戸車(とぐるま)

戸車で困っている。1週間前から。

 

戸車という言葉、ほとんど使ったことがない。

 

洗面所の引き戸についている二つのクルマ。

何もなければ存在すら意識しない戸車というもの、”とぐるま”と読む。

普通の人はよく知っているものだろうか。

 

なんだか聞いたことはあるような気はするが、あまりかかわったことはない。

 

影の車』は松本清張だった。加藤剛岩下志麻だったか。懐かしい。岩下志麻、最近みかけない。

 

このところ、なんだか動きが悪いなと思っていた。

すーっと、ころころと滑らない。調子のいい時は勢いがつきすぎて手をはさみそうになる。ドア自体かなり重いからけがをしそうになる。

 

こんなはずはない。

時々、さび止めなどを指すところころと動くようになるのだが、今回はその手は功を奏さない。

掃除機でほこりを吸う。

これもダメ。

外してみることに。ドアの高さが190㎝以上ある。縦にするのも横にするのもやっかい。

 

二つのうちひとつをドライバーで外してみる。

 

初めての顔合わせ。

 

針金や楊枝で掃除をしてみる。確かにほこりは出てくる。

よく見てみると、車の部分が少しへこんでいるように見える。

一方の車と比べてみるとたしかに。

 

表面にはDAIYASUと書いてある。メーカー名だろうか。まさか京都の漬物屋ではあるまいに。

 

型番のようなものの記載はない。数字はあるが、

「OCT 01 2002」

とあるだけ。生産された日付。

そんなものより型番は?

ない。

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カインズホームへ向かう。

戸車と書いてあるコーナーがある。同じものを探すが、みつからない。店員に聞いてみる。

「うちでは扱っていませんね」

コーナンに向かう。

結果は同じ。

 

洗面所のドアは風呂に入るには必需品である。夏なら開けっ放しでも何の問題もない。

冬は、小さな電気ストーブを置いているが、ドアが閉まらなければ寒さを防ぐのにほとんど役に立たない。

 

「ちゃっちゃと脱いで洗濯機に放り込み、風呂場に入っちゃえばいい」とMさん。

いつもの大胆な発言である。

それはそうなのだが。最近、とみに動きが遅くなっている。考え込んだりはしていないが。

 

そのうちにMさん、キャンプの時に寝袋の下にひく銀色の、なんというのか、折り畳みの敷物を上からつるすという。ドアに比べると効果は薄いが、少しだけ寒さがしのげる。

 

 

互いにネットで戸車探しを始める。

同じものがなかなか見つからない。

 

2002年のものは普通は廃番になっている。メーカーってそういうもの。

でも、同じものはなくても代用できるものは作っているはず。

それでもみつからない。

 

そこで専門店の問い合わせ欄に事情を書いて、廃番となったもののその代用品はないだろうかとメールを打つ。あとは返事を待つだけだなと思っていると、

Mさん。

「富山にあるって!」

 

富山の金森商店というお店。

HPに出ている写真の縦横幅のサイズと形状をこちらの現物を弾き比べてみる。

たしかに。まちがいない。

これは使えそう。よく見つけたものだ。

 

早速ネットで注文。これで解決かと思っていると、

 

「豪雪のため、商品の輸送が動いていません」

 

というメールが入る。

 

5日前である。

 

「雪じゃしょうがないね。待つしかないよ」。

 

私は存外あきらめがいい方だ。

 

おとといになって、スマホを見ていたMさん、

 

「今、富山の配送センターにあるって」。

 

 

さっきお昼ごろ、品物が届いた。雪にも負けず小さな包みが富山から届いたのだ。

日本の物流は優秀。

 

さっそく、取り付けてみる。

約1時間。何度もドアをレールに乗せてみるが、カラカラとは動かない。

原因不明・・・と言ってもたぶん簡単な物理的な問題なのだろうが。

 

顔を見合わせて、「こりゃ大工さんに頼むしかないな」と昼食づくりを始める。

こっちのほうがどちらかと言えば大工仕事より得意。

 

Mさん、思い立って、近所の手作り家具工房を経営している友人にメール。

Mさんは近所に知り合いが多い。誰にでも気安く挨拶をする。年をとるごとに人当たりがよくなる。

私は近所に知り合いあるいは親しくしている人っていない。

挨拶をするだけの人はいるが、話し込んだり、酒を飲んだりはしない。

引っ越してきて10年を超すのに、いまだにともだち一人できない。年をとるごとに偏屈、人嫌いになっている。

 

さきほど、友人様から返信のメールがあったとのこと。

あす、家具職人のダンナさんが見に来てくれる。ありがたい。

 

戸車の悩みはいよいよ2週目に入る。