見ている途中で席を立ちたくなる、そんな映画をまた見てしまった。
『家族を想うとき』のあとに、時間が空かずに見られる話題の映画、どうせこういう映画はね、なんて思いながら時間つぶしにチケットを買ってしまう自分の締まりのない性格がいやだ。いい歳なのに。
『ベートーベン』のタイトルをみて、音楽映画だと思って映画館に入ったら犬っころの映画だった(実話です)というのとはまた違った肩すかし感を感じた映画。
寺脇研という人物、世間的にはよく知られた人で、マスコミにもよく顔を出す。
初めて彼を見たのは、90年代半ば、広島で全国の夜間中学の研究会が広島で開催されたとき。
40代の若い教育長として壇上で挨拶をしたとき、なぜか夜間中学に通っていた在日のオモニたちは激しくヤジを飛ばしていた。
キャリア官僚として文部省(当時)から出向した彼は、広島県の教育長を3年務めて、本省に戻り、数年後「ミスターゆとり」と呼ばれるようになる。
今世紀初めの鳴り物入りの教育改革『ゆとり教育』・・・「2002年には勉強の分からない生徒はゼロになる」というのが有名な彼の迷言である。
私はその頃から、現場教員の1人として教育改革批判を自分のテーマとしてきた。
次官レースに敗れたのか、それとも自分から降りたのか、今では映画評論家、大学教員。
その彼が、元文科省次官の前川喜平とともに企画を担当したのが、
『子どもたちをよろしく』(2019年/105分/日本/監督:隅田靖/鎌滝えりほか/2020年2月29日公開)
「寺脇研が、「デリヘルの運転手の息子」を基本構想に、隅田靖に声をかけ、4年前から練り上げて“社会派”劇映画として制作した作品」(映画ドットコムのレビューから)だそうだ。
” 社会派”劇映画か。こういうのを”社会派”というのか?
タイトルが気持ち悪い。どういうメッセージなのか。よろしく、と云っているのは誰なのか。
脚本、ほとんど練られていないと思う。無駄な繰り返しが気になって仕方がない。
登場人物に深みとか陰影が感じられない。物語に流れも脈絡もない。
たとえばいじめのシーン、たとえば継父と妻の連れ子の娘との関係。夫と妻のアルコール依存症(お酒が二人とも群馬の酒「赤城山」なのは面白いけど)。私には全編どこからもリアリティが感じられなかった。
意味もなく(と私は思う)長いシーン、唐突なシーンが多い。
演出、中途半端。パターン化したセリフ回し。
暴力シーン、絶叫シーン、走るシーンがやたらに多い。まずい映画の一つのパターン。
結論、ひとりよがりな映画だと思う。
どれほど、高邁な理念があってつくられても、所詮は映画の面白さがなければ、退屈なだけ。
お金をかけられなくても(教室のシーンがないのはたぶん資金不足)、邦画にはもっとすぐれた作品がたくさんある。
映画のつくり方が粗雑過ぎること。企画者である寺脇+前川という文科省コンビの、社会や子どもの現実を見る視点の浅さと謗られても仕方ないだろう。
なんだか文句ばかりつけているようで、あまり気分はよくない。
見るということはいくらかでも期待があったということ。残念である。