『花束みたいな恋をした』「恋愛ってむずかしいよね」「そうだよね」(若い女性たちの感想)  『KCIA南山の部長たち』…「お前のそばにはいつも私がいる。好きなようにやれ」(朴正煕の部下操縦術)

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2月27日の近所のミモザ 今朝はもう色が褪せてしまった。


映画のまとめが終わらない。

 

2月23日、二人でグランベリーシネマで

                                      『花束みたいな恋をした』

2021年/124分/日本/監督:土井裕泰/脚本:坂元裕二/出演/菅田将暉有村架純/2021年1月29日公開)

 

タイトルだけでもちょっと引いてしまうこの映画。館内はポップコーンと飲み物をもった若い男女、女性同士のカップルがほとんど。私たちはどう見ても3~40歳年上のカップル(かつてはアベックと言った)。引いてしまうのはタイトルよりこっちのほう。

あえて見にいこうとMさんを誘ったのは、ブログ友達(川越のほうに住んでおられるたぶん年上の方で、「友達」という表現は失礼だと思うのだが)のsmokyさんという方が「よかった」と書いていたことと、菅田将暉の映画は見ておきたいなということ。『ああ、荒野』のような激しい映画もいいけど、この映画や『糸』『生きてるだけで愛』のような映画にも菅田将暉のよさがよく出ていると思うからだ。

 

東京ラブストーリー』『カルテット』を書いた坂元裕二という人の脚本。とりたてて事件は起こらず、5年間の一つのカップルの日常をうまく切り取っていて最後まで楽しめた。

 ストーリー的には「ありがち」なのに惹きつけられるのは、セリフが気が利いていて、そのセリフに二人の俳優がちゃんとした色付けをしているからだと思う。

 この年になると、そんじょそこらの恋愛話では驚かないし、どんなに激しいベッドシーンも「はいはい」ってなもんだ。

彼らの日常には取り立てて大きな事件は起こらず、恋のライバルも登場しない。では、何が彼らを引き離していくのか。二人の間に流れる時間は出会いの時にはありえないほどぴったり同期して(私たちって似ている!)、そして時間がたつうちに波長が少しずつずれ、似ていないところが露わになり始める。男女の間を分けていくのは「時間」の流れ方だ。時にはそれを「深くて暗い河」という(笑)

この映画「22歳の別れ」「神田川」などと構造は基本的には同じ。でも恋愛の王道を行っていると思う。同工異曲と感じさせないところが脚本とキャスティングの妙。

映画が終わって出てくる途中で、Mさんが耳に挟んだ若い女の子たちの会話。

「恋愛ってむずかしいよね」「そうだよね」

「花束のような恋」の映画を見て、むずかしいか。若さとか性欲とか独占欲の前に、恋愛の作法や方法を考えてしまうのだろうか。人間関係って難しいよね、ならまだわかる。恋愛は難易度では測れない。

 

3月9日

本厚木kikiまで出かける。火曜日はポイントが倍に。招待券ゲット。

KCIA 南山の部長たち』(2019年/114分/韓国/原題:The Man Standing Next/ウ・ミンホ/原作:キム・ミュンシュク/脚本:ウ・ミンホ イ・ジミン/出演:イ・ビョンホン イ・ソンミン クアク・ドウォン/日本公開2021年1月22日)

 

朴正煕が暗殺されたというニュースを朝食の時にラジオで聞いていた。事件は1979年10月26日だから、放送を聞いたのは翌27日ということになる。上の子が産まれて2か月、戸塚の古い借家のキッチンで、行ったことのない韓国のことをぼんやり考えた。「暗殺」という言葉のまがまがしさに戦慄を感じた。

 

この映画は、その18年前に軍事クーデターで政権を取り、経済発展の基礎をつくったといわれる朴正煕独裁政権時代の、いわば韓国の暗部を描いている。

 

1979年に朴正煕大統領がかつての革命の同志、政権NO.2の中央情報部(KCIA)部長キム・ジェギュに暗殺されるまでの、割合短い期間を描いた実録もの。暗殺の40日前、前任のKCIA元部長パク・ヨンガクは亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で、韓国大統領の腐敗を告発する。朴正煕は激怒し、キム部長に収拾を任せる。キムはアメリカへ渡りヨンガクに接触。いくつもの勢力が入り乱れて…前部長は殺されてしまう。

そうした経緯を映画はサスペンスふうには描かない。朴正煕の絶対的な権力の裏には独特の部下操縦術があり、キムやパク部長、そして警護部長もそれに翻弄されていく。

朴は言う。

「お前のそばにはいつも私がいる。好きなようにやれ」

しかし、その結果に対して朴正煕は容赦ない。寵愛は続かない。

 

キム部長が朴正煕を「やるしかない」と肚を決める動機が、朴正煕の政治性、民衆を虚仮にする独裁性ではなく、アメリカ式の民主主義を標榜する近代的な愛国心をまぶしてはいるものの、よくよく煎じ詰めれば自分への寵愛を取引材料にする朴正煕へのアンビバレントな激しい感情にあるように見える。いわば「どうして私を愛してくれないの」。

クーデターを企図したかにみえるが無計画なのもその感情のせいだ。分裂気味の感情の高まりによる犯行のように描かれる。映画は一国の「政変」を冷徹に見据えている。史実から浮かび上がる生々しい欲得感情。皆が皆自分の欲望に忠実に動くエゴイスト、キム・ジェギュだけがエゴイストになり切れず彼らに翻弄されていく。

 

朴正煕自身も、驚異的な経済成長をもたらした長期政権の中で、民衆など屁とも思わず、金だけに執着する我利我利亡者であって、人を信用しなくなっている。朴自身の偏頗な部下操縦術と金への妄執が一国を揺るがす「暗殺」を演出したとするとらえ方は、新鮮だしリアリティがある。金抜きの権力などあり得ない。だから権力は必ず腐る。トランプも朴槿恵も、安倍・菅政権もか。

揺れ動くキム部長を演じたのが『インサイダーズ 内部者』のイ・ビョンホン。朴正煕は「目撃者」のイ・ソンミン、警備部長は『 哭声 コクソン』のクァク・ドウォンが演じている。とりわけ朴のイ・ソンミンの演技は見ごたえがある。

政治はつねに「大義」を先行させるように見えるが、大義の裏には狂おしいばかりの人間の欲望がある。韓国映画はそれを正面から描くのに躊躇しない。血みどろの暗殺シーンの迫力もまた韓国映画

いつも思うことだが、こういう映画ができてくる(そう感じられるほど自然にいくつもつくられる)のが韓国のすごいところ。歴史を何度も上書きしようとする民衆のストレートなエネルギーのようなものに日韓の彼我の違いがあるように思った。