大竹しのぶ「ファイト!」11月7日の『ミュージックフェア』の幸福な時間。

f:id:keisuke42001:20201111162254j:plain


11月7日にあった『ミュージックフェア』の録画をMさんが見ているのを、となりの部屋で聴いていた。

 

中島みゆきの『ファイト!』が聴こえた。

なんだ、これは?

大竹しのぶ、だ。

 

夜、酒を呑みながら聴いた、見た。

最近とみに涙腺が弱くなりつつあるのに、酒を呑んでこんな歌を聴いてはいけない。

 

 

 

あたし中卒やからね 仕事をもらわれへんのやと書いた
女の子の手紙の文字は とがりながらふるえている
ガキのくせにと頬を打たれ 少年たちの眼が年をとる
悔しさを握りしめすぎた こぶしの中 爪が突き刺さる

私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
私 驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった
ただ恐くて逃げました 私の敵は 私です

 

目と声に力がある。引きずり込まれる。

こちらが「あたし」にかかずらっているうちに、大竹は「私」へと一気に飛ぶ。

 「私」の敵は「私」。

 

自分への失望のやりきれなさ。

 

そしてささやくように


ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ

 

と歌う。このささやきにまいる。「ファイト」は受ける光によって色合いが変わっていく。

 

 

「冷たい水の中」のイメージが歌われる。

暗い水の流れに打たれながら 魚たちのぼってゆく
光ってるのは傷ついてはがれかけた鱗が揺れるから
いっそ水の流れに身を任せ 流れ落ちてしまえば楽なのにね
やせこけて そんなにやせこけて魚たちのぼってゆく

勝つか負けるかそれはわからない それでもとにかく闘いの
出場通知を抱きしめて あいつは海になりました

海になった「あいつ」、「私」の敵は、まだ「私」なのだろうか。

 

 

朝、起きてもう一度録画を見た。

 

大竹しのぶのひとり舞台というのは通俗的か。

一点を見つめながら歌い続ける大竹は、演技に置いてけぼりを食わせて、勝手に先に歩いていく。

 

また涙腺が緩む。酒のせいではないようだ。


薄情もんが田舎の町にあと足で砂ばかけるって言われてさ
出てくならおまえの身内も住めんようにしちゃるって言われてさ
うっかり燃やしたことにしてやっぱり燃やせんかったこの切符
あんたに送るけん持っとってよ 滲んだ文字 東京ゆき

ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ

あたし男だったらよかったわ 力ずくで男の思うままに
ならずにすんだかもしれないだけ あたし男に生まれればよかったわ

ああ 小魚たちの群れきらきらと 海の中の国境を越えてゆく
諦めという名の鎖を 身をよじってほどいてゆく

ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ

ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ

ファイト!

 

物語の断片の間に差し込まれる、明るく大きな声の健康的な「ファイト」が、吐き出されたとたんやせ我慢をしているように。

「闘う」と「闘わない」は、どちらも吃音のようだ。たやすく口に出せない「闘い」という言葉。

 

間奏で大竹はギターのソロの方を見る。所在なげな視線。間がもたなそうな。

 

エンディング。カメラはずーっと引いておわる。

 

ところが、次の瞬間、大竹のアップ。何ともいえない含羞の表情。

 

歌は、ここまでがうただ。

 

久しぶりにいい歌を聴いた。

2016年の「題名のない音楽会」、藤木大地の「死んだ男の残したものは」以来かな?

 

 

 これは2017年のもの。

こちらの方が劇的な表現に聞こえる。でも、今回の方がいいかな?