石毛拓郎さん個人誌『飛脚』

定期的に送っていただく通信がいくつかある。

いずれも私には難解で読み解く力などないのだが、たとえ数行でも自分の思考の刺激になるかもしれないというささやかな期待があって、ありがたく頂戴している。

 

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詩人の石毛拓郎さんが発行している個人誌だ。

第30号の内容は、冒頭に石毛さんの詩が2編。6ページ。

続いて雑感『モノ言う術』連載30~片隅の身体への想像力(12)これが20ページ。

縦横無尽の論の展開になかなかついて行くことはできない。眺めている。

最終ページに【夢魔の招待】というコラム。いつも発送が新鮮だ。そして編集後記。

松田道夫と魯迅

 

今回は、冒頭の詩が素敵だったので再録させていただく(この言い方は間違っていないと思う。「横浜で教員をさせていただいている・・・というのは間違いと思っている。ご意見のあるかた、どうぞ)。

 

 

   変奏好み

  ・・・・2021・6・15 最期の人間だけが、デカイ顔をしている。

     「遺伝子変奏研究」の妙に、脱帽せり!

 

   土に汚れるのを 好み

   地に立つのを誇る

   擬死のはかなさ 再生のうたげを

   櫻花の散りざまにみなす 古来の歌まくら

   なんという美風だ!

   感覚というのは 見るだけではないから

   においだけで 変奏するものもある

   日高敏隆先生の説に よると

   オーストラリア在住の「ナゲナワグモ」氏は         *クモの一種

   その名の通り 網を張らないで

   糸を 振り回して

   ある特別な種 「蛾」氏の

   しかも その雄だけを 捕食するというのだ

   な なんという異形の美風!

   と思っていたら 何たる勘違い

   「蛾」氏の雌が出している

   性フェロモンの物質を

   「ナゲナワグモ」氏が 自ら造って散布する

   すると 雄というものは

   哀れで よほど情けないものらしいので

   そのにおいに 釣られてやってくる

   そのとき 雄の惑乱の間隙をぬって

   ここぞ! とばかり

   ナゲナワ糸を放って 捕まえる

   このにおいの正体は いったいなんだろう

   魅力的なにおいの裏に 恐ろしい策略をかくす

   延命治療しなければならない 隠喩の正体よ

   うむ 身につまされる

   どこかで見たような 光景

   どこかで聞いたような 話だが

   と ここで日高先生は

   進化という 共通の主題に対し

   その生きものの 亜種は

   主題のバリエーションは 変奏にすぎないという

   大方の意見に 反駁している

   自然は 主題を見せてくれない

   変奏の中に 主題が隠れていると

 

                          *日高敏隆「遺伝子変奏研究」

 

 

鈴木常吉の『ぜいご』は大好きなアルバムだが、その中に石毛さんの「トリちゃんの夢」を見つけた時はうれしかった。

聞けば、石毛さんは鈴木と親交があったという。

今度横浜でコンサートをするときはぜひご一緒しましょうと話していた。

昨年、鈴木は65歳で食道がんで亡くなった。一つ年下だった。

彼がコンサートをしたという横浜・日ノ出町シャンソンバー「シャノアール」は、今でも営業を続けているようだ。ここで、彼の歌を聴きたかった。

昨日の夜 急に

昔の女の夢を見た

俺は見知らぬ丘の家の

庭をぐるぐる歩いてた

旅先らしい

寂しさに震えてた

どっちを向いたらいいのか

どっちに歩けばいいのか

心細い旅のようだ

見る見る體が瘦せてゆく

すると向こうの木の中から

真っ青な顏の女が

黙て俺に近づいてきて

肩をそっと叩いた

昔死んだトリちゃんが

こっちを向いて笑ってた

トリちゃんの幽霊だろって

俺が話しかけると

人聞きの惡いこと言わないでよ

あたしは幽霊じゃないわよ

光もトリちゃんの理想なこと

やばり幽霊なんだな

そしたら胸が急に

締め付けられてきた

トリちゃん なんだか俺は

くたびれているようだ

何とか俺にもう一度

やる気を出させておくれよ

にっこり笑っておくれよ

優しくキスしておくれよ

何とかして俺に

勇気をあたえておくれよ

トリちゃんが何って答えたのか

俺には思い出せない

だけどはっきり覚えているのは

二人肩を並べて

夜明けの海の上を

歩いていたんだ

綺麗な夜明けの海の上を

歩いていたんだ

オンダラ〜 ホガラ〜カ ホ〜イ〜ホイ

オンダラ〜 ホガラ〜カ ホ〜イ〜ホイ

オンダラ〜 ホガラ〜カ ホ〜イ〜ホイ

オンダラ〜 ホガラ〜カ ホ〜イ〜ホイ

 

 

もう一つ、大好きな歌。北原白秋の「煙草のめのめ」。

私はもうやめてしまったが、石毛さんは一貫して喫煙家。

♫いっさーいがっさーいみなけむり♫

 

「たばこ飲め飲め」                北原白秋

煙草のめのめ、空まで煙(けぶ)せ
どうせ、この世は癪のたね
煙よ、煙よ、ただ煙(けぶり)
一切合切、みな煙

煙草のめのめ、照る日も曇れ
どうせ、一度は涙雨
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙

煙草のめのめ、忘れて暮らせ
どうせ、昔はかへりゃせぬ
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙

煙草のめのめ、あの世も煙れ
どうせ、亡くなりや野の煙
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙

煙草よくよく、横目で見たら
好きなお方も、また煙草
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙

煙草つけよか、紅つけましょか
紅じゃあるまい、脂(やに)であろ
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙

煙草ぷかぷか、キッスをしていたら
鼻のパイプに、火をつけた
煙よ、煙よ、ただ煙
一切合切、みな煙