薄暮シネマ№ 127 ~№ 130  『ローズの秘密のページ』『ザ・レッスン 女教師の返済』『町田くんの世界』『マチネの終わりに』

薄暮シネマ№ 127 ~№ 130

 

12月17日(木)№127

『ローズの秘密のページ』(2016年/108分/アイルランド/原題:The Secret Scripture/監督:ジム・シェリダン/出演:ルーニー・マーラー バネッサ・レッドグレーブ エリック・バナ ジャック・レイナー テオ・ジェームズ/日本公開2018年2月)★★★★

 

取り壊しが決まった精神病院から転院する患者たちを診察するため、病院を訪れた精神科医のスティーブン・グリーンは、赤ん坊殺しの罪で精神障害犯罪者として40年もの間病院に収容されている老女ローズ・F・クリアを看ることに。自分の名が「ローズ・マクナリティ」であると訴え続ける彼女は、赤ん坊殺しの罪を否認し続け、大切にしている聖書の中に何十年にもわたって密かに日記を書きつづっていた。興味を抱いたグリーン医師に、彼女は半世紀前からの自分の人生を語り始める。(映画ドットコムから)

 

アイルランドでつくられた映画。独特の空気が映画に流れている。

 

若いころのローズを演じるルーニー・マーラーと、長年精神病院に押し込められてきたローズを演じるバネッサ・レッドグレーブの2人の演技が見もの。

一見放恣に見える一人の女性の数奇な運命。3人の男性が彼女の人生に深く絡んでいく。とりわけ神父役のテオ・ジェームズの存在が重要。

ラストシーンはバラせないが、ローズが聖書の余白に書き続けた事実はからすれば荒唐無稽とは言えない。

物語のすごさというより映画のすごさ。うなった。

 

12月21日(月) №128

『ザ・レッスン 女教師の返済』(2014年/105分/ブルガリア・ギリシャ合作/原題:Urok/監督:クリスティナ・グロセバ ペタル・バルチャノフ/出演:マルギダ・ゴシェバ/日本公開2014年)★★★★

 原題Urokは、ブルガリア語で「レッスン」。

ブルガリアでは年間数本しか映画がつくられないそうだ。
それにしては本作、よくできている。
ナデジダは、学校の教員。生徒の顔ぶれを見ると、かなり年齢差があるように見える。
生徒はおおむね無表情。教員との心的なつながりは感じられない。
教室で盗難事件が起きる。ナデジダはこっそりでいいから名乗り出ることを求めるが、反応はない。これが布石。
 
ある日、突然知らされる夫の多額の借金。期限を切られた自宅の差し押さえ。ナデジダは、借金の返済に走り回る。手持ちカメラを多用しているせいか、ナデジダの切迫感がひりひりと伝わってくる。

お金を振り込まないと自宅を取られてしまう。窓口は閉じられそうになるが、係の女性の機転で間に合う。これで終わるかにみえるが、借金返済の計算が違っていたとの電話。あわてて再び銀行に向かうナデジダ。
その前にナデジダは、教室にわなを張っていた。小銭をサイフに入れて放置していたのだ。
ナデジダはバスに乗ってからサイフにお金が入ってない事に気づく。さあ、どうする…。
後妻をめぐる父親との確執、頼りない夫への絶望、信頼関係の結べない生徒たち。
舞台はたぶん首都ソフィア。2014年のブルガリアの様子が描かれる。
 
ブルガリアは、ソ連の侵攻を受け王政が廃止、長い間ソ連の衛星国家となり、89年のソ連崩壊後、今世紀初頭に共和制国家となる。EUに加盟するが最貧国であり、若年層や知識人が他国へ流出したといわれる。通貨はユーロではなく、レフ。
 
最近は西側諸国のアウトソーシングによってIT関連で活性化しているといわれる。
 
かつてよく聴いたブルガリアンポリフォニーの声が教室のシーンで一瞬聴こえた。
イタリアを発症とする西洋音楽の伝統とは別の、ロマなどの影響を受けた独特の発声法があり、ハーモニーの美しさは秀逸。
 
金と人間をめぐる物語は世界共通だが、教員を主人公にしたところがこの映画の面白いところ。
 
12月24日(木)№129
『町田くんの世界』(2019年/120分/日本/原作:安藤ゆき/監督:石井裕也/出演:細田佳央太 関水渚 岩田剛典、高畑充希、前田敦子、太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子/公開2019年6月)★★★☆
 

運動も勉強も苦手で、見た目も地味で、何も取り柄がなさそうに見える町田くんには、人を愛することにかけてズバ抜けた才能があった。困った人のことは絶対に見逃さず、接した人々の心を癒し、世界を変えてしまう不思議な力をもつ町田くん。しかし、そんな彼の前に現れた女の子・猪原さんは、これまでの人々とは違っていた。初めてのことに戸惑い、自分でも「わからない感情」が胸に渦巻く町田くんだったが、「わからないことから目を背けてはいけない」という父親の言葉を胸に、「わからない」の答えを求めていく。(映画ドットコムから)

 

120分の長丁場、それほど飽きずに最後まで見てしまった。主役級の役者を随所に配しているせいもあるが、町田くんのわからなさが最後まで引っ張っていったのではないかと思う。

 

町田くんは高校生の姿格好をしているが、子どもの「原型」のような存在。自分の頭の上の蠅よりも他人の頭の上の蠅に関心がある。だれもがわかっていると思い込んでいる世界が、町田くんにはわからない。町田くんは世界を掴む方法を探している。一方、

周囲の人たちは、町田くんのそのわからなさを通して世界をもう一度掴みなおす。

面白かった。本作でも大賀がいい味を出している。

 

12月26日(土)№130

『マチネの終わりに』(2019年/124分/日本/原作:平野啓一郎/監督:西谷弘/脚本:井上由美子/出演:石田ゆり子 福山雅治ほか/公開2019年11月)★★★★

音楽映画としても十分楽しめる映画だった。西谷弘監督の作品は何作か見ているが、これはずぬけていい出来だと思う。

 

二人で見終わって、ラストシーンの読み取り方が全く正反対だった。Mさんは、蒔野は早苗と別れて洋子と新しい生活を始めるという説。私は早苗と蒔野は別れず、そのまま3人の家庭を生きるという説。

 

さて、どっち?原作を読んでも答えは出てこないような気がするが、読んでみたい原作ではある。

 

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歩いて30分 森さんちの無人販売所で買いました