『ユンヒへ』全編霧の中にいるような映画なのだが、シーンごとにこちらの想像力を刺激するところがあって、それを途切れさせない抒情的な流れを保つ女性たちの演技が迫ってくる。

映画備忘録

3月8日、気温6℃。

日課境川散歩は、2mほどの風が冷たく、体感温度はかなり低い。二人とも寒くて途中で撤退。

若葉町ジャック&ベテイに出かける。

10時過ぎに家を出たのだが、マンションのエントランスを出たところで薄手のコートでは寒くて、マフラーを取りに戻る。

啓蟄の5日、例年よりずっと遅い春一番が吹いた。

三寒四温、寒の戻りといったところか。

 

今朝10日。気温は4℃と低いが、歩いていいるとすぐにからだが温まってくる。

ネックウオーマーも手袋もポケットにしまってしまう。

今朝のカワセミ(メス)。少しzoomにはしているが、iPhoneでここまで近づいて撮れたのは初めて。iPhoneに装着する望遠レンズが売られているが、この半年迷っている。

モノを買うと、モノに引きずられて疲れてしまう。うまく使えればいいのだけれど。

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8日戻って、映画。

ジャック&ベテイ、1本目は

『ユンヒへ』(2019年製作/105分/G/韓国/原題:Moonlit Winter/脚本・監督:イム・デヒョン/出演:キム・ヒエ 中村優子 キム・ソへ ソン・ユビン 木野花 瀧内久美/日本公開2022年1月7日) 

 

十代のころに愛し合い、同性愛ゆえに別れざるをえなかった二人の女性の再会の物語。ユンヒ(キム・ヒエ)は、韓国で娘と二人で生活している。弁当屋さんのようなところで働いている寡婦だ。別れた夫は時々アパートを訪れるが、ユンヒは会うことを拒絶しているふうだ。

もう一人は日本に住むジュン(中村優子)、韓国と日本のダブル。小樽で動物医院を経営し、同居する叔母マサコ(木野花)は喫茶店を経営している。

 

ある時、マサコはジュンの部屋で、ユンヒにあてて書かれた手紙を見つけ読んでしまう。マサコは勝手に手紙に封をし、郵便局まで行き、投函してしまう。

マサコが2人のことを知っていたのかどうかもよくわからない。ジュンが手紙にユンヒの住所を書いていたのかどうか。ずっと疎遠になっているようにも思えるが。

 

もっとわからないのは、母親に来たその手紙を娘のセボムが開封し、読んでしまうこと。

勝手に投函するのもヘンだし、勝手に読んでしまうのもヘン。

 

前半、なんだかリズムが悪くしっくりこないのは、こういう不自然さのせいだろう。

しかし、取りようによってはあちこちの不自然さで映画がつくられているようにも見える。

 

ユンヒの夫は、別の女性と再婚するつもりなのに、酔ってユンヒのもとを訪れる。

未練があるかと思うとそうでもない。栄養剤かなんかをもってくる。

 

 

父親に会いに職場に来たセボムが「なぜ別れたのか?」と父親に訊ねるシーン。

父親は、「お母さんは人を寂しくさせる」(正確ではないが)と答える。

ヘンだけど悪くないシーン。

この辺から映画の中に入っていけた。

たぶん、この映画、こうした人と人との微妙な感情の距離のようなものを描きたかったのかとも思う。

 

前半の印象的なシーン。夫の墓参りから帰ったマサコが、帰宅したコートを着たままにジュンに向かって、いきなり両手を開く。ハグしようということだが、ハグするまでの戸惑うジュンのセリフがいいし、気まずさを笑いでごまかすマサコの演技もいい。ようやくハグしたジュンの「これっって結構いいね」と笑いながら涙を流す表情もいい。

 

セボムはボーフレンドと小樽行きを画策する。

ユンヒがなぜすっと小樽に行くことに同意したのか。

 

それに別れて20年にもなる二人、

ユンヒはセボムが開封してしまったジュンの手紙を読んだのかどうか。

ジュンはユンヒに会いたいのか。ユンヒはジュンに会いたいのか。

 

そのあたりがわからないまま進む。

 

ユンヒは、小樽に行くため休暇を願い出るが、弁当屋さんの栄養士といさかいになり仕事を辞める。

この栄養士との会話は理解できなかった。

 

小樽に来てもユンヒはジュンに連絡をしない。

セボムが食事の約束を取り付け、運河のところで二人を会わせるのだが・・・。画像4

 

ここまで来る前に、動物医院の客であるリョウコとジュンのレストランのシーンがある。

明らかにリョウコはジュンに好意を抱いているのだが、ジュンは「自分は韓国人と日本人の親をもって苦しんできた。あなたは、秘密があるのならそれを守ったほうがいい」

というのだが、これもよくわからない。リョウコの自分への思いを閉ざすために在日のアイデンティティーの問題を持ち出したのか?

 

ユンヒのほうは、ジュンとの付き合いがばれた時に精神科に通わされ、進学できなかったこと、兄の勧めで早く結婚したことなどがあかされる。

 

運河のシーン。会話は少ない。互いに微妙な表情。嬉しそうではあるが。

その後、二人が旧交を温めたのかどうか全くわからない。

 

たぶん、互いに傷を抱えたまま生きて来たことを了解したのだろう。二人の感情はひたすらに沈潜しているようで、その分思いは伝わってくるように感じられた。

 

ラストシーンは、ユンヒが兄のところに行き、お別れに来たという。わだかまりは消えていないが、小樽行きがきっかけで新しい生活を始めようとしていることがわかる。

 

というように、全編霧の中にいるような映画なのだが、シーンごとにこちらの想像力を刺激するところがあって、それを途切れさせない抒情的な流れを保つ女性たちの演技が迫ってくる。

ユンヒ、ジュン、木野花、リョウコ・・・。みな抑えた演技がよかった。

役者陣と演出がよくかみ合っているということなのだろう。

突っ込みどころはいくらでもあるが、なぜか見終わったとあとの満足度が高い作品。

こういう映画もありだなと思う。

小樽を舞台にしながら、ご当地映画になっていないのもいい。運河のシーンも言われなければ小樽の運河だとわからない。画像3