病院の話④

今朝、3日ぶりの散歩。境川河畔の遊歩道。

「今日は鳥が少ないな」と話していたら、川下のほうからカワセミが啼かずに川面を滑るように飛んでくる。青さがやや薄く、「若いのかね、まだ」と話している目の前で、ホバリング

「や、獲物を狙っているのか?」

次の瞬間、飛び去って行った。

サービスだったようだ。

 

ようやくツバメを目にするように。

数年前からツバメの青さが二人の話題になるのだが、今朝も飛んでいる姿は確かに濃い青がほの見えた。

 

3日ぶりになったのは、また入院していたからだ。

 

3月から3度目。

 

9時半からPCR検査。

結果を待つのに2時間。ドトールでコーヒーを飲んだり、本を読んだり。

入院用に新本で購入した知念実希人の『傷痕のメッセージ』。

読み始めて「ちょっと違ったかな」。

生意気なようだが、味わい不足というところ。

途中で投げ出しはしないけれど、選択ミス。

前回は、馳星周の『青き山嶺』が楽しめたのだが。

『少年と犬』の中古を買うべきだった。

 

ふと待合室の掲示板に目がいく。

勤務する人たちの名前。

ただの羅列ではない。複雑なヒエラルヒーが見える。

役職を並べてみる。

理事長

名誉院長

総長

院長(管理者)

院長代行

副院長

副院長

副院長

副院長

副院長

副院長

副院長

事務局長

事務長

この後、科目ごとの科長がならぶ。副院長が7人もいるのは、まるで自民党か銀行だ。

目につくのはやっぱり「総長」。なんだかここだけが色が白ではないような感覚がある。赤かなあ?

 

2時間後、「PCR検査は陰性でしたよ、入院手続きに入ってください」との電話が携帯に入る。

 

3度目ともなると、慣れたもの。

手続きをして心電図、採血、血圧を測り、点滴用の針を入れて、患者用パジャマをもらい入室。

ふつうの診察の時は、心電図だけでも40分も待たされることがあるのだが、入院患者は優先されるのかすぐに「呼ばれる」。

 

部屋に戻ると看護師、

「今日、緊急の患者さんが何人か入っているので、なかなか呼ばれないかもしれません」。

 

しかしすぐに「呼ばれる」。まだ12時を過ぎたばかり。しかし、治療(手術)に不可欠の「家族」のMさん未到着。看護師、困ったなという顔で出ていく。

 

おっつけ戻ってきて、「やっぱり呼ばれてます」。

 

なんだ、家族がいなくてもやるのか。

緊急の患者さんが多い中、予定されている人たちを次々こなしていかないと、間に合わないのだろう。

 

それにしても病院ではよく「呼ばれる」が使われる。「ちょっと、それ、呼ばれようかな」とは違う。勝手にごちそうになるのではなく、あちこちから患者にお呼びがかかる。私の場合、カテーテル室に呼ばれる。自分で「呼ばれようかな」という具合にはいかない。

 

カテーテル前室。カテーテルに入る前の待合所だ。ここで最初の時は1時間近く待たされた。

今回は早い。青い防護服を着た人とっても大柄な女性が、私の名前を確認して、1番に入ります、という。部屋は全部で5番まである。

 

おもむろに入室。ドクターは急ぐが患者は急がない。

階段を2段上がってベッドに横になる。

「よろしくお願いします!」と何人もの声。若い男性ら。前回も感じたが、部活の始まる前のあいさつのようだ。彼らが着ている防護服は放射線よけだろう。鉛が入っているようで、重そうだ。

カテーテルによる手術は、手首近辺の血管に麻酔をし、カテーテル(管・・・これが部屋の壁に細いの太いの長いの短いの、色がついているの白いのと各種ずらっと並んでいる)を挿入、心臓の冠動脈まで入れて、造影剤を投入(かどうかは正直よくわからないが)、すると私の横にある大きなモニターにレントゲンが血管を映し出す。

 

「少し痛いかもしれません」と言われる。安定剤が注入されたようだ。

これ以後、1時間超、独特の口の中の気持ち悪さ、欠陥を通っていくカテーテルの感覚、造影剤が入るときの下から熱さ?その他いろいろな微妙な感覚を味わう。

麻酔をかけてやってもらえればいいと思うのだが、どうもそういうものではないらしい。胃の内視鏡検査などは鎮痛剤でほとんど時間を感じないのだが。

 

さて、どんな治療だったのか。次の日の朝、宅配のお兄さんのようなさわやかなdoctorがモニターを前に説明してくれる。

血管内は動脈硬化によって石灰化している部分があり、これをガリガリ砕きました、とのこと。たった数ミリの血管の中をそんなふうにトンネルを掘るようなことをして大丈夫なのだろうか。

ガリガリ掃除をしてきれいにしたところに、ステントと呼ばれる動脈が狭窄しないためのミニトンネルを入れたとのこと。これでステントは右の2本と合わせて3本目になる。カテーテルを使って運んだのだろう、たぶん。

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手術室に戻る。

40分を過ぎろころから、苦しくなってくる。動かずにじっとしているのがつらいのだ。少し足を動かすと、「動かさないで」と言われる。

気を紛らすために部屋の中を眺めまわす。そのうちに枕がずれてしまう。気がつけば尿意が近所まで来ている。鼻の頭だってすこしかゆいような気がする。

私の「もぞもぞ」を感じるのか、何人かが「もう少しですよう」。

しかしひねた患者は、「こりゃ蕎麦屋の出前だろう」なんて考えている。もう少しと思ってはいかん、出前ももうすぐ来るだろうと思えば思うほど、「なかなか来ねえ」のである。

 

突然、「はい、終わりましたよ。お疲れさまでした!」の明るい声。

「大変でしたね」のねぎらいの言葉がうれしい。大変なのは私ではなくdoctorたちのほうなのだが。

終わるときの片付けの速さは尋常ではない。酸素飽和度、血圧、心電図、その他いろいろなものを一気に外して、パジャマのひもを結ぶまであっという間。

 

ややふらつくも、そのままトイレへ。

解放感。

部屋へ戻ると、Mさんが来ている。まだ1時半になっていない。

これ以後は、点滴に手首の圧迫、そして携帯心電図をつけて過ごす。

明日の朝まで1冊、ミステリーを読めば退院。

またまたどうでもよい病院の話だった。