『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい』何も書かれていない脚本から始まり、上演禁止を経てパリの民衆の力で上演に至るまでのドタバタ劇が、小気味よいほどに繰り広げられる。

どこのシネコンでもそうだが、封切り時には一日4回ほども上映したものが、早いものでは2週間で早朝を含めた2回になり、1週間後には早朝だけになる。「鬼滅の刃」の勢いは最終巻初版395万部とともに衰えを知らないが、10月11月と封切られた邦画は早々と姿を消していく。『スパイの妻』はもうどこのシネコンでやっていない。みなとみらいのブルク13での上映も行こうと思った時には終わっていた。

 

早朝の一日1回の上映を二日続けてみた。

 

3日、『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい』(2018年/112分/フランス・ベルギー合作/原題:Edmond/監督:アレクシス・ミシャレク/出演:トマ・ソリベレ オリビエ・グルメ/日本公開2020年11月13日)

 

原題の「Edmond」は、主役で戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の作者のエドモン・ロスタンのこと。フランスで長く演じられてきたこの戯曲に対するオマージュの映画。

シラノ役のコクランを演じているのがベルギーの俳優オリビエ・グルメ。役者の顔はなかなか覚えられないが、この人は一目で「見たことあり」。

カトリーヌ・ドヌーヴ主演の佳作『ルージュの手紙』(2017年)、そして時代的には少し前の19世紀半ばのパリを舞台にした『マルクス・エンゲルス』(2018年)でも達者で個性的な演技をしていた人。今作は共同主演と言っていいほどはじけていて素晴らしかった。

 

19世紀末のパリを舞台に、ベル・エポック時代を象徴する戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の誕生秘話を描いた伝記ドラマ。1897年、パリ。詩人で劇作家のエドモン・ロスタンは、もう2年近くもスランプ状態に陥っていた。そんな彼のもとに、大物俳優コンスタン・コクランの主演舞台を手がけるチャンスが舞い込む。しかし決まっているのは「シラノ・ド・ベルジュラック」というタイトルだけで、執筆は一向に進まない。そんな中、親友レオが愛する女性ジャンヌと、レオになり替わって文通することに。彼女との詩美あふれる手紙のやり取りに刺激され、自身の脚本執筆もついに進み出す。やがて、借金だらけの俳優や気まぐれな女優ら崖っぷちの舞台人たちが劇場ポルト・サン=マルタン座に集い、それぞれの人生を懸けた舞台の稽古が始まるが……。

                    (映画ドットコムから)

何も書かれていない脚本から始まり、上演禁止を経てパリの民衆の力で上演に至るまでのドタバタ劇が、小気味よいほどに繰り広げられる。さまざまな仕組みが縦横無人に張り巡らされていて、飽きが来ない。時代考証は重厚でまるで19世紀末のパリにいて、芝居を見ているような気になってくる。ほぼ完ぺきなつくり。こんな映画をつくる映画人がまだまだいるということに驚く。日本でいえば凝った時代劇をつくる感じ?

観客は私を入れて6人だったが、早朝映画、いい時間を過ごせた。

 

「時計じかけのオレンジ」の原作者アンソニー・バージェスが脚色・脚本翻訳を手掛け、2007年にリチャード・ロジャース劇場で上演されたブロードウェイ再演版を収録した映画『シラノ・ド・ベルジュラック』が3月に公開されている。「会いたい」をつけたのは後発のせいか。