビギナーズ」のマイク・ミルズ監督が、ホアキン・フェニックスを主演に、突然始まった共同生活に戸惑いながらも歩み寄っていく主人公と甥っ子の日々を、美しいモノクロームの映像とともに描いたヒューマンドラマ。ニューヨークでひとり暮らしをしていたラジオジャーナリストのジョニーは、妹から頼まれて9歳の甥ジェシーの面倒を数日間みることになり、ロサンゼルスの妹の家で甥っ子との共同生活が始まる。好奇心旺盛なジェシーは、疑問に思うことを次々とストレートに投げかけてきてジョニーを困らせるが、その一方でジョニーの仕事や録音機材にも興味を示してくる。それをきっかけに次第に距離を縮めていく2人。仕事のためニューヨークに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……。「ジョーカー」での怪演でアカデミー主演男優賞を受賞したフェニックスが、一転して子どもに振り回される役どころを軽やかに演じた。ジェシー役は新星ウッディ・ノーマン。(映画ドットコムから)

 

『ジョーカー』は、2019年に見た映画の中では最も強い印象のある映画。そのジョーカーを演じたホアキン・フェニックスが、なんだか子育て映画のようなものに出るという。

彼が出るならば、アメリカ映画で時々ある、ひねくれたおじさんとか不良系のおじさん、あるいは過去に傷をもつおじさん、とっつきにくいおじさんに、はじめはなつかない甥っ子がさまざま交流するうちに信頼関係が芽生えて・・・といった上記にもあるようないわゆるヒューマンドラマ・・・ではないだろうと、期待をして出かけた。

 

期待は裏切られなかった。

スクリーンを眺めながら、吉本隆明の『子どもはぜ~んぶわかっている』(2005年)のことを考えていた。

 

映画の中のどこにも出てこないが、、ジェシーはやや発達障害の傾向のある子ども。

妹の夫、ジェシーの父親が精神疾患で入院するため、ホアキン扮する伯父のジョニーがジェシーのめんどうを任されるところからドラマが始まる。

 

この映画の見どころは、一点。ジェシーとジョニーの会話。それとほとんど無関係に流れる子どもたちへのインタビュー(ジョニーの仕事)がかぶさせられていく。

この会話とインタビューが、見る側の想像力をいたく刺激する。

 

子どものもつ不思議と、それに向き合う大人の頼りなさ、たどたどしさをマイク・ミルズの脚本は見事に描き切っている。ホアキンとウッディー・ノーマンは演出やセリフだということを感じさせない自然さで演じている。画像10

 

経験が重なっていくほど、子どもの不思議は退化していく。

発達障害の子どもたちは経験を重ねて獲得していくものが少ないからこそ、ふしぎさを温存する。それは障害とは言えないのではないか。

 

映画ドットコムのレビューにはなんとも多彩な感想にあふれていて面白かったが、「意識高い系の映画で楽しめなかった」というのも含めて、いい作品はいろいろな見方、感じ方を生み出すものだと感じた。

 

たくさんのシーンのいくつかにだれもが思い当たるものがあるはず。

その意味では、ヒューマンドラマかもしれない。

 

残念なのは、4月22日公開でまだ3週目に入らないのに、109シネマズは一日1回上映となっていること。このままだと1か月持たずに終わってしまう。もったいないことだ。

 

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