毎日、けっこうな時間パソコンの前に坐っている。
散歩から帰って風呂に入り、パソコンの前に坐るのはたいてい8時半を過ぎたころ。
今日はこれとあれをやってと、一応の段取りを立てるのだが、これがなかなかその通りにいかない。段取り通りいくのは10時のコーヒーと昼めしと、あとは午睡くらい。いろいろなものが中途半端に散らかって集中しない。薄暮の頃になると、今日はまあいいっかと酒を呑むことばかり考えている。
せめて本の数ページ、映画の一本くらいは見たいとは思うのだが、誘惑に負けることしきりである。
はずかしや おれの心と 秋の空 (一茶)
24日の土曜日、グランベリーシネマで
『望み』(2020年/108分/日本/配給:KADOKAWA/原作:雫井修介/監督:堤幸彦/脚本:奥寺佐渡子/出演:石田ゆり子 堤真一 竜雷太 清原果耶 松田翔太ほか/10月9日公開)
をみた。それほどインパクトは強くないが、細部まで丁寧につくってあって楽しめた。
以前から石田ゆり子という女優が好きだった。どこか幸せ薄い感じで、和服の似合いそうな・・・。通俗的で申し訳ない。実際は違うのだろうが、こういう幻想をもたせてくれる女優はいい。
4年ほど前『コントレール』というNHKのドラマがあった。井浦新と石田ゆり子の組合わせで大変に良かった。大石静香の脚本。
元弁護士の長部(井浦新)は無差別殺人の現場で安人ともみ合っているうちに、過って現場に居合わせた文(石田ゆり子)の夫(丸山)を殺してしまう。
事件の衝撃で声を失った長部が、絶望の淵で出会ったのが文だ。二人は恋に落ちて…。
この二人の演技がとても印象に残っている。井浦新は当然のこと、やっぱりこれは石田ゆり子しかないなと思ったものだ。抑制的な演技がとても良かった。
『望み』では、高校生同士のトラブルから失踪した息子が、はたして加害者なのか被害者なのか分からない中で、ネットやマスコミにたたかれ揺れ動く母親の役。
悪くはなかったが、特筆するほどではなかった。母親の中で揺れる気持ちの中には、もっと複雑な感情の動きがあってもいいと思うのだが、脚本がそこまで求めていないのだなと思った。
『望み』は読んでいないが、何作か雫井修介の作品をよんでいて思うのは、物語の枠組みがしっかりしていながら登場人物の心理描写が丁寧なのがいいところだなと思ってきたが、堤との夫婦に関して言えば、ネタバレになるから詳しくは書かないが、最後の最後まで夫婦が失踪した息子を間に「向き合わない」という点ではヤワな妥協をせず、事件の決着も一筋縄ではなく、深みのある余韻を残したのがよかった。
随所に芝居巧者が配されていて楽しめた。
竜は、設計事務所を経営する石川(堤真一)の得意先の建築屋だが、老人の嫌味と強引さの演技は出色。特に石川に対して指で背広の襟を突く所作はリアル。石毛は貴代美(石田ゆり子)の母親役だが、母子ゆえの遠慮のなさと老人の度し難い鈍さを軽快に演じていた。
妹役の清原果耶も、兄が殺人犯となるより、被害者となって死を望んでしまう受験生を
好演。
救いのある終幕ではあるが、1人少なくなった家族写真が象徴するように、新しい幸せがこの家族に戻ってくるかどうか。
ここまで来て『望み』という変哲のないタイトルが、切実感のあるものと感じられた。
それにしても、若者のトラブルのわけの分からなさ。既視感がある。仕事をしているときはこれに近いものをたくさん見た。まっとうな感性をもつ者からさきに希望を失っていくような。
『鬼滅の刃』でロビーがかなり密状態になっている中、『望み』は閑散。
女子高生3人組が見に来ていた。作品に興味があって誘い合ってきたのか、それとも息子役の売り出し中の岡田健史君めあてだったのか。