『藁にもすがる獣たち』…『ミナリ』のユン・ヨジョン、ここでも認知症女性の愛おしさを好演。

 映画備忘録

 

アカデミー賞助演女優賞に『ミナリ』のユン・ヨジョンが選ばれた。

表彰式。名前を呼ばれて登壇。プレゼンターは前年の助演男優賞ブラッド・ピット

ユン・ヨジョンはブラッド・ピット

「ついにお会いできましたね。私たちが撮影しているとき、どこにいらしたんですか?」

 

こういうふうに突っ込めるところがユン・ヨジョンという女優の肚の坐ったところ。

日本人なら名優に忖度してこんな発言はしない。

ブラッド・ピットの名前が『ミナリ』の制作総指揮に名前を連ねていたので、トム・ハンクス同様、ブラッド・ピットも映画づくりに意欲的なんだと思った。それも『ミナリ』のようなアジア系の移民の物語をつくるなんて、ただのいい男ではないのだなと思っていた。

それが、ユン・ヨジョンのひとことで現場に一度も行かなかったことが暴露されてしまった。名義貸しか?ブラピの名前があるだけで宣伝効果大。

 

しかし司会者にブラピの初対面の印象を聞かれて、自分の名前を懸命に練習して正確に発音してくれたことを感謝するなど、しっかりフォローもしたという。

 

しかし一番のヒットは「ブラッドはどんな匂いだった?」という記者会見の質問への答えだ。

 

ユン・ヨジョンを、韓国人女優を、アジアの映画人を明らかに見下す質問。アメリカ人の女優にこんな質問は出ないはず。

 

「匂いは嗅いでいない。私は犬ではないから」が彼女の答え。

 

媚びない、しっかりとしたプライドを持った対応。訊いたほうが思わずバカげた質問だということを恥じるような(恥じたかどうかは知らないが)見事なコメントだと思う。

 

その彼女が出演している映画を昨日、本厚木の「あつぎのえいがかんKIKI」に見に行った。

 

『藁にもすがる獣たち』(2020年/109分/G/韓国/原題:Beasts Clawing at Straws/監督:キム・ヨンフン/原作:曽根圭介/脚本:キム・ヨンフン/出演:チョン・ドヨン ユン・ヨジョン チョン・マンシク チン・ギョン)  

 チラシを見るとユン・ヨジョンのところには『ハウスメイド』とある。『ハウスメイド』は2010年の作品。主演は、この映画にも出ているチョン・ドヨン。やや色っぽい不気味な映画だったが、印象に残っている。ユン・ヨジョンはチョン・ドヨンの上司にあたるメイド頭の役。得体のしれないつかみどころのない役を演じていて「ああ、あの人か」という印象。彼女の出演作は『ミナリ』の前はしられているのは『ハウスメイド』なのか。ここに『ミナリ』とあれば、この映画もう少し売れるかもしれない。

 

『藁をもつかむ獣たち』では『ミナリ』同様、ユンは認知症の女性を演じているが、ここでも韓国高齢女性のしぶとさ、複雑さ、愛おしさがよく表れていていい演技。出演陣の中で最もリアリティのある人物像になっている。

 

さて、この映画、切ったはったの韓国エンターテイメント映画の王道。キム・ギドクほどではないにしても、よく血が流れる。しかし死体解体シーンなども、魚の解体と同様に表現される。かなりえぐい。なのに、映画の中に流れる空気は軽快そのもの。よくできていると思う。曽根圭介は乱歩賞作家。残念ながら読んだことがない。

何百億ウオンのお金が入ったヴィトンのバッグがホテルのサウナのロッカーにあるのを、従業員の男が掃除していて見つける。これが発端。彼は認知症の母親と妻そして年頃の娘の4人家族。貧しい中でも懸命に生きている。そこへ突然の大金。このお金をめぐってあくどい男女が入り乱れていく。これでこいつのものか、決まり!と思うとまた次の展開…最後は…。

 

見どころは主演のチョン・ヨドンとチン・ギョンの二人の女性のあざとさ。それとチョン・マンシク。この人は印象が強い。悪役が多いが、脚本の良さと相まって深みのあるいい演技。出刃包丁を振り回す不気味な大男もなかなか。

社会性も何もない映画だが、楽しめた。

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珍しく店頭にメジナが並んでいたので、刺身にするべく久しぶりに出刃包丁を使ってみた(笑)皮は引かず「炙り」で食べる予定。