『83歳のやさしいスパイ』奇跡のドキュメンタリー映画。監督とカメラマンの視線が、老人たちの孤独と家族とのつながりを求める繊細な感情をしっかりととらえる。実際の入居者たちが劇映画の登場人物のようだ。

映画備忘録。8月24日、あつぎのえいがかんkiki。

 

『83歳のやさしいスパイ』(2020年製作/89分/G/チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作/原題:El agente topo/監督:マイテ・アルベルディ/出演:セルヒオ・チャミー/日本公開:2021年7月)

これはちょっと信じられない映画だ。

実際に探偵事務所が高齢者を対象に求人を行い、パソコンなどが使える、毎日きちんと報告ができる、などの条件を満たしたセルヒオさんという男性が採用され、ある老人施設に潜入する。業務内容はある入居者が粗雑な扱いを受けていないか、虐待などないかどうか3か月にわたって調査をするというもの。その『スパイ』の様子を記録したのがこの映画。つまりまごうことなきドキュメンタリー映画

カメラは、施設にそういった事情は説明せずにセルヒオさんを3か月にわたって追い続ける。妻を亡くして生きがいを失っているセルヒオさんは、スパイ行為を続けるうちにいつしか入居者らの良き相談相手となり、愛されていく。

映画をみているわたしは、90分の間、何度かこれドキュメンタリーだよなと自分で確認するのだけれど、いつのまにか老人施設を舞台にした劇映画に見えてくる。誰もが演技をしているわけではないのだが、まるで物語の登場人物のように動き始める。とりわけ女性の入居らの表情が生き生きとしていて美しい。みなセルヒオさんのやさしさと包容力に心を開いてしまうのだ。

すべてカメラワークのなせるわざ。監督とカメラマンの視線が、老人たちの孤独と家族とのつながりを求める繊細な感情をしっかりととらえる。すごい。

奇跡的なドキュメンタリー映画

ラストシーン、迎えに来てくれた子どもたちや孫たちと施設を去っていくセルヒオさん。後ろ髪をひかれるように涙を浮かべるセルヒオさん。素晴らしい第二の人生。

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