『対抗言論』という雑誌がある。
第1号が2019年12月に、第2号がつい最近出た。
大部である。1号が345ページ、2号は400ページを超えている。
第1号の巻頭言。
私たちはヘイトの時代を生きている。
現在の日本社会では、それぞれに異なる歴史や文脈をもつレイシズム(民族差別、在日コリアン差別、移民差別)、性差別(女性差別、ミソジニー、LGBT差別)、障害者差別(優性思想)などが次第に合流し、結び付き、化学変化を起こすようにその攻撃性を日増しに強めている。
さらにデマや陰謀論が飛び交うインターネットの殺伐とした空気、人権と民主主義を軽く見る政治風潮などが相まって、それらの差別や憎悪がすべてを同じ色に塗りつぶしていくかのようである。
こうしたヘイトの時代は長く続くだろう。
SNSや街頭でヘイトスピーチ(差別煽動)を叫ぶ特定の者たち以外に、ヘイト感情や排外主義的な傾向をもった人々がこの国にはすでに広く存在する。私たちはその事実をもはや認めざるをえない。
在日外国人や移民を嫌悪して、社会的弱者を踏みつけにしているのは、日々の暮らしのすぐ隣にいるマジョリティのうちの誰かなのだ。いや、私たちの中で差別的加害を小なっていないと断言できる者などどこにいるだろう。
本誌『対抗言論』は、ヘイトに対抗するための雑誌である。
1号の特集は
①日本のマジョリティにいかにして向き合えるのか
②歴史認識とヘイトー排外主義なき日本は可能か
➂移民・難民/女性/LGBTーともにあることの可能性
2号の特集は、
①差別の歴史を掘り下げる
②性と障害と民主主義
➂2020年代の世界認識のために
この閉塞の時代、正面からこうした言論の場所を具体的につくりだしていこうとする気概は貴重で共感するとともに敬意を表したい。
すべて目を通すことは私の力を超えているが、特集の文言のラディカルさに比して、内容的に幅広い領域をカバーしていて、執筆陣も多彩だ。とりわけ台湾にルーツを持つ作家温又柔や木村友祐、星野智幸と杉田俊介らとの対談や文章が私には新鮮に感じられ、そのまま雑誌に豊かな幅を持たせているように感じられた。
貴戸理恵、雨宮処凛、秋葉忠利などの論考、櫻井信栄や藤原侑貴の小説も面白く読んだ。いつも狭いところしか見ていないから、紙面のさまざまな視点に蒙を開かれる感覚がある。
さながら総合誌の景観だが、法政大学出版局が版元で、中沢けいや川村湊ら法政大に関わる執筆者も多いが、それとは別に、一切広告なしでクラウドファンディングで出版費用を生みだしている点がちょっとすごい。
なお、1号に「アジアの細道」、2号に「ビザラン挽歌」を寄稿している藤原侑貴は3つめの勤務校の卒業生。織田作之助青春賞や日大文芸賞佳作を受賞した新進の作家。アジアを舞台にした2作品は連作的につなっがっており、アジアを放浪する若者の独特の日本人感覚?が新鮮で面白い作品。読者を引き込む力をもっていると思う。一読をお勧めしたい。