『夜明け前のうた 消された沖縄の障害者』旺盛な取材力があるのに、「消された障害者」という物語をフレームアップするための「細工」は必要ないと思った。見ていてしらけるというか、やや鼻白む感じがした。

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モッコウバラの香りが庭に満ちているとMさんが云う。

4月22日、シネマリンでの二本目の映画。

『夜明け前のうた 消された沖縄の障害者』(2020年製作/97分/日本/監督:原義和/2021年3月20日公開)

 

かつて日本に存在した精神障害者を隔離する制度「私宅監置」の実態に迫ったドキュメンタリー。1900年に制定された精神病者監護法に基づき、精神障害者を小屋などに隔離した私宅監置制度。隔離された人々は人生を奪われ、尊厳を深く傷つけられた。日本本土では1950年に禁止となったが、沖縄では本土復帰の1972年まで続けられ、その後も公的な調査や検証は行われていない。沖縄でこの問題を追い続けてきたテレビディレクターの原義和が、1964年に東京から沖縄へ派遣された精神科医・岡庭武氏が記録した写真と当時のメモを基に、犠牲者の消息をたどる。

 

戦後の沖縄で精神障害に罹患する若い人の数は、本土に比べてかなり多かったということを遅ればせながらこの映画で知った。鉄の暴風と言われ、多くの県民、とりわけ幼い子どもたちや義勇兵としての中学生などが旧日本軍と一緒に戦わざるをえなかった沖縄戦精神疾患の多さは凄惨な戦場体験によるトラウマによるものだろう。米軍統治の中で、沖縄が返還されるまで私宅監置という風習が沖縄全域で行われていたのだが、ガマでの集団自決同様、このことは沖縄では語られることのなかった問題のようだ。沖縄戦との関連をもっと追及してもよかったのにと思った。

 

岡庭武氏の記録した写真は私宅監置の実態を余すところなく伝えていたが、それが50年もの間、公表されることはなかった。なぜ公表されなかったのか、単に本土と沖縄では医療制度が違っていたからというところにとどまらない問題として、これも追及してほしかった。

 

 

映画では一枚一枚の写真をもとに現地調査を行い、消された名前と掘り起こす経緯が描かれる。

監置された人との交流があった人たちへのインタビューもあり、実態が少しずつ明らかになっていく。

 

ただ、監置されていた藤さんと呼ばれる女性を「顔のない女性」として仮面をつけて登場させ、最後は監置小屋を焼くという手法は疑問に思えた。実際に藤さんという方は監置小屋を出た後、特別養護老人ホームで生活しており、実態のあった女性なのだから、

「消された障害者」という物語をフレームアップするための「細工」は必要ないと思った。見ていてしらけるというか、やや鼻白む感じがした。

せっかくの取材力も、「物語」を入れ込むことでリアリティを減じてしまったと思った。