『悪なき殺人』正直、できすぎ、つくりすぎとも思えるが、登場人物のそれぞれの生活の場と感情のもつれが、妙にリアルで迫ってくるものがあるのも事実。

映画備忘録。

『悪なき殺人』(2019年製作/116分/R15+/フランス・ドイツ合作/原題:Seules les betes(獣だけ(が知っている)/監督:ドミニク・モル/出演:ドゥニ・メノーシェほか/2021年12月日本公開)

「ハリー、見知らぬ友人」のドミニク・モル監督が、ある失踪事件を軸に思いもよらない形でつながっていく5人の男女の物語を描き、2019年・第32回東京国際映画祭コンペティション部門で最優秀女優賞と観客賞を受賞したサスペンス(映画祭上映時タイトルは「動物だけが知っている」)。吹雪の夜、フランスの山間の町で女性が失踪し、殺害された。事件の犯人として疑われた農夫のジョセフ、彼と不倫関係にあったアリス、そして彼女の夫ミシェルなど、それぞれに秘密を抱えた5人の男女の関係が、失踪事件を軸にひも解かれていく。そして彼らが、フランスとアフリカのコートジボワールをつなぐ壮大なミステリーに絡んでいた事実が明らかになっていく。「イングロリアス・バスターズ」のドゥニ・メノーシェが主人公となるミシェル役を演じ、東京国際映画祭で女優賞を受賞したナディア・テレスツィエンキービッツは、ミシェルと思いがけないタイミングでかかわることになるマリオン役を演じている。(映画ドットコム)

 

男が死体を背負って雪山を歩くポスターが妙に印象が深く、さらに邦題が惹きつける。

原題は、獣だけが知っている、といった意味のもののようだが、「悪なき」は日本語の用例としてはあまり耳にしたことがない。ことばの坐りの悪さが独特のイメージをつくっている。

この映画の中心には、去年5月に観た『SNS 少女たちの十日間』と同じような光景が広がっている。ネットに群がる男たちの欲望。ここではコートジボアールの若者が、フェイク画像や動画を使って、あたかも生身の少女がいるようにみせて、フランスの田舎の中年男をたぶらかしてお金をだまし取る。不倫、同性愛、浮気・・・みな本気で相手を求める。そして偶然が偶然を呼び、人が殺される。

終わってみれば、すべてが1本の線でつながるという構図。

正直、できすぎ、つくりすぎとも思えるが、登場人物のそれぞれの生活の場と感情のもつれが、妙にリアルで迫ってくるものがあるのも事実。

人間は生殖機能を終えたあとも性欲に悩まされ踊らされ翻弄され、ものが見えなくなっていくが、獣(動物)は、真実をまっすぐに見ている、というのが原題の意味か。

テンポのいい、乾いた演出。飽きのこない引き込まれる映画。

 

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