『燃えよ剣』殺陣も舞台も迫力十分。なのにaremokoremoto整理されないごった煮のような映画になってしまった。

休みの日にはグランベリーパークには近づかないを我が家では旨としているのだが、事情(と言ってもほかの映画との兼ね合いだが)あって3日の文化の日、映画を見に行った。駐車場に入れないクルマで周回道路が渋滞している。

全国いたるところで大変な人出があったようだ。

 

燃えよ剣(2021年製作/148分/G/日本/監督:原田真人/出演:岡田准一 鈴木亮平 柴咲コウ/公開:10月15日)

 

 

時代劇は見逃せない。

しかし、上のyoutubeで「事前学習」をしても、幕末の数年間の濃い歴史を理解するのが難しい。それなのにあまりのテンポの速さ、雑さについて行けない人が多いのではないかと思った。水戸、孝明天皇徳川慶喜松平容保、長州、薩摩、会津などの関係の変化がつかめないと幕末の面白みは半減する。さらにはどこに立ってこれらを見るかによってめてくるものが全く変わってくる。

 

せめて前後編としたらどうか。脚本にあって実際に撮影までしても編集段階でカットしてしまったシーンがかなりあったのではないか。前後の脈絡なく出てきていない名前が突然出てきたりするところもあった。お金も時間も技術もかけて作られているのに残念。

 

つくりも、原作にはなかったと思うが、制服姿の土方がフランス軍の軍人にインタビューを受けるという枠だが、今一つしっくりこない。土方が西暦で説明するのもいただけない。

 

とはいえ絵づらはすばらしい。東映の映画村を使ったような安っぽいセットのシーンはまったくなく、実際の寺や橋や原っぱを使ってのシーンは見ごたえがあった。特に町並みはよくできていた。冒頭の方で出てくる町並みの中に数人の人々がたたずむシーンは、幕末の貴重な写真を彷彿とさせるところも。

それと照明が素晴らしい。とりわけ室内の暗さがよい。

さらに岡田を中心とする殺陣も迫力十分。土方ら多摩・石田村出の農民が成り上がって新選組をつくっていく泥臭さが殺陣によく出ていた。刀や竹刀を使ったぶつかり合いは優雅なダンスのような殺陣ではなく、力任せのたたき合いとなっていてリアリティがあった。

音響は今一つ。セリフが聞き取りにくいところがいくつかあった。

また、どのシーンを重視するかによって映画のつくりは変わってくるが、池田屋のシーンが異様に長く、それなのにあまり面白くないのはどうしたものか。池田屋は近藤が中心となるところ、土方があわてて駆け付けた時には戦いは終わっている。

 

蛤御門、鳥羽伏見、会津、仙台、函館・・・それぞれ少しずつ。これも残念。奥羽越列藩同盟についてはまったく触れらていない。

 

迫力あるシーンは多いのに全体から眺めると肝心の芯となるところ、先ほど述べたさまざまな思惑の違いから変化していく政治的関係がはっきり見えてこない。物語の枠組みが軽いというか。

さらに新選組という時代が生み出した異形の集団の組織や思想がよく見えてこないのが残念。土方にたくさんしゃべらせてはいるが、今一つ。会津中将容保が新選組に京都の警護を任す動機も今一つ、会津藩兵との軋轢も描かれていない。

土方とお雪の関係も肉食っぽさが全くなく、土方の人物像の造形がうまくいっていない。岡田准一の存在感は大きいのだが、物語のバックボーンがないため土方が劇画タッチに見えてしまう。

政治を論じ、いつしか幕臣のようになっていく近藤勇の描き方も今一つ。芹沢鴨、土方との関係(芹沢の前で踊る集団のダンスはよかったが)は中途半端な描き方だった。

鈴木亮平を近藤役に充てたのはよかったが、やや不発。『虎狼の血LEVEL2』での鈴木の爆発ぶりを期待したのだが。

会津贔屓としては、容保が結局は敗北を認めるところで、自分は養子ゆえ会津の徳川のためにという家訓(かきん)を必要以上に守ろうとしてしまったと独白するシーンはよかった。しかし、そういわせたら桑名との関係にも触れざるをえず・・・と。

まあとにかくいろいろと整理されないごった煮のようになってしまったというのが結論。

映画としての品格が今一つということだ。

重厚なのに品格を欠くのは『関が原』『検察側の証人』も同じ。

原田作品、いつも期待して見に行くのだが、がっかりさせられることが多い。やや多作に過ぎるのではないか。

いつか傑作『わが母の記』を超える味わいのある重厚で品格のある作品を見たいものだ。

 

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