『朝が来る』が傷つけられたわけじゃない。集団で表現する者のリーダーとしての『不徳』を恥ずべき。

ひたちなか海浜公園のチューリップ

 


河瀬直美氏の暴力問題、予想通りすぐに下火になった。すでに問題は解決済み、とのこと。

五輪公式映画に支障はなく、カンヌで先行上映されるらしい。いろいろと話題になるけれど、いつも陰で火を消す人たちがいて、彼女の行くところ一点の曇りもなし・・・だろうか。

 

報道されたものを読んだだけでも、私は首をかしげた。

 

『文春オンライン』では、河瀨監督が映画『朝が来る』の撮影中にカメラマンの腹を蹴り、その後、降板していたと報じた。  

これを受け、河瀬監督は「3年前、広島の映画撮影の現場では、河瀬は10キロ近いカメラを抱えて撮影をしていました。エスカレーターに乗り、移動しながらの手持ちの撮影は、安全面への配慮もあり、緊張感の伴うものでした」と回顧。「俳優の演技が終わるかどうかのタイミングで、撮影部の助手の方がカチンコの方向にカメラを向けるためイージーリグという河瀬の身体に装着されているカメラの補助器具を引っ張って誘導しようとしたようですが、咄嗟のことで河瀬は重心を保てず、転倒しそうになりました」と説明した。  

両手が塞がって自由が効かないため「急な体の方向転換は恐怖でしかなく、防御として、アシスタントの足元に自らの足で抵抗しました。その後、現場で起こった出来事を両者ともが真摯に向き合い、話し合った結果、撮影部が組を離れることになりました。撮影を継続させるための最善の方法だと双方が納得した上でのことです」とコメントした。  

「今回の記事により『朝が来る』という作品が傷つけられ、関係各位、スタッフに不快な想いをさせてしまったことが残念でなりません。今後も、映画界で活躍する本作のスタッフたちが、現在携わっている目の前の作品に集中できることを望んでいます」と心境を吐露。「また、現在、河瀬を信頼して、お仕事をいただいている方々には、記事を読んで不快な想いをされていることと思います。 この場を借りて、お詫び申し上げます」と謝罪した。  

最後に「常に人に対して真摯に向き合ってお仕事をさせていただいているつもりでも、行き届かないことが多々あるかと存じますが、今後とも精進して参りますので、引き続きよろしくお願い申し上げます」と呼び掛けていた。(yahooニュース)

 

腹は蹴っていない、蹴ったのは足。つまり足で足を蹴ったということか。転倒しそうになったので、「防御」として「自らの足で抵抗」したと云う。

 

「足で抵抗」が事実なら、「ごめんね、足、ぶつかっちゃったね」「いえいえ私のほうこそ」で済む程度のことじゃなかっただろうか。

 

その後、現場で起こった出来事を両者ともが真摯に向き合」うことになったのは、ことがそれほど単純なものでなく、助手の動きに対し河瀬が感情的になり、暴行を加えた事実があったからではないのだろうか。あえて「真摯に」というあたりが不穏。

 

真摯な話し合いの結果「撮影部」というグループが「組」を離れることで双方が納得して、ことは終わっている。

 

なにかこの「組」の権力構造が見えるような気がする。

そこには感情的なしこりが残り、河瀬はこの撮影部とはやりたくないとしたのではないか。

 

撮影部が組みを離れるということが、本当に双方が納得した「最善の方法」だったのか。

今頃になって熾火に火が付くように問題が再燃するのは、「最善の方法」を納得していない人たちがいたということだ。

 

今回の記事により『朝が来る』という作品が傷つけられたというが、原因をつくったのは監督本人。

『朝が来る』は地味だが、エッジの効いたかなりいい作品だった。

撮影の裏でどんなことが起こっていたのかなんて映画を見る方には関係ないし、それが映画に投影されることももちろんない。

逆にスタッフみんなが仲良しならいい映画が撮れるわけでもあるまい。

ただいつも気になるのは、河瀬という人から感じる権力志向のようなもの。

 

五輪テロップ事件もNHKがすべてかぶって終わったが、

みんなで招致した五輪、コロナとは棲み分けて成功させようと語る河瀬が、五輪反対派の人々を認めたくない、何としてでも貶めたいという思いがはからずも出てしまったのがテロップ事件だと思う。

 

東大の入学式の挨拶では高野山の高僧の発言を引き、「ロシアひとりを悪者にして安心していないか」と発言。ロシアは明らかに侵略者。「ウクライナを善としてウクライナを救えということで安心していないか」ならわかるのだが、どこかピンボケ。

挨拶として面白みが全くなかった。脈絡も。

 

権力や権威に近づき、自らもそれと同化して成功を手にしたいという志向。

そんな無理やり背伸び志向に無理があるから、あちこちで綻びが出る。

 

 

比べても仕方がないけれど、早稲田の入学式で挨拶をした是枝裕和

長いけど長さを感じさせないユーモアと軽妙さ、そして若者に対して明快で挑戦的なメッセージ。表現する者として等身大の言葉を語ろうとするところがいいなと思った。

 

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