『空洞のなかみ』松重豊

タレント本を買ったのはいつ以来だろうか。

 

最初に買ったのは山口百恵の『蒼い時』(1980年)だったろうか。百恵ちゃん(書いてみると少し恥ずかしい)が実際に書いたというので読んでみた。面白かった記憶がある。あの独特の低い声もそうだが、生きてテレビの中にいるだけで物語のようだった。

 

最近では山口果林(同じ山口だ)の『安部公房とわたし』だろうか。調べてみたら2013年。最近とは言えない。期待ほどではなかった。

 

『空洞のなかみ』。タレント本である。作者は松重豊

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毎日新聞出版 1500円(税別)

 

バイプレーヤーとして人気絶大の松重。かつては『深夜食堂』のやくざ役は、漫画とそっくりだった。食い物番組は飽き飽きしているが、『孤独のグルメ』のナレーションと食べっぷりだけは別格。先日放映された新丸子の「さんちゃん食堂」など、店の面白さ、良さを十分に伝えていて良かった。

 

12編の掌編小説と25編のエッセイでできている。

 

コロナ禍で仕事がなくなり、在宅を余儀なくされていて書いたものだという。

 

12編の小説は、役者の底知れぬ不安と不安定さを描いている。なにより小説として体をなしているのがすごい。京都・太秦は彼の仕事場だが、至近の広隆寺の国宝・弥勒菩薩を枠組みに使っている。空洞のなかみの寓話性。手練れの文章。いずれ長い小説を書いたら読んでみたい。

 

エッセイのほうは「サンデー毎日」に連載していたもの。軽妙洒脱。とにかく面白い。本の途中に目次があるのだが、この目次も気が利いていて面白い。

 

 

最近、一気読みした本は、『優雅なのかどうか、わからない』とこれの2冊。