政治の話。
横浜市長選が8月にある。
現下、最大の政治テーマはIR(統合型リゾート)の誘致問題だ。
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IRとは、国際会議場施設、展示施設等、我が国の伝統、文化、芸術等を生かした公演等による観光の魅力増進施設、送客施設、宿泊施設等の観光振興に寄与する施設とカジノ施設から構成される一群の施設であって、民間事業者により一体として設置・運営されるものです。
国は、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ事業の収益を活用して、地域の創意工夫及び民間の活力を生かした特定複合観光施設区域の整備を推進することで、国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現、観光及び地域経済の振興、財政の改善を目的としています。
横浜市のHPから
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現市長の林文子は、3選となる前回選挙でこの問題への態度を明らかにしないで出馬、当選。
昨年、突然誘致を発表、横浜ではこれに対する賛否が大きな問題となっている。
自民党系36人、公明党16人、立憲民主党系20人、共産党9人、ほか5人というのが横浜市議会の勢力図。
IR賛成は、自民党、公明党。この二つの市議団が市長の方針と歩を合わせている。
反対する市民の動きは、住民投票を求める動きもあって、まとまっているとは言えないが、この点に限って選挙をすれば反対が上回るのではないかと思う。
統合型リゾートの中心となるカジノ施設について、韓国の例を引かずともギャンブル依存症が大きな問題となっており、わざわざ横浜にそんなものをつくってくれるなという市民の主張だけでなく、横浜港の商いを長年にわたって仕切ってきた横浜港運協会の会長藤木幸夫の反対が、今回は大きな焦点となっている。
市議会与党の自民党と公明党、市内観光業者、経済界は、市長の、横浜の経済発展にはIRが必要不可欠だとの主張を後押ししてきたが、コロナの問題が始まってからは、各区でのIR説明会が中止や延期になったことや、かたや住民投票案が否決されたこともあって、この問題の焦点は、この夏の市長選となることになった。
4選を目指す林市長はIR推進を前面に、与党の自民党、公明党をバックに立候補を表明するだろうと思われていたが、いまだ意思表示をしていない。
その前に、自民党からは首長選の4選は党として認めていないから推薦できないという話も出てきた。
このあたりから雲行きが怪しくなる。
自民党はIRを推進しようとしている林市長をなぜあと押ししないのだろうか。
党の決めたルールなど、時と場合によっていくらでも変更してしまうのが自民党のやり方だ。何か事情があるのかと思った。
林市長の代わりにたてる候補者の一番手は元アナウンサーの渡辺真理だという。横浜出身。この人、すでに54歳。市長選に出るのはいい年頃になっている。人気もある。林市長は75歳。IRで前面に立つのは厳しい。
三原じゅん子という声もあったらしい。
渡辺と三原を比較したら、市民の多数派の感覚は間違いなく渡辺。渡辺がIR推進で立候補してくれれば、劣勢のIRも息を吹き返すかもしれない、というのが横浜の自民党の主だったのだろう。
ところがことはそう簡単ではなかった。
市長選まで2か月の6月22日、菅内閣の国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣を務める小此木八郎が立候補を表明した。
大臣職を投げ出して地方自治体の首長選挙に出るのは無責任とのそしりを野党は続けているが、すでに立候補は既成事実化して、あとは自民党県連がどういう方針を出すかが待たれている。
小此木はもともと自民党県連委員長。自ら首長候補を探す立場だった。
なのにそれも辞して自分から立候補する、なぜだ?
小此木立候補の焦点は何といっても「横浜のIRはやめる」との方針。
国会レベルではIR推進の一票を投じながら、地元の横浜での誘致は反対ということに。
毎日、新聞やテレビでしか情報を得ることのできない私には、こうしたねじれがどういうことに起因しているのか、わからない。
小此木の父親彦三郎は通産大臣などを務めた自民党の衆議院議員、渡部恒三などと同期。その父親も衆議院議員。代々横浜の老舗材木屋の社長を務めた。
彦三郎の子どもは男の子が3人いて、3番目の八郎が政治家の看板を受け継いだ。
八郎は、玉川大学の野球部で野球をやっていて政治家になろうなどは考えてもいなかったようだが、長男、次男が政治家とならなかったため、八郎にお鉢が回ってきたようだ。でも三男なのになぜ八郎?次男の人は治郎という。
ガースーは、彦三郎代議士のもと地元秘書や大臣秘書官などをやっていたという。ガースーの妻も小此木家の家事手伝いのようなことをしていたらしい。
八郎からすれば、いつも家に出入りするおじさんのような存在がガースーであり、まさかそのおじさんが総理大臣になるなんて考えてもいなかっただろう。議員として何歩も前を歩くガースーに対し、八郎はまるで血縁のようにガースーの選挙を担い、そして大臣にもしてもらった。
彦三郎の2歳年下が藤木幸夫。二人は横浜経済界の盟友だったという。
彦三郎が死んで30年。盟友同士は、IRをめぐってその後継とハマのドンとして対抗関係となってしまう。
反対が市民運動だけなら、という思いが自民党の中にはあるだろう。90歳になんなんとする、通常なら保守そのものの藤木幸夫が反対しているという構図、それもなにやら「横浜愛」のような形で、気がつけば市民の立場と重なる形で対抗している・・・。
これに対抗するにはいまさら林では難しく、渡辺真理しかない!と一時は県連会長の小此木も考えた。
ここからは推測に過ぎないが、渡辺は「IR推進を掲げるのなら出ない」と言ったのではないか。渡辺にしても、市民のIR反対の声に水を差す形で出たくはないだろう。
林では闘えない、渡辺は出ない・・・。
国を挙げてのIR推進、それを首相のおひざ元の横浜で負けるわけにはいかない・・・
IRはコロナ禍でアメリカ資本が撤退を表明、さらにIR誘致をめぐって自民党秋元議員の汚職、刑事裁判も進んでいる。今や逆風のさらされているのがIR。
負けないためには、闘わない争わないことだ。
そのためには、今まで抱えてきたIR推進の旗をどう下すか、だ。
すでに市大医学部の教授や市議、共産党系も候補は出ている。
IRを下すことについて市議会与党を説得することができて、保守の基盤を守ることができるのは誰だ?・・・と考えた時、「自分が出る」という判断にたどり着いた。
首相の出身地元として、小此木-藤木ー菅という地元横浜の保守の基盤を割らずに横浜の保守体制を温存するための方策、それが八郎出馬だったのではないか。
いったんは退いても、また事情が変われば・・・は政治の常。
今は負けないこと、割らないこと…。そのためにはたとえ国務大臣を辞めてでも、ということだ。五輪とコロナ問題で手いっぱいのガースーは、この展開に黙って首を縦に振るしかなかったのではないか。
ただ、八郎の政治手腕というのがどの程度のものか、血筋は別としてどれほどの力があるのか、素人にはわからない。
いずれにしても(ガースーみたいだが)、八郎のIR取り下げ出馬によって、IRが市長選のテーマにならなくなったことは確か。
取り残された感のある自民党横浜市議団。その説得は八郎にかわって県連会長代行となった市連会長、ガースー側近の地元選出の坂井学官房副長官が担うことに。
一市民の立場からすれば、それはそれで勝手にやってください、なのだが、一番の問題は、見かけばかりでちっとも市民にやさしくない横浜の行政を少しでも良くしていくような統一的な候補がいないことだ。市大医学部教授を立民が推すことを決定したようだが、はたしてどうなのか。
興味半分に言えば、渡辺真理を自民党八郎候補の対抗馬にすればどうだろう。かなり善戦するのではないか。もちろん、渡辺の手腕は未知数だし、林のように変節の可能性もないではない。
今、思い悩んでいるのは林市長ではないか。
12年間も市長として働いてきたのに、自民党も市民も自分のほうを向いてくれない…。
ぼろ雑巾のように使われるだけ使われて捨てられるのは、プライドが許さない。
出るのか出ないのか、あえて火中の栗を拾うのか、裸の王様となって茶番を演じるより名誉ある勇退を選ぶか・・・。