『閉鎖病棟―それぞれの朝ー』鶴瓶の演技はよく抑えられていてよかった。綾野剛もトリッキーな役が多いが、この映画ではシリアスな演技がよかった。母親役の片岡礼子、独特の臭みのある役者。根岸季衣、木の花、小林聡美など素晴らしい役者がそろっているだけに、「あれ?」と思わされるところがいくつもあって残念。

薄暮シネマ【5月26日~28日】

閉鎖病棟-それぞれの朝―』(2019年/117分/PG12/日本/原作:帚木蓬生/監督・脚本:平山秀幸/出演:笑福亭鶴瓶綾野剛小松菜奈Amazonプライムビデオレンタル407円)★★★

妻と間男を衝動的に殺してしまった男秀丸笑福亭鶴瓶)が、死刑が執行されて死に至らなかったことから、脊髄の障害を抱えながら各地の施設を転々とし、辿り着いたのが某市の精神病院。

ここが映画の舞台となる。

義父の性的暴行に傷ついた由紀(小松菜奈)と自ら希望して入院している中哉(綾野剛)の3人が中心に物語は動いていく。

不安定な由紀は、両親が迎えに来て退院するという話になったとき、部屋を飛び出してエレベータに乗る。ここで秀丸と初めて会うのだが、そのまま屋上に駆け上った由紀は飛び降りてしまう。

結果としてかすり傷で助かるのだが、ここで引っかかってしまった。精神病院の屋上がフェンスもなく簡単に飛び降りるような格好になっているだろうか。屋上には洗濯物を干す看護師もいるのだが、なすすべもない。自殺念慮の人が多いはずの精神病院の管理体制として疑問。

もうひとつ、入所者の重宗(渋川清彦)は暴力的で周囲と全く波長を合わせないどころかきわめて粗暴で危険な男であるのも関わらず、院内の売店で買い物をしているときに同行していた看護師の目を盗んで由紀を追い、陶芸の為の小屋で強姦してしまう。

これも疑問。行動に注意を要する患者に対しての危機管理が全くなされておらず、さらに由紀はそのまま病院から抜けだしてしまう。

ふたつの出来事は物語の重要な位置を占めるのに、「ありえない」ような設定で起きているため、ちょっとしらけてしまう。

秀丸はその事実を知って重宗を院内でナイフで刺してしまう。重宗はなくなり、秀丸は新たにまた殺人犯となる。

裁判で由紀が出廷して初めて事実が明らかになるのだが、傍聴している看護師には動揺が見られない。病院の管理体制が問題にならないのがとにかく腑に落ちない。

原作を読んだ記憶があるのだが、はてどうだったか。帚木蓬生の小説は名作『三たびの海峡』以下、若いころにたくさん読んだ。ディテールで疑問に思うことはないくらい、優れた書き手、ということは脚本の問題か。

鶴瓶の演技はよく抑えられていてよかった。綾野剛もトリッキーな役が多いが、この映画ではシリアスな演技がよかった。母親役の片岡礼子、独特の臭みのある役者。根岸季衣、木の花、小林聡美など素晴らしい役者がそろっているだけに、「あれ?」と思わされるところがいくつもあって残念。

 

『物置のピアノ』(2014年/115分/日本/監督:似内千晶/出演:芳根京子 平田満 織本順吉)★

 

3・11後のフクシマを題材とした映画ということから選択。2012年の中通り桑折町が舞台。風評被害、保証金、放射能の影響などいろいろな問題を盛り込んでいるが、とにかく脚本が練られておらず、「どうしてそうなっていくのか?」という疑問ばかりが膨らんでいった。リズムもなく、行間が妙に広かったりして、映画としての体裁が出来ていないと思った。芳根京子という役者(この間まで深夜のドラマ『レンタル兄弟』に出ていた)のためにつくったような映画だが、ファンにはうれしいものだと思うが、正直がっかり。『子どもたちをよろしく』と同程度の出来の悪さだと思った。

桑折町の風景のシーンはよかったが、方言がひどい。南東北、北関東の独特のイントネーション感じられず。手抜きとしか言いようがない(この間みた『六月燈の三姉妹』の鹿児島弁はみごとだった。字幕が欲しいほどだった)。

 

墨攻』(2006年/133分/中国・日本・香港・韓国合作/監督:ジェイコブ・チャン/出演:アンディ・ラウ ファン・ビンビン)★★★

紀元前3世紀ごろの中国が舞台だが、原作は酒見賢一。日本人が書いた中国小説を中国人が中心になって映画にしたということだ。

酒見賢一の作品は、孔子を描いた大長編『陋巷にあり』(1992年~2002年13巻)『後宮小説』(1989年)そしてこの『墨攻』(1991年)などを読んだ記憶がある。ビッグコミックで連載された森秀樹の『墨攻』の原作にもなっている。1992年から1996年まで連載されたものも毎回読んだ。いまだに絵はしっかり覚えている。こちらもいい作品だった。

 

墨家の革離役のアンディ・ラウは超いい男だし、ファンビンビンもきれい。でも2時間余の話にしてしまうと骨がらみに感じてしまうし、墨家の思想そのものが単純に近代の平和主義のようになってしまい、深みが感じられなかった。スケール感も今一つ。おお!と驚かされるところがもっとあるといいなと思った。

 

 

 

二日続けてCDを送ってもらった。こんなことはなかなかない。

今回は大阪のSさん。

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イアン・ボストリッジの『冬の旅』(シューベルト)。

2度、聴いた。今まで聴いたことのない『冬の旅』だった。すごい。個性的な解釈。

ジャケットもしゃれている。